1-28ヴィオラ・グリムの盤石で豊かな領地作りは、これから始まる!
「ヴィー様、あんな演技まで」
トーマスの隣に立っている先輩使用人のルーナが、ヴィオラをみつめながらそう呟いた。
「演技?」
「トーマス、まだまだだね」
ルーナが指を振りながら、そんな事を言う。どういう事だろう。トーマスはそんな風に首を傾げた。教えてくれそうな気配がなく、たまらなくなって問いかける。
「教えてくださいよ」
「しょうがないなぁ」
何だかうれしそうにしながらルーナは続けた。
「あの料理人の苦しい状況を調べていたんだわ」
「苦しい状況って?!」
「あのね、あの料理人、店は話題で繁盛してるけど、それをよく思わない輩から嫌がらせを受けていて……店の物を壊されたり、仕入れを邪魔されて出費がかさんだりね……繁盛しているのに収入が赤字になっちゃってるみたい、このままだと経営が危ういかもしれないらしいの」
「……! ルーナ君、なぜそれを」
トーマスの後ろから、突然アリードがそんな声を上げる。ルーナは少し驚いたように目を見開くと、少し恐る恐るといった感じで返した。
「あ、あの、使用人の情報網と言いますか、庶民の情報網です……私、実は顔が広いので」
「そう、か……情報戦でルーナ君ほどの逸材はいないと言っていたがそういう事か……いや、ヴィオラ様の慧眼には驚かされる」
良く分からないがアリードは満足そうに頷くと「そろそろ失礼するよ」とその場を離れていった。
「私、なにかしたのかな」
ルーナが呆然と、アリードの後ろ姿を眺めながら呟いた。何だか良く分からないで一緒になって眺めていたトーマスは、ふと思い出して声を上げる。
「じゃあ、あの料理人を呼びつけたのは」
「たぶん……嫌がらせをしている輩に無言の警告をしたのかも、御用達とまではいかなくても、グリム家のお気に入りの料理人ってことになれば、嫌がらせなんて出来なくなるでしょう」
「ヴィオラ様、やっぱりほかの貴族とは違う」
トーマスは素直に感激していた。それに同調してルーナも目を輝かせる。
「そういう理由以外にも、もしかしたら私たちでは思いつかない先の事を見据えてる可能性もあるかも!」
そんな風にルーナが声を上げた後、ヴィオラを小走りで追いかける。そう、きっと先の事を見据えている、トーマスはそう思う。そして、決意を新たにしたのだった。やはりヴィオラ様は命に代えても守る価値のあるお人だと。
三人は勘違いをしている! アリードには、意識していないくらい適当に、ヴィオラの勝手なメイドのイメージを話しただけなのであった。それから料理人に関しても、本当にただただ話題の料理人の料理を食べたかっただけなのである。それが偶然そういう事情を抱えた料理人だった、というだけの事なのだ。
ヴィオラ・グリムの盤石で豊かな領地作りは、これから始まる!




