1-22アリードという男
安心させる意味も込めて、不敵に笑って見せる。
「既成事実を作ってしまうの」
「きせい、じじつ?」
それを聞いたトーマスが、キョトンとした顔を浮かべた。言葉の意味が分からなかったのか、何をするのか想像もできなかったのか、たどたどしい言葉だった。
「そう、今の時間ならまだいけるわ、今日中に決着をつけられる」
空は夕方に差し掛かったおかげで、赤みがかってきている。まだ領民たちが寝ているような時間ではない。お知らせをするには、ちょうどいい時間とさえいえる。つい私は笑みを浮かべてしまった。
「何か考えが……信じます、ヴィオラ様の征く道を守ってみせる」
あっ、キュンッ。今までの不安そうな表情やしぐさがすべて取り払われて、トーマスはまっすぐと強い光を宿した瞳でこちらを見ていた。
「騎士らしいいい顔よ……行きましょう」
目指すは館の、あの場所だ。トーマスの手を掴むと、慎重に進み始める。私が手を引いてしまったら、ちょっとしまらないがしょうがない。トーマスは場所を知らないのだ。
私の狙いはバレていないから、通り道を固められていることはないおそらくない。見つからずに進むのは簡単だろう。
「……ヴィオラ様」
簡単だと思っていた目的の部屋の前には、男が一人立っていた。この男の事を忘れていた。
「……アリード」
下っ端でまだ若いが、恐ろしく頭が回る男。役職まで覚えていないが、私の一度目の人生で、家の者で唯一私を窘めてきた人間だ。まぁ、オースティほど高潔な男ではない。私と同じ側の空気をまとっている。薄暗い事も仕方がないと割り切れるタイプだろう。
一度目の人生の時は、邪魔だったから消そうとしたが出来なかった。暗殺を読まれて、まんまと逃げられてしまったのだ。その後はどうなったかわからないが、私を恨んでいただろうし、オースティの元にいたかもしれない。
眼鏡にかかったくすんだ灰色の髪を、指でずらすと、一歩こちらに踏み出す。それに反応して、トーマスが私を背に隠す様にして、アリードの前に立ちはだかる。
「まさか読まれているとは」
「まさかは、こちらのセリフです、可能性はあるかもしれないと考えはしましたが、さすがにと思っていました……まさか窓から飛び降りるとは」
窓から外を見た時、誰かいたような気がしたが、あれはアリードだったらしい。こいつだけが窓からの脱出を読んでいた。
「なんでここに?」
そう問いかけると、アリードは顎を指で撫でるしぐさを見せる。




