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2-12 「昔から知ってるさ」

「ちょ、ちょっと待ってくれお嬢ちゃん! 気持ちはありがたいけど、そんなことさせるわけにはいかねぇよ! この街のことはこの街の問題なんだから——」

「私の大好きな国の人たちが困っている。それだけでも手伝う理由になりますから!」

「だがなぁ……」

「大丈夫です! 邪魔はしませんから! ちょっとでもお手伝いさせてください!」

「んー……。——負けた、そういう事ならお願いするよ。みんなには俺から伝えるからさ」

「ありがとうございます!」

「ははっ、感謝するのはこっちの方さ。ありがとよ、心優しい旅人さん」

「いえいえ! それじゃ二人はここにいて! 私はちょっと行ってくるから!」

「あっ、ちょっ『セレネ』!?」


 ハーベの呼び止める声も、今のソフィアには届かない。

 二人は笑顔で復興中の建物へと向かっていく。そこでソフィアは紹介されると、最初は驚かれるもすぐに受け入れられて、その輪の中に溶け込んでいった。


「おいおい……。これじゃあ護衛の意味がないだろ……。あのお人好しめ……」


 呆れたアイリスの声が霞んで消えていった。



『——捧げる祈り。奏でられる調べは癒者の手に。施しを君に。注ぐ命の雫——【回帰の癒手(セラフィ)】』

『おおっスゲェ! 体の疲れが一気に吹き飛んだぞ!』

『セレネちゃん、魔法使いだったのかい!? お、おれにもかけてくれ!』

『良いですよー! ちょっと待って下さーい!』


 復興に勤しむステラ領民の疲れを、ソフィアの魔法が癒していく。ソフィアの魔法は身体の状態を万全にする魔法だ。ステラ領民にとってその魔法は願ったり叶ったりだろう。

 笑顔で溢れるその光景を、少し離れた場所からアイリスとハーベが見ていた。


「おい、マスターの奴あんな簡単に魔法使ってて大丈夫なのか? この国じゃ、魔法はソイツ固有のもんなんだろ?」

「……大丈夫だよ。一般市民が知ってる魔法なんて生活に使えるヤツだけだし、『セレネ』は王国の時代から魔法を家族以外に見せたことがなかったから。あの魔法を見て、『そう』って気付く人はいないよ」

「けど、回復系なんてそうそう使える奴はいないだろ。オレのいた時代でもそうだったし、特異性があるなら王族の血筋的なアレを疑う奴も——」


 その疑問にハーベは悲しげに首を横に振って否定する


「それも大丈夫。王族が使う固有魔法は必ず『炎』だからね。固有魔法が炎じゃない時点で選択肢から外れるんだよ」

「炎……? ——そういえば、最初にマスターに会った時もそんなこと言ってたな……。それにレストアーデの奴も……」


 アイリスの記憶域から強制的に引き出される忌々しい記録。全てを焼き尽くさんとするあの業火の熱は今でも思い起こされた。

 それが世代を跨いで続いているのだとしたら、なるほどソフィアが王族の選択肢から外れるのは道理だった。


「直系の王族なのに炎じゃない、ねぇ。そりゃまた貴族社会だと苦労しそうだな」

「うん、そうだね。炎の魔法を使うってだけならステラ家だってそうだし、邪推されて突かれる材料はいくらでもあったんだ。でも、王様たちはソフィア様を見捨てることなく愛情をずっと注がれていた。幸い固有魔法が使えるようになるとしたら最大で七歳くらいからだから王様たちが箝口令を敷けば隠すことは出来たしね」


 そこでハーベは元気に手伝うソフィアを見つめる。溌剌と楽しそうに王国民に優しく触れ合うその姿。

 魔法の種類なんて関係ない。人に優しくなれるその心こそ、レストアーデ家たる証明だった。


「愛情を注がれたから——か。なるほどね、マスターの行動原理が分かった気がするな」


 頑張るソフィアを見てボソッとアイリスが呟く。それはハーベには届かず、彼女はソフィアの下へ足を進めようとしていた。


「それじゃわたしも手伝いに行こうかな。主君にばっかり働かせるのも臣下失格だしね。アイリス様は……手伝わないよね」

「当たり前だ。なんでオレが人の為にそんなことしなくちゃならない。やる義務はないだろ」

「義務はないけど……、やっぱり人の為に何かをやるのって気持ち良いじゃない?」


 心の底からそう思っている様に、ハーベは動かないアイリスを見て首を軽く傾げる。

 ハーベもまたレストアーデ王国民。やはり、その気質は備わっていた。

 けれど、人を思いやる話を聞いてもアイリスは動かない。不貞腐れたような表情で立ち上がり、ソフィアたちから視線を切った。


「……そんなこと、昔から知ってるさ。何千、何万回、オレが人に尽くしてきたと思ってる」

「なら——」

「だから、やらないんだよ。人に尽くしてきた結果が『アレ』なら、同じ道は辿りたくないからな」


 人の為にと生み出され、人に尽くしてきた末路が【機械仕掛けの恢戦(エクスハード)】。

 あの時の裏切りがあったからこそ、今のアイリスがある。


「オレが力を貸すのはマスターの為だけだ。まぁそれも『義務』だけどな」

「アイリス様……」


 そう言って一応の挨拶として後ろ手を振り、アイリスは離れていこうとする。

 振り返った時にハーベに見えたアイリスの横顔は、どこか悲しそうに見えていた。

 ——と、その時


「——お、おい!!! だ、誰か来てくれ……! 【露店通り】が大変なんだ!!」


読了ありがとうございました!

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