4-21母上はバカですか
「ダメですよ、それでは母上が……悪者に」
何を言っているの。そうじゃない。そうじゃないわ。利用するの。使い捨てればいいの。
不意に母上が距離を詰めてくる。次いで体が温かい何かに包まれた。すぐには分からなかったが、私は抱きしめられたらしい。そういえば、母上はよく抱きしめてくれた。
「ヴィオラちゃんは強いと思ってた……そういう顔もできるんだね、少し安心した」
母上の抱きしめる腕が、少し強くなる。
「私の前ではそれでいいのよ、頼りないかもだけど、お母さんがあの人と刺し違えてでも、守るから」
「母上……」
この人は頭が悪い。刺し殺してしまえば、面倒な事になる。それをわかっていない。でも母上は私の事を守ろうとしてくれている。
思い出すのよ、私。私は私を信頼してくれる人を、助けようとしてくれる人を、共に立ってくれる人を守るべきだ。悪意を向けてくる者には残酷に。好意を向けてくれる者には優しく。残酷過ぎてもいけない、優しすぎてもいけない。
「……母上、あなたは本当にバカですね」
私はそっと母上を押しのける。これは拒絶ではない。ともに歩くために、お互い歩きづらくない様に、適度な距離をとるためだ。
「バ、バカって、今そういう感じの雰囲気じゃなかったようなぁ」
母上が苦笑を浮かべた。私はつい面白くなってしまい、笑ってしまう。
「はは、そうですね、空気が読めなくてすみません」
気を取り直して、という感じで苦笑を引っ込めた母上が「とにかく私がその短剣で」と手を伸ばしてくる。まだそんなバカな事を考えていたのか。持っていた短剣をヒョイと頭の上まで持ち上げる。
「だから、母上はバカですか」
「なっ、バカってそんな何回も、さすがにひどいわ、ヴィオラちゃん」
さっきまでのシリアスな雰囲気は、どこへ行ってしまったのだろう。母上はプリプリと怒っている。それを見て少し笑ってしまった。私は甘くなったとつくづく思う。でもこれぐらいで、いいのかもしれない。
「とにかく、母上のバカ計画はなしでお願いします」
「も、もぉ、バカってまたぁ」
そんな事を口にしながら、母上は抗議するように握った両手を上下に軽く振った。こんなに可愛い人だっただろうか。バカだからこそ、あの豚に騙されて、のほほんとあんな風に肥え太った豚になってしまったのだろうか。
「ヴィオラ様……ここで合っているでしょうか」
不意に部屋の外から、そんな声が聞こえてくる。ドア越しだから少し聞こえづらいが、ユウマの声だった。頼んでいたアレを持ってきたのだろう。




