2-24視察
市場を作る、と行動を開始してから一年が過ぎた。
移住したスラムの者たちは、必死で農地を耕している。一年かけてやっと種や苗を植えられるぐらいにはなった、という所だ。スタートラインに立つ事ができたと言えるだろう。農業については全く分からないし、学ぶ気はないので知らんけど。とにかく税収を得ることができれば、それでよい。
元スラムの市場予定地は、貴族に雇用され押し付けられている状態から脱却したい、という者たちが清掃を進めている。狙い通り出費をすることなく市場化できそうだ。ただ、数十年単位で汚れがたまっていたせいで、そう簡単に綺麗にはならない様だ。そろそろ食べ物系以外は売り物を出せそうだが。
私は何もしていないのに平民たちだけのネットワークで、話が広がったらしい。どういう訳かわからないが、嬉しい誤算だ。私が大々的に市場について発表する時、すでに後戻りできない状態になっているだろう。父上が強硬手段を使わない限り、市場をつぶされる事はない。そのあたりはアリードがうまくやってくれている。経済が活性化し税収が増え、支持率もあがる。そんな話をアリードは父上に吹き込んでいるらしい。私の贅沢するためのお金を、あの豚が肥えるために使われるのは我慢ならないが、来るべき日はもう近い。それまで我慢しなければ。まだ私は領主ではないのだ。
「ヴィオラ様、どういたしましたか?」
スラムの者たちが移住した農地に立ち寄ってそこを眺めていると、声をかけられた。そちらに顔を向けると、あの老婆が立っていた。
「どうも村長、日差しが嫌になってきただけよ」
老婆、いや村長が驚いた表情を浮かべて慌てだす。今日は晴天だ。だが別に日差しが強い訳ではない。帰る口実として言っただけだ。早く帰ってだらけたい。
「申し訳ありません! 失念しておりました、すぐに……」
ここでどこかに招き入れられたら、時間がかかりそうだ。ただ様子を見に来ただけで長居する気はない。
「もういいわ、トーマス、帰るわよ」
農地予定地だった場所。もうそろそろ村と呼ぶべきこの場所をもう一度見渡す。簡素な家が立ち並び、農地を耕す者たちがいる。何が面白いのか、時折笑い合っている姿が見える。いろいろな場所から楽し気に話している声が聞こえてくる。それに背を向けて歩き出した。
「もういいのですか?」
横に並び、顔を覗き込むようにトーマスが問いかけてくる。実はまだ到着してほとんど時間が経っていない。トーマスには視察と言ってあったため、こんな短い時間でいいのか、と不思議に思っているらしかった。
「来るだけ無駄だったわ、フンッ」
ここまで来なければ、服屋を呼びつけて新しいドレスを選ぶぐらいの事が出来たのに。本当に時間を無駄にした。




