4-4謎の男
「なんでちゃんと覚えていないのよ」
「悪事を働いていたわけではない上に、その人物はただの被害者だ、聴取と言えるほどの事をしていない……」
ジャックの言葉がそこで不意に止まった。何かを思い出した様子だ。
「そういえば、ヘンリーが話を聞いていた……その時に?」
「確実にその時の事がきっかけで、つながりができたのね」
しかし、聴取をしただけでそんな間柄になるだろうか。大けがを負ったわけでもないから被害者支援をするような事でもないし、何よりあのヘンリーがそんな良い人の訳がない。だとすれば、その男の事情を聴いて何かを知り、つながりを保つ価値を見出したのか。
「……とりあえず、私が代わりに会うわ、騎士団本部にいるの?」
「いや、一度出直してもらってる、翌日改めて本部に来てもらう約束だ」
翌日。私とトーマスは騎士団本部を訪ねていた。一応、前と同じように街中を走り回って護衛を撒いてある。
騎士団本部にある粗末な応接室に入ると、そこに件の男が待っていた。女の様に長い黒髪をまとめて左肩に垂らしている。それから別の国の出身を思わせる顔立ち。服装も不思議な印象だ。上半身はシャツの上からボタンもない前開きの上着を、体の前面で重ね合わせている。下半身はこの国の男性がよく着るズボンをはいているのがいるのが見える。
男は立ち上がる。その表情は微笑みだった。こちらを見てから変わったわけではなく、最初からそうだった様に思う。なんとも信用しづらい男だ。
「こんにちは、朝から申し訳ないわね」
挨拶をすると、男は軽く頭を下げた。それから変わらない微笑みで口を開く。
「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
本当に私を知らないのだろうか。少なくとも私なら、訪問してきた相手と違う人間が入ってきたら、最初の一瞬は訝しげな表情をしてしまうだろう。だがこの男は、ずっと微笑んでいる。まるでヘンリーが来ない事を知っていたようだ。
「私はヴィオラ・グリム、驚かせて申し訳ないのだけど、この地の領主の娘よ」
男は驚かなかった。ゆったりとした動作で、もう一度頭を下げるだけ。
「これは失礼、存じ上げなかったとはいえ、礼が遅れました」
「……いいのよ」
「寛大なお心、大変感謝いたします」
「それで、あなたは?」
「……私はユウマと申します、薬師をさせていただいております」
「え? なに?」
聞きなれない、というより聞いたことがない単語で、つい聞き返してしまう。くすしと言ったか。職業だろうか。
「申し訳ありません、クスリシとお伝えしたほうが幾分わかりやすいでしょうか」




