4-2ダメな団長
「うぉい?!」
おっさんの汚い声が聞こえてくる。避けられたらしい。後ろ手で目標を見ずに魔法を放ったのが原因だろう。おっさんの姿など見たくなくて、そうしたのだがそれが失敗だった。
「何すんだ! このじゃじゃ馬娘! というか屋敷が壊れるだろう!」
「そ、そうですよ! ヴィオラ様、いきなり何てことを」
トーマスとジャックが声を荒げる。先ほどまでの雰囲気が吹っ飛んでしまった。仕方がない。私はトーマスから離れて、二人が視界に入る辺りに立つ。
「違うのよ、トーマス、これは日ごろの鍛錬の成果を見る為よ」
「た、鍛錬の成果、ですか」
「鍛錬の成果だと?」
ジャックが顔をゆがめた。トーマスの方はよく分からないという表情だ。私は構わず続ける。
「騎士団長たるもの、いきなりの襲撃にも慣れなければいけないと思うのよ」
「なるほど」
先ほどの表情から一変して、目を輝かせるトーマス。言っておいてなんだが、その反応が少し心配になる。素直過ぎやしないか。思い付きの言い訳にこんな反応を。
「おい! さすがにそれはないだろう!」
そんなジャックの抗議の声に重ねて口を開く。言い訳は急には止まれないのだ。押し切る。
「避けるなんてダメじゃない、警護対象や領民が居たらどうするのよ」
「お、おまえ……」
「ダメな団長ね」
私はわざとらしくため息をついて見せる。ジャックはそれを見て怒ったように拳を握りしめる。それから大きく深呼吸をして怒りを鎮めた様だった。
「……自分がダメなやつというのは、分かってるつもりだ」
怒りで握り締めたはずの拳が、悔しさと後悔で握り締めたように変わっていた。突然の変わり身に、少し驚く。急にどうしたんだ。
「ど、どうしましたか?」
さすがにトーマスも驚いたようで、心配を言葉にする。ジャックはしばらく黙った後、痛々しささえ感じる悲しさを浮かべた。
「フレイア団長は……いやフレイアさんは、どうしてる?」
「あぁ、そういう」
先ほどの表情は、フレイアの事への後悔からきているらしい。
事件当時ジャックは副団長、フレイアの部下だったらしい。ヘンリーにしてやられて、それなのに団長という地位に収まってしまった。そして、フレイアは五年も牢に入れたままだった。何もしなかったのだ。
このおっさんには妻と子供がいると言っていた。所詮はフレイアの自由と自分と自分の家族の幸せを天秤にかけたのだ。そして、フレイアの自由を犠牲にする方を選んだ。その後悔にかけてやる優しさなどない。




