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転3  暗躍する人々

 ルイシアが、クロムの寵姫であるという噂が、後宮外にも漏れだしたころ、焦っている人間か何人かいた。それは、ガーネットの間を与えられたエリメラを娘に持つジュリアストレイ公爵であった。自分の娘を後宮にあげ、王太子殿下の目に止まり寵姫になることを夢見ていた公爵は、ほかの有力対抗馬であるフロディエンド家の令嬢ディアナの暗殺を彼女が十にも満たない幼子の頃から目論んでいた。すぐに効果の出る毒ではなく、微量でも長年接種すると風邪に似た症状のまま死に至る毒薬ヴァーリゴードをフロディエンドの屋敷に潜ませた侍女に命じていたのだ。

 そのためディアナ上は見目麗しく成長するのと同時に病弱になっていきそして後宮に上がる前に計算通りに不自然でなく死に至ったのだ。ゆえに、ディアナ・バル・フロディエンドが、後宮に上がり宝玉の間を与えられ王太子の寵愛を受けているというこの状態は明らかに異常であったのだ。死んでいるはずの人間が、生きているなどあり得ない。報告をしてきた侍女が嘘をついているのかと思い拷問にかけてみたけれど、結果は変わらず。ディアナの死が確定だとしたら、ラピスラズリの間に図々しく居座り王太子の寵愛を受けている娘は偽物のまがい物であるということだ。


「必ずあの女狐の正体を白日の下にさらしてやる。そして、娘のエリメラを今度こそ王太子の寵姫にしてやろう」


 クックックとのどを震わせ公爵は、赤ワインを飲み干した。公爵は知らない。自分の娘であるエリメラが、夫であり時期君主となるクロムウェル王太子殿下のことを恐れているという大事なことをしらない。もし、公爵の言葉をエリメラが聞いていたら全力で辞退しようとしていただろう。


「女神の降臨祭が、楽しみだな!」




 ユイシークは、父であるフロディエンド公爵が、焦っていることに気が付いていた。王宮にまことしやかに流れている噂のことはユイシークも耳にしていた。自分が見つけてきた妹にそっくりな娘が、殿下の寵愛を受けているという噂。煙のないところに火は、立たない。おそらくこの噂は本当だろうと、ユイシークもまた判断していた。

 今までの殿下は、特定の女性と関係を長期間結ぶことはなかった。そのことから考えてもおそらく、ルイシアが皇太子妃となる未来がそう遠くないでああろうことが推測された。現に、レナードたちが静かにディアナについての情報を水面下で探っている。表向き公爵家の令嬢となっているのだから、身分的にも問題がないはずだ、ユイシークが必死に隠している情報さえ見つからなかったら彼女は未来の国母となる。


「なぜ、人質を解放したんだ! あれさえあれば、あの娘を意のままに操ることが可能だったんだ! 勝手なことをしてくれたな、ユイシーク!!」


 自分にとって都合のいいとは言えない状態に陥っていることに対していら立ちを隠さない父をユイシークは白い目で見つめる。ユイシークは、ディアナを道具として扱い、道具として育てたにもかかわらず、その性能を発揮することなく壊れた娘を嘲笑った。

 そして、ユイシークが見つけたルイシアを、身代りにすることを提案したら嬉々として喜んだ。人質がいるため素直に従わざる得ないルイシアに、父は最高の令嬢と見えるように教育をほどごした。実の娘以上の性能を発揮できる彼女に喜び、本物の娘の存在を落とす。吐き気がするような光景だった。それでもその計画に加担したのは、フロディエンドという家名のためだった。妹の最後の遺言は、「お兄様、フロディエンド家のことをよろしくね」というものだった。


「そういう契約でしたから……それに、後宮という籠の中から彼女はもう逃げだせない」

「だが、私の思い通りに動かすことはできない。ユイシーク、お前はあの盗賊の仲間を一人でもいいから見つけ出し生きたまま連れてこい」

「無理だと思いますがね。一応やってみますよ。お父様」


 慇懃な態度でそう告げ、後から降ってくる父の言葉に無視を決め込み自室に戻る。ろうそくの明かりが揺れる自室の壁に飾られた妹の似せ絵を眺めながら、空に浮かぶ白銀の月と同じ色の髪を持つ本当のディアナのことをユイシークは、大切にしていた。妹を暗殺しようとした存在が、許せなかった。

 妹の動かなくなった亡骸を見たあの時、ユイシークは復讐を女神に誓っていたのだ。逃亡する男爵の馬車を襲った盗賊の中に、あまりにもそっくりな容姿を持つルイシアを見たときは、あっけにとられた。


「ルイシア、キミはおとりであることに聡明だから気が付いているよね。ボクは、キミが許せない。妹と同じ顔をしているのに君はのうのうと生きて妹がいるはずだった場所にいる。すべてが終わったその時は、ボクが、この手で君を……」


 自分の手で進めて自分の手で終わらせるために、王太子と対立している派閥のもとに偽りの名をかたり紛れ込み、とても身勝手な計画をユイシークは進める。ユイシークは、彼の背後にある黒い影の集団に気が付かない。




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