4-5男の正体
薬師という単語は聞いたことがない。クスリシと言い換えから考えれば、薬を扱う者の事を指す名称なのだろう。
私の知る限りだが、薬は治癒術師が取り扱っている。あくまで治癒魔法の補助的な物として使用されていたはずだ。だから薬のみを取り扱う職業は、少なくともこの国にはいない、と思っていた。
少しの間、言葉の意味を理解する為に呆けてしまった。それに気づいたらしいユウマが、悲し気な表情を浮かべる。
「やはり、あなた程の身分の方でさえ、薬師をご存じないのですね」
そんな呟き。どういう事か、と真意を尋ねようとしたところで、ユウマが言葉を続けた。
「ところで、ヘンリー様は?」
「あぁ、そうね……」
真意は気になったが、しょうがない。まずは本題を片付けるしかない様だ。
「座って、これから事情を話すわ」
ユウマに着席を促すと、私も対面のソファに腰を下ろす。トーマスは勿論、私の後方へと陣取った。
「まずは、事情を話す前に確認したいのだけど、あなたはヘンリーとどのような関係で? 我が領の機密にかかる事でその関係性によっては全てを話せないのよ」
「……なるほど」
少し考えるそぶりを見せるユウマ。そして少しの沈黙の後、微笑みを浮かべて答えた。
「五年前、ヘンリー様から頼まれまして、特別な薬をお譲りしました」
「……ははっ、薬ね」
やっと関係性が見えてきた。ヘンリーは事情を聴いた際に、何かの拍子で、ユウマが薬師という薬を扱う者であると知ったのだ。見るからにこの国の者ではないユウマなら、信用度は低い。ユウマが秘密を漏らしても、それを真実として受け止める者が少ない、と考えたのかもしれない。
「トーマス」
「はい」
私はトーマスに顔を向け、言葉を続ける。
「外で見張りをしてくれるかしら? 周囲の警戒をお願い、この部屋の会話を一切誰にも聞かせないで」
「会話を? ……はい、かしこまりました」
指示の真意をはかりかねている、という感じの表情で、それでも見張りをするためにトーマスは部屋の外に出ていく。先ほどの五年前の特別な薬という単語でも反応しなかったのだから、おそらく気付いていない。この男がヘンリーを助けた。五年前のフレイアの事件の原因の一人だ。その事を知ったら、トーマスはどう反応するか。敵意をむき出しにしそうな気がする。それでは困るのだ。
「先ほどの言葉で、ご理解いただけたようですね」
「えぇ、まぁ……その言い方、やっぱりそういう事なのね」
ユウマは微笑みを浮かべていた。




