1-16やべっw名前覚えてないw
「ところで、私はあなたを何て呼んだらいいでしょう……愛称は……そう言った物は慣れていなくて」
そこで照れている演技をして見せる。それからメイドが何か言う前に、素早く言葉を続けた。何でもいいですよ、なんて言われると面倒だから。
「具体的にどんな愛称が適当か、教えてください」
その言葉にメイドが少しおかしそうに、控えめに笑う。
「どうしました?」
「いえ、すみません、私の名前は短すぎて……愛称は使わないです」
それで笑ったのか。おそらく私が愛称について本当にわかっていなくて、そう聞いてしまったと思ったのだろう。違う。私はこのメイドの名前を知らない。それを悟られない様に、呼び名をゲットしようとしているだけだ。
私は困ったように微笑んで見せる。愛称で呼び合いたいけど、照れくさくて言えない、という体である。察しなさいよ。
「……強いて呼ぶならルーでしょうか」
ルーが折れたように、そう呟いた。よし、名前ゲット。私が名前を憶えていないというのも、悟られていない。こんな事で信頼を裏切りたくないのだ。
「ルー……ルー」
顔を赤らめて、何度か呟いて見せてやる。ルーは少し照れくさそうに「はい」と答えた。
「ではルー、私の事はヴィーと呼んで、似たような感じで、お揃いよ」
「ヴィー様」
ふふっ。感動してる、感動してる。これで忠実なる密偵の出来上がりだわ。
「あっ、いけないわ、急いでいるのよ」
ルーともう少し話して、信頼を確固たるものにしたいところだが、トーマスの事も放ってはおけない。
「もしかして、連れてこられた男の子の事……」
「そう、詳しく聞きたければ後で話すわ……いろいろあって投獄されてるわ」
「スラムの子、ですよね……投獄なんてひどい、早く助けてあげないと」
自分の事の様に、ルーは眉をひそめた後に声を上げる。この反応で、不安だったことが一つ解消された。ルーはスラムの人間を、きちんと人間扱いする様だ。これから二人は私のそばに置くから、トーマスの事を認めないならメイドを取り替えるしかなかった。スラムの人間に、顔をゆがめない人材を探すのは面倒だったからよかった。
「ドア前には見張りがいるでしょう? だから窓から行こうと考えたのよ」
「あぁ……それで」
納得した様子で、ルーが声を上げる。
おそらく、ルーが誰にも話していないなら部屋のドア前にしか見張りはいないだろう。窓から脱出したのも今回が初めてだから、誰も予想しないはずだ。実際大人の記憶と経験が無ければ、子供の私は窓から飛び降りるなんて芸当はできない。完全に裏をかける。




