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結4 望まぬ再開

 噴水前のベンチで、ルイシアは待ち人を待つ。ユイシークが、女神降臨祭に合わせて準備を進めてきたことを塔子に調べさせていたルイシアは知っていた。

「久しぶりだね、ディアナ。待たせてしまって、すまなかった」

「いえ、私が早く着きすぎてしまっただけですわ。お久しぶりです、お兄様。先ほどの騒ぎが長引かないうちに、早々にお暇させていただいたのですわ。殿下たちが、あの公爵の処罰について話し合うので、私は先に部屋に帰ってゆっくりしていなさいと言わたのですわ……ここで、こうしてお兄様にあっているのが殿下にばれたら怒られてしまうかしら?」

「あの騒ぎのおかげで、ジュリアストレイ公爵が、例の件での犯人だと確信できたよ。これで、ボクは報復しなければならない人間を特定できたよ。関係ない人を巻き込むのは、あの子は喜ばないからね」

 例の件―――「ディアナ」が暗殺された件で間違いないだろう。関係ない人を巻き込みたくないなんて、大ウソだとルイシアは、こみあげてくるいら立ちに蓋をする。ルイシアはもう十分に目の前の男の事情に巻き込まれているのだ。

「そうですか。お兄様、特定したのはほかの人を冤罪で殺さないためですか?」

「あぁ。大切な人を失う悲しみをぼくはこれでも知っているつもりだよ。同じような思いは、犯人だけで充分だろ」

 夜会だというのに、腰に研ぎ澄まされているだろう剣を下げているのは、犯人をその手で殺すためか、それともルイシアを今この場で処分するためか。

「お兄……」

「ボクをお兄様と呼んでいいのは、ただ一人だけだ。キミが、呼んでいいものではないよ。その呼び方をしていいのはあの世にいるディアナだけだ。もう、キミの役目が終わっていることに気が付いているよね」

「私の役目は、ディアナ・バル・フロディエンドの身代わりとして後宮の住人になること」

「そして、犯人を見つけだすためのえさになることだ」

 ルイシアは、隠れているクロムウェル達に聞こえるように、はっきりと一言一言告げる。かさりと茂みの奥で動き一瞬だけあったが、そのあとまた静かになった。見ていないけれど、塔子かレナードに抑え込まれて、出ていくのを止められたのだろう。

「ねぇ、ユイシーク。あたしが、公爵の毒で死ぬとは思わなかったの? あの時点であたしが死んでいたほうが、アナタにも都合がよかったんじゃないの?」

「都合が悪いね。キミはボクがこの手で殺そうと決めていたんだ。完全にボクのわがままさ。それにね、ルイシア。キミが、あの毒で死なないようにボクの方だって対策を用意しておいたんだよ。まぁ、無駄に終わったけどね」

 綺麗な顔に浮かぶのは、嫉妬や憎悪、憤怒が混ぜ混ぜになったとても美しくはない感情。ユイシークは、胸の中にしまっておいた小瓶をルイシアの方へ放り投げる。反射的に掴み取った後、瓶の中身を月光にすかしてみる。茶色がかった緑の液体が、たっぷりと入っている。注意深く栓を抜いて見ると、それが希少価値の高いローネシアの月滴草の解毒剤だということが匂いで分かった。ルイシアは、塔子に頼んで材料を集めて作り上げるまで、かなりの時間を要した。この解毒剤は、市場や裏ルートでもめったに手に入れることができないので、魔女の知識を総動員支えて作り上げたのだ。ユイシークはいったいどう屋ってこの解毒薬を用意したのだろう。なぜ、あの公爵が盛る毒薬が絞り込めたのだろう。

「めったに手に入らないお宝じゃない。売れば結構な値段がつくに間違いないわ。どうやって、手に入れたの」

「知り合いのつてをたどってね。今キミに渡したもの以外にも致死性のものに対しての解毒剤は一通り手に入れたよ。キミの最近の活躍を聞いて、この夜会が一番怪しいと思って、今ここにあるトランクいっぱい解毒薬を集めたよ。キミを殺すのはボクだ。盗賊だったキミが妹のふりをするのをボクがどんな思いで見ていたと思う? キミには想像もつかないだろうね」

 ユイシークの手で開けられたトランクの中には、薬の瓶が雑多に入れられている。どの瓶にもラベルが貼られている。

 殺すために生かす。

 他人に毒殺されるのを防ぐための解毒剤。

 ユイシークの手で、ルイシアの命のともしびを蹴散らすためにトランクいっぱいに集めた解毒薬。無駄な、努力としか言いようがない。それでも、この男は、その無駄なことをやり遂げた。すべては、ルイシアの息の根を消すため。ルイシアは、ドレスの中に仕込んだ刃物がきちんとあることを確認する。

「でも、どうしてかキミはボクの用意した解毒薬を飲まずに生き延びている。自前で解毒薬を用意するなんてね。まったく、キミには驚かされてばかりだ。キミこそ、どうやって解毒薬を用意したんだい? 後宮から出られないかごの鳥である妹の名をかたる偽物風情が!」

 語気が時間がたつにつれて荒上がっている。さっきから、ユイシークは意図的にルイシアと目を合わせようとしていない。姿を見るだけで、声を聴くだけで、死んでしまった「ディアナ」を彷彿させるルイシアは、彼にとって目の毒なのだろう。

「私のフルネームはね、ルイシア・フィア・メイルーンっていうのよ」

「メイルーン―――魔女の血筋か。くっくっく。では、公爵は魔女を毒殺しようとしたのか。たぐいまれなる薬剤の知識と調合力を持つ魔女の末裔に、毒殺! なんて無意味なことか。あはは、キミから見たらボクもあの男も随分と滑稽なことをしているように見えたわけだね。魔女が毒殺されることを防ぐために解毒薬を集めていたなんて!!あははは」

 張りつめていた線が、切れたように笑い出すユイシークを、月光の下たたずむ少女は、胸中に覚悟を決めて、一世一代の賭けに出た。

「壊れたのね」


 そしてついに、ユイシークは長年の我慢の限界で腰に下げていた剣を引き抜くと、騎士として鍛え上げた身体能力で一気にルイシアに近づく袈裟切り剣をためらいなく振るった。



 夜空に緋色の花が狂い咲いた。



明日は、テストなので更新できません(>_<)休日まであと一日待ってください。

お気に入り200越え、初めてのことなのでとても驚いています。これからもよろしくお願いします。

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