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まぜもの妖談 ~狼天狗と雪女~  作者: 仲山凜太郎
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【8・懲りない連中】


 帰り支度を終えた高尾と瑞雪は、今日の所は引き上げようと階段を降りていた。2人にとって、やたら長い1日に思えた。

「お前、新聞部に向いてないんじゃねえか」

「わかってます。でも、辞めません」

 子供みたいに頬を膨らませてずんずん歩いて行く瑞雪に高尾はのんびりついていく。

「付き合うこっちの身にもなれよ。お前の個人的な事情で仕事やられちゃたまらねえ」

「先輩に言われたくありません!」

 振り向くと、むくれっ面を高尾につきだして

「ナンパ目的で取材に行く人よりも、あたしの方がずっとマシです」

「そういうのは1人で取材のひとつも出来るようになってから言え」

「これから出来るようになります! なりゃあいいんだろ!」

 怒鳴るその顔は、先ほど岩麻たちに啖呵を切ったのと同じ顔だ。顔だけじゃなく、全身に纏うオーラまで違っているように見えた。

「これからって言う奴にこれからなんて来ねえんだよ! あんな危なっかしい取材に付き合わされる方の身にもなれ!」

 睨み返す高尾の迫力に、たまらず瑞雪が後ずさる。しかしすぐ立ち直り、

「そんな壁、あたしが破って見せます。見ていてください。もう逃げたり止まったりしませんから」

 むくれて睨み付ける瑞雪を前にふと思った。今の彼女の姿はこれまでも見たことがある。なんだろうと高尾は考え、思い当たった。

 彼がこれまで目をつけ、取材に突撃した各団体のヒロイン、エース。彼女たちの姿だ。

 目の前の障害にも負けず、ひたすら前に進もうとする彼女たち。自分が良い方に変わろうと突撃し、目の前の障害を打ち破ろうとする大きなパワー。文化系でも体育系でも、その団体のエースは皆その力を持っていた。

(こいつ……面白ぇ)

 当の瑞雪は彼に向かって肩を怒らせ鼻息を荒くしていた。口をとがらせ、鼻の穴をひくひく言わせるその睨み顔が彼はおかしくなってきた。

「何笑ってんのよ!」

 言われて高尾は初めて自分がにやついていることを知った。

「悪い悪い。それならいいけどよ。せめて部長に報告ぐらいは普通に出来るようになれよ。俺には普通に話せるくせに」

 いきなりさっきとは違う怒りを感じさせない口調に彼女の方が勢いが削がれた。唖然とするように

「先輩は……」

 瑞雪の口が止まる。これは緊張しているのではなく、言葉が見つからないだけらしい。

 表情もいつもの瑞雪に戻っていた。

「桜島さん」

「……何ですか」

「お前、いい女になるぞ」

 途端、瑞雪が真っ赤になった。

「何ですか。もしかして、ああああ、あたしを口説いているんですかかかか」

 顔を赤くしたまま後ずさり、壁に隠れた。

 彼は鞍馬を見習って、このまま待ってみようかと思った。その時、

「ちょっと待て」

 瑞雪の言葉を遮って、彼女の背後を見る。

 すでに2人は校舎の玄関に来ていた。大きく開かれた入り口の向こうはグラウンドで、その右手の先に正門が見える。

 その反対、左の方に高尾は岩麻たちの姿を捕らえた。一瞬、俺達を待ち伏せているのかと思ったが違うらしい。

 岩麻たちの中心に1人の女生徒が担がれているのが見えた。癖のある赤毛はわかるが、顔までは見えない。

「あいつら、良い度胸してやがるじゃねえか」

 いくら奴らが図々しくとも、まさか追求されたその日のうちにまたやらかすとは高尾も思わなかった。

 振り向いた瑞雪も岩麻たちを見て、何が起きようとしているかを理解した。

「先輩、あの人たち。クラブ会館の方へ行きますよ」

 駆け出す高尾に慌てて瑞雪も追いかける。

 月の光の下では、高尾は先ほど述べたように驚くほどの身体能力を発揮する。今の彼の足は全国大会に出る陸上選手にも負けないスピードを出した。あっという間に瑞雪を離して行く。

