4-20これで何を?
つい声を出して驚いてしまった。母上は細くなっていた。元が豚の様に肥え太っていたから、スリムと言えるほどではないが、それでも明らかに痩せていた。
「驚かせちゃったみたいね、とりあえず中に入って」
母上が力なく微笑む。ドアを開けたまま立ち尽くしてしまっていた私は、中に入って後ろ手にドアを閉める。
「こんな格好でごめんね」
母上が視線を下に落として、初めて気づいた。そういえばドレスを着ていない。痩せてしまったせいでサイズが無かったのか、シンプルなシャツにスカートを身に着けていた。
「ちょっと食事が喉を通らなくて」
母上がそう言って苦笑する。もしかして、私の事を聞いたからだろうか。いや、そんな訳がない。母上だってあの豚と一緒で、自分の事しか考えていないはずだ。
「……もしかして私の事で?」
ついそんな言葉が漏れてしまった。ありえないと思いながら、なぜか口にしてしまった。
「……ずっと考えていたの、ヴィオラちゃんとあの人の事」
「それで?」
「あの人は所詮他人、ヴィオラちゃんは私の娘、今顔を見て決心がついたの」
先ほどより母上の表情が少し明るくなった。
私はこれを期待していたのかもしれない。暗殺なんてしようとする父上。でも母上はもしかしたらと。それを確かめたかったから、トーマスとルーに、伝える様に言ってしまったのかもしれない。あんな必要のない指示を、してしまったのかもしれない。
私は甘くなった。今日ここに来たのは母上を脅迫し、計画の実行犯に仕立てる為だった。だがその考えが揺らいでしまっている。
ふと思い当たる事がある。母上の決心という言葉。それと部屋に招き入れられる前に、何やらやっていたらしい微かな物音。
部屋を見渡す。二脚の向かい合わせに置かれた椅子と、それ以外には鏡台だけだ。鏡台の前に移動すると「あっ、そこは」と母上が反応する。何かを隠していると言わんばかり。
鏡台の一番大きな引き出しを開けると、中には短剣が隠されていた。整頓された化粧道具たちの上に、無造作に置かれた短剣。元からあった一つではなく、今さっき急いで隠したという感じだ。
「これで何を?」
短剣を拾い上げると、後ろにいる母上の方に振り返る。母上は両手を胸の前で握り、少し背中を丸めて悲しそうな表情を浮かべていた。
「あの人を、サベルを……ヴィオラちゃんに手を出そうとするなんて、許せないから」
私はどう反応するべきなんだろう。もともと実行犯として、仕立てるつもりだった。短剣を、こちらで用意した物に持ち替えさせるだけ。手間が省けるじゃないか。喜ぶべき、そのはずなのに。




