中学生妹編⑧
カノンの甘えは日に日に酷くなっていた。
校門では用もないのに頻繁に待ってる。
「お兄ちゃん!」
「うわっ。なんだ俺を待ってたのか?」
「ええー。そうだけど違うー。」
「何言ってんだ…?まあ帰るか。」
「うん!ねえ、今日の体育でお兄ちゃん高跳びすごくなかった?」
「なんだ。見てたのか?1m80cmはクリアしたな。」
「うわぁ…やっぱ変態じゃん。」
「狭い通路でカノンが邪魔な時は背面跳びでカノンの上から通るわ。」
「こわっ!ってかきもっ!」
8月に入り夏休みになると、さらに悪化していた。家ではやたらくっついてくる。
「ねえねえ、このテレビ見ようよ!」
「また動物番組?好きだねえー」
「いいじゃん。」
「ってか近いな。暑いからちょっと離れな。」
「私のような可愛い動物を離しちゃダメなんだよ。」
「うわぁ。自分で可愛いって言うのひくわ…」
「ええ!お兄ちゃんがそれいう!?」
8月、俺がクラスの友達とプールに遊びに行く約束の日があった。
「お兄ちゃん、何時ごろに帰ってくるの?」
「16時くらいかな?」
「女の子もいるの?」
「何回聞くんだ…だからいるよ。男女6人でいくからね。」
「私より可愛い女の子いるの?」
「いや…その比較はよくわからんが、普通に可愛い子だよ。所謂、一軍女子ってやつか?」
「そっか…」
「じゃあ、行ってくるな。」
「うん…」
今にも泣きそうなカノンを置いて、俺はプールに出かけた。
プールは思ったよりも楽しくて、夜ご飯も食べてから帰ることになった。家族にはLIMEで夜ご飯を食べてくることと、遅くなることを連絡した。
楽しく話しながらご飯も食べ終わり、帰ろうとしたら、カノンからの大量の不在着信とLIMEが来ていた。
「お兄ちゃん何時に帰ってくるの?」
「誰といるの?」
「女の子もいるの?」
「どこで食べてるの?私も行っていい?」
「ねえ、返事して欲しいな…」
「怒ってる?何時に帰るかだけ教えてほしい…」
「ひょっとして女の子の家にいるの?」
なんだこれ…嫉妬を超えていないか…俺は怖くなってきた。
「ユウトどうしたの?ひょっとして別の女の子からも『明日プール行かない?』とか言われてるの〜?」
一緒にプールを遊んだ女の子からニヤニヤと言われる。
「そんなん繰り返してたら、夏休み明けは立派なガングロギャル男が出来上がるぞ。学校のプールでサーフィンするぞ?」
平静を装ってはいたが、経験のない状態に俺は焦っていた。
みんなと別れてから、とりあえずLIMEだけ返信した。
「悪い!気づかなかった。今から帰る!」
するとすぐに電話がかかってきた。カノンからだ。
「もしも」
でるとカノンが俺の声を遮って話してきた。
「お兄ちゃん!どこにいるの!?」
涙声になっており、泣いているようだった。
「もう家の近くの駅にいるよ。これから帰る。」
「う…う…うわーん!」
カノンは泣いていた。
「とにかく帰るから。じゃあ。」
俺は電話を切って帰路についた。
「ただいま。」
玄関には泣いているカノンがいた。異常な様子だった。
「お兄ちゃん遅いよ…」
泣きながら訴えかけてくる。
「いや…ただ夜ご飯を友人と食べただけだそ?」
「女の子とも一緒だから、帰ってこなくなるかと思ったの!」
「は…?」
俺が戸惑っていると、母さんも来てくれた。
「ユウトおかえりなさい。」
「あ、ああ、ただいま。母さん、夜ご飯はごめん。明日食べるから。」
「わかったわ。じゃあカノン。ユウトは帰ってきたし、泣きすぎて疲れたでしょう。顔も酷いことになっているわよ。先にお風呂にいきなさい。」
「わかった…」
カノンはヨタヨタとお風呂に向かった。
俺は母さんとリビングに行き、状況を聞いた。
「カノンはいったいどうしたんだ?」
「ごめんなさい。私がカノンに余計なことを言ってしまったのかもしれないわ。」
「どういうこと?何を言ったの?」
「カノンが、ユウトからの夕食を食べてくるっていうLIMEみて『えー!そんなぁ…』って言ってたからね。『お兄ちゃんも、もう中3なんだから夜ご飯を友達と食べに行くこともあるわよ。それにいつからは家を出ていくんだから、お兄ちゃん離れしないとだめよ』って言ったの。」
「うん。」
「それでカノンが反発しちゃってね。『いつか居なくなっちゃうなら、今は家族で過ごさないとだめだよ!お母さんも止めてよ!』ってね。」
「まじか…」
「でも、お母さんさらに言っちゃってね…『お母さんはユウトが道を踏み外さないなら自由にさせてあげたいわ。ユウトは悪いことはしてないでしょ?それにユウトは異常に優秀だから高校を卒業したら、1人でアメリカの大学とかに行っちゃう可能性もあるのよ?だから、カノンは本当に早くお兄ちゃん離れしないとだめよ。』ってね。そうしたら、もう大泣きしてああなっちゃって…」
母さんの話を聞き、なぜ突然ここまで酷くなったのか納得した。
「わかった。俺も気にかけておくよ。」
その日、そろそろ寝ようかと思ったらカノンが部屋に入ってきた。
「お兄ちゃん、今いい?」
「ああ、どうした?」
「お兄ちゃんは高校とか大学はどうするの?」
「高校はもう決めてある。近くの高校に行く予定だよ。でも大学からは全くの未定だ。」
「そうなんだ…じゃあ、大学は1人で遠くに行くかもしれないの?」
「ああ。その可能性は十分にある。」
カノンは俯いてしまった。
「…また、私を置いて行くの!?」
突然、カノンが強い口調で俺に言ってくる。
「もし遠くにいくなら、カノンを連れてはいけないと思う。」
カノンはまたしゅんと俯く。
「やっぱりそうなんだ…じゃあ、一つだけ教えて。せめて、近くにいる時で私が辛い目にあってる時は助けてくれる?」
「ああ。この前も助けたろ?アイツらをぶっ飛ばして欲しかったか?」
俺がそう言うと、カノンは急に笑顔になった。
「ふふふ…違うよ。あれ嬉しかったよ。ふふふ…じゃあ約束ね!」
「ああ約束だ。」
俺が言うと、カノンが抱きついてきた。
「やったあ!お兄ちゃん大好き!ふふふ。」
「あ、ああ…」
怖かった。俺は、カノンから好きだと言われたことはなかった。今までの人生で初めて言われた。
この日から、カノンは変わってしまった。




