ゆいこのトライアングルレッスンB 〜未来からの贈り物〜
「小説家になろうラジオ」恒例、「ゆいこのトライアングルレッスン」です。大好きな巽悠衣子さんのお誕生日記念に。
「おい!焦げるって!」
「わかってる!」
たくみが慌ててフライパンをあおると、じゅっとバターが跳ねる音とともに、香ばしい匂いが部屋中に広がった。ぎこちなくフライパンを振るたくみを横目にひろしは不安げに溜息をついた。
「……本当に大丈夫かよ」
「大丈夫だって!それにお前だってケーキのスポンジ焦がしただろ!」
「それは…」
「大丈夫だって!」
「おい!フライパンから火出てるぞ!」
口喧嘩を交えながらも2人の手によって一品、そしてまた一品と料理が並び始めテーブルを彩っていく。
「……俺ってもしかして天才?料理の才能ある感じ?」
「いや、それはない」
2人がそんなやり取りをしていると玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー……って、どうしたのこれ?」
キッチンに入ってきたゆいこはテーブルの上の料理を見て目を見開いた。
「おかえり。お疲れ」
ひろしが振り返って、エプロン姿のまま笑う。
「誕生日だろ、今日」
たくみは照れ隠しのように視線を逸らしながら、焼けたばかりのグラタンをテーブルに置きながら言った。エビがたっぷりのったグラタンの香ばしい匂い、香草チキンのスパイスの匂い、そして大好きなパンの焼けた匂い。見た目は不恰好だし、少し焦げているが、どれも手作りの暖かさが滲んでいる。
ゆいこは一瞬、言葉を失ったように2人の顔を見つめたあと、笑みをこぼした。
「……これ、全部……2人で?」
「おうよ!」
「味の保証はないけど」
「……ありがとう。本当に、ありがとう」
2人がこうして自分のために料理を作ってくれる日が来るなんて――
ゆいこは涙をこらえながら、笑顔で椅子に座った。
「ケーキもあるんだぜ」
「ろうそくつけるよ。たくみ、電気消して」
ひろしがライターでケーキに火を灯し、たくみが部屋の明かりを消す。
淡いロウソクの火が、3人の顔を照らした。
「誕生日、おめでとう!」
ひろしとたくみの声が重なる。
ゆいこは静かに目を閉じて、願い事をする。
(どうか、この幸せな時間が、ずっと続きますように)
願いが終わり目を開けると、そこには見慣れた天井があった。陽の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。
(……夢?)
手を伸ばしてみたが、料理も2人の姿も、そこにはなかった。
「ママ!!」
自分を呼ぶ声と同時に、どたどたと、ふたつの小さな足音が廊下から近づいてくる。
「おたんじょおび、おめでとう!」
「とぉ〜」
部屋のドアが勢いよく開く。入ってきたのは、4歳になったばかりのひろしと、2歳になったたくみ。
「ママ、抱っこ!」
「抱っこ!」
2人はベッドに飛び乗って、ゆいこの体にしがみついてきた。
ゆいこは小さく笑って、2人をぎゅっと抱きしめる。
間違いなく夢の中で料理を作ってくれたのは、大人になったこの子達だった。
(あの夢は、未来の記憶かもしれない)
ゆいこは2人の小さな手を取り、こう言った。
「大人なひろしとたくみも、小さい2人も大好きだよ」




