1-26私の勝ちよ
「俺は……私はトーマスです、私は今日の朝までスラム街で生活していました、ですが今日ヴィオラ様の騎士になりました、私は正しいと思った行為を行い、それをヴィオラ様が認めてくださったのです」
そこまで言ってトーマスが言葉を切る。そして一度息を吸い、吐き出した。時折見せる強い光がこもった瞳をしている。
「皆さん、ヴィオラ様を信じてください! この方はこの国を変える! ヴィオラ様は命をかけるに値するお方だ! 私が彼女を命に代えても守り抜き、それを証明する!」
あっ、心に刺さる物が。痛いほうの奴。贅沢三昧したいがために、領地を繁栄させて盤石なものにする。独立出来たら更なる富と権力で好き放題できる。そう考えていると、口が裂けても言えない。そんな事を言ってしまえば処刑を言い渡す相手が、オースティからトーマスに変わってしまう。
その時、放送室の扉に衝撃が加わった。衛兵がこの部屋の前まで来ているらしい。わめき声も、だんだん増えてきている。もう来たか。猶予はもうない。また扉に衝撃。魔法を使わないのはたとえ蛮行を止めるためでも、破壊をすれば父上が怒るからだ。あの豚に助けられる形になったのは少し癪だが、一瞬でも時間が得られるのはありがたい。
「私は、ヴィオラ・グリムは、ここに宣言します! 正しく努力すれば正しく評価される領地を、上級階級に上がれる領地を作ると宣言します!」
そこまで言い切ったタイミングで、扉が衝撃と共に開かれる。
「お嬢様! 何をされておられるのです!」
そう怒号を上げたのは、騎士隊長。しかし、もう私は目的を遂げた後だ。後は必死な感じを演出するため、それから私自身を被害者的な立ち位置に見せるため、カメラの前で少し抵抗するだけだ。
「私は! 領民をないがしろにするやり方に疑問を感じたまで! だからこうして……」
喋っている最中に、こちらの部屋に入ってきた騎士隊長が、私の腕をつかむ。いいタイミングで掴んでくれた。いい仕事をしてくれる。くははっ。
「キャッ」
可能な限り大げさに倒れ込む。こんな可愛い悲鳴を初めて出したかもしれない。
「ヴィオラ様!」
想像通りトーマスが声をあげて、騎士団長に向かっていく。正直子供の突進で、騎士団長をどうこうできるわけがない。トーマスは軽々と弾かれる。私は演出の為に、少し強めに吹き飛ばされた感じに見えるよう、トーマスを風の魔法でカメラに映る範囲の壁に叩きつける。
「トーマス!」
私は金切り声をあげて、腕を振り払うと、トーマスに駆け寄った。それから顔を向けると、騎士隊長は少し驚いた顔をしていた。彼なら気づくだろう。トーマスが吹き飛ぶほどの力を込めていないだろうし、方向もおかしい。掴んでいた腕を振り払われたことも。だがもう遅い。くははっ。私の勝ちだ。
「私は、おかしい事をおかしいと言っているだけ! そんな私を暴力で抑えつけるのですね! でも私は負けない!」
大きく呼吸をする。これまでで一番の力のこもった言葉にするために。
「私は誰でも頑張れば上級階級に上がれる領地を作るわ! 馬鹿げた貴族の壁をぶっ壊す! 私は絶対に!」
私の勝ちよ。愚物ども。くははっ。




