1-17脱出
「館内の警戒はどんな感じだったかしら? 私の脱出を全館で警戒していたかしら?」
ルーはここまで移動してきた間に、館内の状況を目にしているはずだ。意識していなくても、厳戒態勢だったのなら気づいているはず。
「そんな事はありませんでした、ドアの前の衛兵さんたちだけ……使用人にもヴィー様が部屋で謹慎していると伝えられただけで」
「いいわね」
これでトーマスを助け出すところまでは、邪魔は入らないはずだ。そこから速攻で行動を起こせば、問題なくたどり着けるはず。
「ルー、ありがとう……さくっと助けてくるわ」
「もったいないお言葉」
そう言った後、ルーは一度頭を下げて、それからさらに言葉を続ける。
「私はここで、ヴィー様が部屋にいらっしゃるという演技をいたしますので」
「ありがとう……バレた時は私に無理やり命じられて仕方なくやったと言えばいいわ」
私の言葉にルーは顔を横に振る。それから微笑み「お断りいたします」と生意気に返してきた。本当に生意気だわ。ルーの鼻を摘まんで少し引っ張った。
「生意気なメイドね、私の命令を断るなんて……じゃあ、お願いに切り替えるわ」
「お、お断り、しますぅ」
鼻をつままれているにもかかわらず、ルーはそれでも反抗した。せっかく良い密偵を手に入れたのだから、すぐに失いたくない。ボロ雑巾の様になるまで働いて、使えなくなってからいなくなりなさい。
「大事なあなたが罰せられるなんて嫌よ、お願い」
鼻をつまむのをやめて、ルーの目を見つめてそう訴える。使用人を思う主人。それだけでコロリといくだろう。
予想通り、ルーはその言葉を嚙み締めた後、少し唇をかんでから頷いた。言葉はない。渋々という事だ。
「よろしい」
強情なメイドだ。今後どの様に調教すれば、従順な密偵になるか。よく考えていかなければならないだろう。厳しくするか、優しくするか。一瞬の思考のあと、ルーの頬に手を添えて微笑みをかける事にする。少しの時間そうしたあと、私はルーから離れて窓に向かった。
窓の外を眺める。まだ明るいせいで、使用人の姿が何人か見える。まさか窓から人が飛び降りるなんて思っていないだろうから、さすがにこちらに注意を払っている者はいないが。
「ん?」
今一瞬の出来事だが、植木の陰に誰かが隠れたような。こちらを見ていた気もするが。いや、さすがにそんな予測ができている人材が、あの豚領主に仕えている訳はないわね。
「じゃあ、そろそろ行かないといけないわ」
「……いってらっしゃいませ、ヴィー様」
後ろでルーの声がする。きっと頭を下げているのだろう。ルーはおそらく、そういうメイドである。




