3-16あなたの名前は
地下牢を出て部屋に戻ろうと思ったところで、廊下の先に騎士団長の姿を見つける。話がしたいと思っていたところに姿を見つけるなんて、本当に私は幸運に恵まれているわ。あちらも私に気づいたらしく、ため息をついている様に見える。離れているのにそれとわかるという事は、わざとらしく大げさにしたという事だ。本当に嫌われている。あのおっさんに嫌われようと、痛くも痒くもないがw
「おとなしくできないのか、バカ娘」
私が近づいていくとしかめっ面をしたと思ったら、聞こえないと思ったのか騎士団長は小声でそんな事を口にした。
「聞こえてるわよ」
目の前まで到達したところで、一応言っておく。
「あぁ、聞こえるように言ったからな」
わざとか。まぁここまで嫌われているなら、今さら印象を気にしても意味がない。名前を聞いてもいいだろう。
「騎士団長、あなた名前なんて言うのかしら?」
「……お嬢様よぉ」
呆れた様子で騎士団長が声をあげる。だがすぐ諦めたらしく「もういい、ジャックだよ」と名乗ってくれた。
「では、ヘンリーというのは? 五年前参事長だったヘンリー、今は何をやっているの?」
ジャックが一瞬だけ顔を強張らせる。ただ名前を問われただけだ。おかしな態度をとるのは不審である。そう考えたらしいジャックは、自分の名前を問われた時と同様に、呆れた様子で答えた。
「ヘンリーは副団長だ……一般騎士ならまだしも、俺も、ヘンリー副団長も、ある程度顔見知りだろう、今さら名前を聞いてくるって、どんだけ興味がないんだ」
ジャックの小言。そんなこと言われても、興味がなかったのだ。というかイケメンでも何でもない。むしろ覚える意味があるのだろうか。こんなむさくるしい筋肉だるま。
「用はそれだけですか?」
「えぇ、もういいわ」
一応秘密でここまで来てるから、あまり長居はできない。ジャック団長に軽く手を振ってから、すれ違うように歩き始める。
「あっちから来たって事は……もしかして、フレイアさんに」
突然、後ろからジャックの声が聞こえてくる。
「えぇ」
振り返らずにそう答えると、ジャックは掠れた声で「……そうか」と返してくる。せっかく立ち止まってやったのにそれだけか。こんなおっさんを気にかけてやるのも面倒だ。私は歩みを再開させる。
「さて、部屋に戻って段取りをつけないいけないわね……くははっ!」
ジャックには聞こえただろうか。あなたが何もできなかったから、代わりに私がケリをつけてやるのだ。それを察して、感謝なさい。




