2-18あなたは理想の領主
「さて、どうなるかしらね」
食べ物に定期的にありつける、という事に喜んでいるスラム街の者たちに目を向ける。わざわざ期限を設けなかった。自己判断に任せた。これで変わる意思がある者と愚物が、選り分けられる。ただ、意思はあっても本当に体力が戻っていない者も残ってしまう可能性がある。それを防ぐためシズクに確認させるのだ。
そこまで考えて、少し笑ってしまった。甘くなったものだ。前なら全員魔法で消し飛ばしてしまっていたものを。
「どうされました?」
視線を動かさず前方に向いたまま、アリードがいつも通りの声の調子で問いかけてくる。
「私は甘いな、と思っただけよ」
私も、視線を前に向けたまま返す。
「……冷酷だけではいけません、優しさだけでもいけません、あなたはまさに理想の領主であると、私は感じております」
私はまだ領主ではない。それでもアリードは、すでに私を領主として仕えてくれているという事なんだろうか。
「ありがとう」
お互い顔を見る事はせず、正面だけ見てそんな話をした。なぜだかそんな行動が、信頼の様に感じる気がする。
※
それから数か月、スラム街では炊き出しが行われた。さすがにここまで大きな動きをすると、父上の耳には入ってしまい、面倒な絡みをされたが適当に流しておいた。というか何を言っていたのかちゃんと聞いていなくて、内容をほとんど覚えていない。時間の無駄でしかないのだ。あのような豚との話など。
スラムの者たちは順調に移動を始めているらしい。あの農地予定地は家も何もないから、農地を耕す事と同時に住む場所も作らなければいけない。だがそれらの事はこちらから助けないと決めていた。意思がある者たちなら、乗り越えられるはずだ。これで野垂れ死ぬほど、やわではないだろう。スラムではほとんど野外の様な場所で、生活していたのだ。それに比べてあの農地は家を作るための木材もあるし、何より充実した体力もあるのだ。
「では今日も行ってまいります」
トーマスがそう頭を下げると、ルーもそれに続くように頭を下げた。二人はスラム街の炊き出しを主導している。
「待ちなさい」
声をかけると、私の部屋から出て行こうとしていたトーマスとルーが、こちらを振り返る。
「なんでしょう?」
「スラム街に残っている者はどれくらいいるかしら?」
「……一割ぐらいがまだ」
渋い顔をしたルーが答える。トーマスも同じような表情だ。それだけでわかる。良い印象を持てない者たちが残っているのだろう。充分待った。チャンスを与えた。それでも残ったのだ。
「今日、二人は農地予定地の様子を見てきて、たまには私も炊き出しをやるわ」




