1-12消えなさい
「よろしい、でも今はそういうのはいいわ、礼をやめなさい」
「はい」
全面的に信頼しているらしく、トーマスはすぐさま立ち上がる。大体は良いと言っても、本当にいいのだろうか、とぎこちなく怯えながら行動するものだけど。これだけ信頼してもらえるのは嬉しい物ね。
「では、領主館に帰るわよ」
「はい!」
トーマスは返事をすると、私がやってきた方向に向かって歩き出す。先ほどの愚物が伸びている方向だ。
「気を付けてください」
トーマスが倒れている愚物を警戒するように避けると、私に手を差し伸べてきた。もういっちょ前に騎士気取りだ。キュンっ。その手を取ると、トーマスのエスコートに任せる。
「うっぐっ、てめぇよくも」
かすかに聞こえたその声に振り向くと、伸びていた愚物が目を覚ましたようだ。ただもうトーマスの乗り越える物はもうない。あの愚物は用なしという事だ。
トーマスに視線を戻す。幸い気づいていない。本来なら私より先に気づくべきだが、今回に限ってはよかったかもしれない。
愚物の方に顔を向ける。目が合った。私はどんな顔をしていたのだろう。愚物が顔をゆがめて、悲鳴を上げる直前といった感じになった。邪魔。いらない。目ざわり。よくも私の至福を邪魔しようと思ったわね。一瞬でもそんな考えを過らせただけでも、罪よ。
「消えなさい、エクスプロージョン」
爆発魔法。それを愚物の方に放つ。一瞬小動物が捻りつぶされたような小さな悲鳴が聞こえた後、地面が抉れてそこには何もなくなった。
「え? どうしました!」
その音を聞いて初めて、トーマスが音のした方に躍り出て私を背中に隠す。あっキュン。
「? あれ?」
「ふふっ何もないわよ、早く行きましょう」
「あっ、はい」
疑問を浮かべつつ、私の指示を最優先にして元の進行方向にトーマスは戻った。一応こういうのは、トーマスには見せない。純粋なまま、騎士として育ってほしいのである。そっちの方が好みだから。ぐへへ。
そうして、私は意気揚々とスラム街を後にする。こんなにすぐに良い人材に出会えるなんて、本当に私は幸運だ。あとはトーマスを騎士にした事を公表し、全領民に私の公約を発表するのみ。
それが終われば、次はスラム街に手を入れるべきだろう。予想以上に汚れがたまっているようだ。汚れはトーマスの様な純粋な心まで、そのうち汚してしまうだろう。どれぐらい『掃除』が必要だろうか。いや、先ほどの一部始終を見ていた者もいたかもしれない。それが広まって、それでも汚れのままでいる愚物がいないと、信じているよ。




