1-25放送開始
少し休憩した後、さっそく準備を始める。私はこの放送室に入るのは初めてだ。だから全く放送の仕方もわからない。というのは子供時代の話。一度目の人生では私は勿論、放送設備を使ったことがある。厳密には部下がやっているのを見ていただけだが、それでも覚えられてしまうのが私だ。
問題があるとすれば、この設備に魔力を流し込む人間がいないという事だ。私とトーマスは放送に出なければいけないから、その役目ができないのだ。
「何か問題が?」
トーマスが、険しくなった私の顔に気が付いたらしい。
「いえ、なにも……少し難易度が高いというくらいよ」
そう。魔力供給はできない事はない。難易度が高く上手くいくかわからないが、しかし、やるしかないだろう。遠距離で魔力を飛ばして供給する。空中に霧散してしまう分が相当量あるから、高出力を維持したままコントロールまでして、魔力供給口に魔力を注がなければいけない。どれくらい続けられるかわからない。まぁどのみち、放送が始まったらこの場所はバレて、衛兵がやってくるだろう。短期決戦だ。
「……バリケードは作ったけど、それ以外に遮るものは無い、おそらくすぐに突入されるわ」
「はい」
「簡単に力強く、それを心掛けるのよ」
トーマスの紹介をしたら、そのまま挨拶をしてもらう。そのあと私の宣言だ。衛兵が集まってきて突入されるまでに終わらせる。そのために簡単に力強く。そういう事である。
全ての調整を終わらせた。それを確認した後、設備のスタートボタンを押す。ここからは設備に触れられない。上手くいってくれることを祈って、魔力を込める。そのまま魔力供給が途切れない様に気を付けながら、隣の部屋のカメラの前に移動した。
「皆さん、こんにちは、ヴィオラ・グリムです」
成功していれば私の映像が、各地の受信設備に映し出されているはずだ。窓から確認しているトーマスに視線を送ると、こちらに振り向いて頷いた。ちゃんと映し出されているらしい。少なくともこの街には私の言葉は届いている。
「夕方の時間帯、夕食の団らんの時間に失礼します……挨拶はこれくらいで、時間がないので単刀直入に申し上げます、トーマスこちらへ」
声をかけると、トーマスが私の隣に並んだ。スラム街からやってきた汚いままの姿だが、何とかする時間はなかった。しかし、逆にこれでインパクトは与えられるのではないか。トーマスがスラムの人間というのが、よりわかるのではないか。
「この度、この者を私の従者……近衛の騎士に任命しました」
トーマスの背中を軽く叩く。挨拶の合図だ。