 クラブ会館は第3校庭の隅にある。小さな体育館並の大きさで、畳敷きの道場が五つある。そのうちのひとつは岩麻たち空手部専用の道場だ。先ほど瑞雪が取材を挑んだのもここである。

 高尾の目に、岩麻たちがそこへ女生徒を担ぎ込むのがハッキリと見えた。気を失っているのか、赤毛の女生徒は抵抗する様子もない。

(どうする?)

 高尾は考える。ここで彼女を助けても、岩麻たちは「気を失っていた女生徒を保護しただけ」と言い逃れることが出来る。彼らが彼女に乱暴するところを押さえれば現行犯だが、彼女は彼らの毒牙にかかることになる。少なくとも、全身まさぐられるぐらいのことはされる。

 すぐに踏み込むか、少し間を置くか。

(すぐに踏み込む!)

 クラブ会館のドアを開けようとするが鍵がかかっていた。

 その場でジャンプして、ドアの上にある明り取り用の窓から中をのぞき込む。岩麻たちが赤毛の女生徒を囲んで服を脱がせているのが見えた。

「現行犯!」

 新聞部備品のスマホを取りだし、カメラモードにすると、助走をつけてドアに体ごとぶつかる。引き戸の扉は、たまらず部屋の中に高尾ごと倒れこんだ。

 その派手な音に何事かと顔を向けた岩麻たち。その姿を高尾はしっかり写真に収めた。

「この野郎」

 岩麻たちが駆けるより早く高尾は道場の外に跳び出た。彼の身体を月の光が照らし出す。

(追ってこい追ってこい)

 岩麻たちが道場を飛び出してきたのを見て高尾はほくそ笑んだ。岩麻たちが自分を見失わない程度に逃げる。

 彼としては、自分が岩麻たちを引き付けている間に、瑞雪が赤毛の女生徒を助けるだろうと考えていた。しかし、彼は瑞雪とその打ち合わせを全くしていない。阿吽の呼吸を持つには、2人は組んで日が浅すぎた。

「先輩!」

 瑞雪はまっすぐ高尾の方に走ってくる。もちろん岩麻たちも気がつく。

「俺じゃなくて道場だ。女を連れて逃げろ!」

 馬鹿と言いたいのを我慢して高尾は道場を指さし叫ぶ。

「え、でも」

「いいから行け!」

 そのまま高尾は道場に戻りかけた岩麻に思いっきりぶち当たる。

 瑞雪は躊躇したが、部員たちがこちらに走ってくるのを見ると、慌てて道場に駆け込んだ。恥ずかしげに服の乱れを直しながら道場を出ようとする赤毛の女生徒の手を掴むと

「逃げます」

 と走り出す。瑞雪の握る彼女の手は冷え切っていた。

 距離はそこそこ開いていたが、瑞雪たちと空手部員たちとでは走る速度が全然違う。彼女が校舎に駆け込むよりずっと早く、部員たちが出入り口に立ちふさがった。

 急いで方向を変える瑞雪たちとそれを追う部員たちを見て、高尾は

(まずい)

 と思った。

 瑞雪達は校舎裏に逃げていったのだ。彼女たちがうまく逃げるには、出来るだけ人目のある場所に行くことだ。いくら道を塞がれたとは言え、彼女たちは最悪の方向に走っていく。校舎裏を駆け抜ければ自転車置き場などに出られるし、そこまで行けば学園が契約している警備会社の詰所もある。しかし、とてもそこまで逃げ切れるとは思えない。

「よそ見してんじゃねえ!」

 岩麻の蹴りが高尾の脇腹に決まった。


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