第一章...旅立ち
ジュラ「師匠...。
薬草を貰ってきました。」
師匠「すまんな...。」
ジュラが十八になったある日、師匠が不治の病にかかってかなり弱り、寝たきりになっていた。
師匠「ジュラ...よく聞け。」
ジュラ「はい。」
ジュラは被っていた白い羽根というシンプルな装飾の帽子を脱ぎ横に置いた。
師匠「お前はもう立派な剣士になった。
旅立つのだ。」
ジュラ「何を急に!
ボクは師匠の側にずっといます!」
師匠「甘えるな...。
私は人に甘えることなど教えていないぞ...。」
師匠は力なく笑った。
師匠「お前は世間知らずの箱入り娘だ。
お前は滅び歪んだセカイを見てその戦禍に身を委ねなければならない。
これは私が与える最後の試練だ...。
セカイはお前を必要としている...。」
ジュラ「師匠...」
ジュラは涙を流した。
師匠「旅に必要なものはそこに用意している。」
師匠は壁に立てかけてある麻袋を顎で指した。
師匠「後は...女として必要なものだけを買えばいい。」
ジュラ「ありがとうございます...」
ジュラは頭を下げた。
師匠「行け、若人よ。
世界へと旅立つがいい...」
師匠は目を閉じると眠った...。
*********
ジュラ「とは言え...」
ジュラは頭を掻きながら露店を見て回る。
ジュラ「男物しか着たりしたことないから分かんないなぁ...」
男物のパンツやシャツを買っていると店員に不思議がられた。
ジュラ「さてと...。
師匠もあの調子だし旅に出よう。
待てよ...旅には従者が欲しいよなぁ...俺の武勇伝が未来へ語られるんだ。」
グヘヘヘと少し下品に笑っていると何か...虫の知らせを感じた。
ジュラ「虫の知らせは無視できない...なんちゃって。」
ジュラは急いでそれに従い走った...。
着いた先は森の奥にあるとある民家。
そこに繰り広げられていたのは....。
?「この出来損ないが!!!!」
なんと...エルフ族の娘が彼女の父親と思われる男に何度も顔を斧の腹で殴られていた。
ジュラはそれを見ていられなかった。
ジュラ「ゼフォン!
あの男を止めろ!」
ゼフォンは小さく唸るとどしどしと走り斧を口にくわえかみ砕いた。
父「だ!誰だ!?」
ジュラ「余計なお節介失礼。」
ジュラは娘を立ち上がらせた。
ジュラ「娘をこんなになるまで殴るとは言語道断!」
ジュラの気迫に父親は怯んだ。
父「なぜ他人がこの家に関わる!
この娘には体罰を与えていたんだ!」
ジュラ「死ぬまでボコボコにするのが体罰ってか?ああ!?」
父「あいつはな!出来損ないなんだよ!
家事は出来ないわ、家族の中で一番のろまだわ....」
ジュラ「たったその程度の理由か?」
ジュラは父親の襟首を掴むと軽々と持ち上げた。
ジュラ「俺には家族がいねえ。
だがな!
本当の親っていうのはな!
子供に真心持って接しねぇといけねぇんだよ!!!!!」
ジュラの声が空気を痺れさせた。
しかしジュラの訴えに反して父親は...
父「お前のせいで面倒な事になったろ!」
あくまで娘を罵った。
ジュラ「じゃあこうするよ!」
ジュラは父親を放すと娘の手をとった。
ジュラ「娘は俺が引き取る。
ちょうど従者が欲しかったからな。」
娘「いいんですか?...私みたいな役立たずで....」
ジュラ「構わない。
ついて来い。」
ジュラの言葉に娘の顔がパアッと明るくなった。
だが...。
父「そうか!ならお前を勘当してやる!
二度と帰ってくるな!!!!!!!!」
父親は怒り狂い家に戻った。
*********
娘「ありがとう...ございます。」
彼女の家族はみな醜い容姿をしていた。
原因は恐らくこの美しい娘への嫉妬だろう...。
娘「私、エリンと言います。」
ジュラ「ジュラだ。
よろしくな。」
ジュラはエリンと握手を交わした...。
*********
エリン「従者って何をすればいいんですか?」
水浴びをしているエリンが傷だらけの顔で尋ねた。
彼女の傷は見ているだけで痛々しいものだった。
焼印、切り傷、打撲、痣...。
それらが体中にもう治らないと言っているかのようにあった。
エリン「気に...しないでください♪
疼くくらいでもう痛くありませんから。」
エリンは薄幸な笑顔を見せた。
ジュラ「分かった。」
ジュラも水浴びをしている。
姫君のような美しさを持つ彼女は本当に高嶺の花の雰囲気を漂わせていた...。
ジュラ「お前にはゼフォンの世話をしてもらいたい。
ダークウィングドラゴン族だが大丈夫か?」
エリン「大丈夫です!
任せてください!」
エリンはトンと胸を叩いた。
*********
ジュラは師匠からもらいうけた馬にエリンを跨がらせた。
ジュラ「安心しろ。
俺はゼフォンに乗っていく。
ザスティンは長期的な歩行ができる。
アイアンツインブレイカー族は大戦向けの種族。
飲まず食わずで半年歩き戦える体力があるからな。」
ジュラは自信たっぷりにゼフォンに跨がる。
ジュラ「頼むぞ、ゼフォン...。」
ゼフォンは二つの頭で辺りを見回すと...歩き始めた。
その背にジュラの暗い影を残して........。