1-13計算違い
「あぁ、愛しのヴィオラ! どうしてしまったんだい?! 誰かにそそのかされたのかい?! そんな事をするなんて!」
仰々しい芝居がかったそんな言葉で、父上が問いかけてくる。さっそくトーマスを自分の騎士にする事を伝えたのだが、反対されている。今までなんでも許してくれていた父上が、初めて反対したのだ。少し驚いている。
「私の意思だけど、なに?」
父上の隣に座っていた母上が、頭を押さえてふらついた。大げさで芝居がかった反応だった。そのせいでたるんだ二の腕が揺れる。はっきり言って面倒くさい。もうちょっと普通に話せないのか。
父上がたるみまくった腹を揺らし、まくし立ててくる。
「平民は家畜、それ以下のスラムの者なんて生きる価値のない愚物、そんな物を近衛の騎士などッ!」
偏った考え。選民思想だ。まぁ私もおおむね同意なのだが。その中に愚物ではない人間が紛れている。そういう者はすくいあげてやってもいいのでは、と思うようになった。処刑を経験した影響なのか、革命中の人々の叫びを聞いたからなのか。
「騎士が欲しいなら、私がふさわしい貴族の子息を見繕ってやるから」
それでは意味がない。しかもそういう貴族は家を継げない五男、六男でしっかり選民思想が根付いている上に、ひねくれていて面倒くさい。私がやろうとしていることに、父上と同じように邪魔してくるだろう。
私は聞こえない様に、小さくため息をついてしまう。貴族以外は人間ではない。この国の貴族はこれが普通。貴族がこれでは、社会階級の固定化はなくならない。領民というより、国全体の民が不満を膨らませるだけ。
このままでは、私の処刑を回避しても、この国が革命を起こされるのではないか。その国の貴族の一人である私も結局処刑されてしまう。やっぱり独立は目標に据えたほうが良いだろうか。独立してしまっていれば、関係なくなる。
「聞いているのかい?! 愛しいヴィオラ?!」
考え事をしている間にも、父上は何かを、まくしたてていたようだった。聞いていなかったが。正直この豚どもの話を聞く意味はあるのだろうかとも思うが、しょうがないから目の前の問題にちゃんと向き合うか。
「私は、将来誰でも上級階級に上がれる領地を作る、その第一歩として、トーマスを私の騎士にする、そして、この件を全領民に公表して、公約するわ……父上と母上が何と言おうがね」
父上も母上も顔面蒼白になり、カタカタと小刻みに震えだした。
「そんな事をすれば、陛下を国全体を敵に回しかねない……わかっているのかい」
その辺りはちゃんと考えが及ぶのね。地位を受け継いできただけの豚でも、領主である。
「敵に回すわね、それでもやるわ」
父上はそこで、一度息を大きく吸って吐き出した。それから低い声を響かせる。
「……しかたがない、頭を冷やしてもらうしかない」
そんな声、今まで聞いたことがなかった。少し驚いていると、父上は声を荒げる。
「衛兵! トーマスという者を捕らえ投獄せよ! そして、ヴィオラは乱心しておる、しばらく自室にて謹慎させよ!」
「なっ、父上!」
抗議の声を上げる間もなく、どこかに控えていたのかと思うほどの速さで現れた衛兵に、その場から連れ出されてしまう。マズイ。まさか父上が私にこんな事をするなんて。完全に計算違いだった。




