1-10私を守って
「おぉい! 何無視してんだ!」
愚物の声に男の子がビクリと強張る。うるさいな。消し飛ばしてやりたい衝動を抑えて、男の子に続けて声をかける。
「君は正しい事をしたいのでしょ? だから私にここに居たら危ないなんて教えてくれた」
男の子の瞳が揺れた。愚物の方を見て、それから私を見つめる。逆らうのが怖いのかもしれない。愚物がこちらに歩み寄ってくる。聞こえてくる足音の感じから、もう手が届く範囲まで間もない。
「私の騎士になって」
傷はもうすべて治した。もう立ち向かえるはずだ。あとは心の問題だけ。
「おい!」
愚物の声がまじかに聞こえる。私はそれでも男の子の目を見つめ続けた。乗り越えなさい。そう念じる様に。
「ッ?!」
一瞬だった。愚物の驚いた声が聞こえる。男の子が立ち上がり、私を掴むために伸ばされた愚物の手を払いのけたのだ。そして私を背に隠す様に、愚物の前に立ちはだかる。両手いっぱいに広げて、守ろうとする背中が視界いっぱいに映った。
「俺が、守る……ッ! 君の騎士だから!」
あっ、キュンッ。私を守るため、おそらくずっという事を聞いてきた相手に、ずっと恐れてきた相手に、この子は歯向かったのだ。
私はこれまでこんな風に、守ってもらった事がない。ずっと悪者だった。革命で戦っている最中だって、一緒に戦っている者はいたが、結局仕方がなく戦っていた者ばかり。自分の命を守るための者ばかり。私さえ討ち取れればそれでいいという革命軍の意思表示に、すぐさま私を差しだした物ばかり。
「あぁ? 俺に勝てると思ってんのか?」
愚物がすごむ。魔力のかけらも感じない愚物が、何を調子に乗っているんだ。この男の子に勝てるわけがない。それがわからない時点で弱い。
本当なら消し飛ばしてやりたい所だが、今回に限ってはこの子がやるべきだろう。乗り越えるためにも。だが、この子は魔力の制御の仕方を知らない。だから正義感がブレーキをかけているのかもしれない。魔力を上手く扱えない自分が、感情に任せて攻撃すれば相手を殺してしまうかもしれないと、本能的に理解できているのだ。
素晴らしい自制心。私より遥かに人の上に立つ素養を持つ人間だ。私なんて自制心皆無だから、浪費はするしわがままを言うからな。それより。
「私が魔力をコントロールしてあげるわ、君が思いっきりやっても、アイツは死なない」
男の子の背中に手を当てる。魔力をコントロール下に置けば、出力が上がりすぎることはない。天才の私にしかできない芸当である。私すごい。ついでに魔力を使う感覚を覚えられれば、取得が早まるだろう。
「私を守って」
男の子がこちらに振り向いた。そして、ぎこちなく笑って口を開く。
「俺が、君を守る」
あっ。キュンっ。




