ある魔女の死んだ日
魔女は忌み嫌われる存在だ。
「不吉の象徴」、「危険」、「人と違うモノ」。
人と違う"それ"は見つければ即座に排除しなければならない。
子供は皆、そう教え込まれ大人になり、自分の子供にもそう教え込む。故に、長寿であり、人ならざる者の言葉を聞きくことや、自然の力を借りて「奇跡」を起こすことができると言われる「魔女」は、自身の安全のため、人目のつかない森の奥深くに住んでいる。森の恵を受け、必要最低限の獣を狩り、ときに自然の力を、人ならざる者の借りて「奇跡」を起こす。空を晴らしたり、逆に雨を降らしたり、鍋に火をつけたり、作物の成長を早めたり。世界に何の影響も与えないくらいの小さな「奇跡」。でもそれは世界を守るため、人々を守るため、自分を守るための魔女の「ルール」。決して世界の理から外れたことをしてはいけない。石ころを金に、土を人間に、木を動物に、水を魚に、空気を鳥に、魔女はそれを可能にするが、決してしてはいけない。世界の理から外れたことを繰り返せば"元の世界"に戻れなくなる。だから魔女はそれをしない。どれだけ自分を虐げてきた人間が憎くても。だから私は自分を虐げてきた、殺そうとしてきた人達を許さないけど、復讐はしない。僕の家族に被害が及ばぬように。決して儂の家族が危険な目に遭わぬように。魔女だと知っても優しくしてくれた"血の繋がらない家族"だとしても、妾の大切な思い出で、俺の大切な居場所。私の長い人生の間でいつか魔女が日の下を歩けるような世の中になって、いつか魔女のに対しての認識が変わったら、そのときは儂の大切な家に行こう。何百年、何千年かかったとしても。
長い長い時が経った。どれだけ石を投げられても、罵倒されても、殺されかけても抗議を続けたおかげなのか、人々の魔女に対する認識は随分と変わった。今では魔女は日の下を歩くことができている。俺も、大切な家族がいた、思い出の詰まった大切な家で暮らすことができている。生まれてから長い時を過ごしてきた。辛い思いも、痛い思いもしてきた。それでも、諦めなかったおかげで今の幸せな日々がある。何千年という長い生の中でようやく"普通"の幸せな生活を過ごせている。この幸せを今日も、明日も、いつまでもかみしめて生きていこう。
そこは地球かもしれないし、地球の裏側かもしれないし、現在かもしれないし過去かもしれないし、もしかしたら未来かもしれない。地の果てかもしれないし中心かもしれない場所で、男かも女かも若人かも老人かもわからない"魔女"が死んだ日。
幸せをかみしめて死んだ日。
願いを叶えて死んだ日。
いろんな人に惜しまれて死んだ日。
世界の何処かで一人の赤ん坊が産声をあげた。




