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まぜもの妖談 ~狼天狗と雪女~  作者: 仲山凜太郎
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【7・瑞雪の取材】

 かくして、部活動が終わった頃を見計らって瑞雪が取材。高尾が隠れてそれを監視、彼女がなんかされそうになったら証拠写真を撮りつつ彼女を助けるということになったが……。

「あ、あ……あの、どうしてそんなに怖い顔なんですか?!」

 言われた岩麻の顔の怖さが瑞雪の恐怖が3割増した。

「逆らうと怪我させられるとか、目をつけた女性をレイプすると言う噂は本当ですか?!」

 岩麻の顔の怖さがさらに3割増した。

「おい、俺に喧嘩を売りに来たのか」

「あ、あたしはただ新聞部の記事のために全国大会優勝候補の岩麻さんに」

「新聞部だぁ、このマスゴミどもが!」

 張り裂けんばかりの怒声に瑞雪の体が震え始めた。涙でにじんだ目の焦点が定まらなくなり、手にしたメモ帳とボールペンが細かく震える。明らかに岩麻の迫力にビビっている。

 当然である。岩麻は高尾よりさらに大きく、身長は2m近い。筋骨隆々、道着越しにもその体格の良さはわかる。しかも相手をビビらせるために頭と眉毛を剃り上げてある。

 しかも瑞雪の相手は彼だけではない。資料にあった取り巻きの4人も一緒だった。合計5人が彼女を取り囲むように立ってる。まるで周囲から目隠しするように。

 たまらずその場にへたり込んだ瑞雪を、彼らの笑い声が包みこむ。

「俺達を勝手にレイプ魔扱いする以上、覚悟は出来てんだろぅな」

「そういや、昨日、俺達の邪魔をした新聞部員がいたな。そいつはどこにいる?!」

 瑞雪の両腕を起田川と承海が掴み、持ち上げた。瑞雪は恐怖のあまり、じたばたすることすら出来ない。

「やばいぞ。あいつ、もうちょい取材の仕方を考えろよ」

 彼らから少し離れた立木の陰に身を隠した高尾が残った缶コーヒーを飲み干した。

 高尾も決して取材がうまい方ではないが、瑞雪のはひどすぎる。これ以上険悪にならないうちに、彼女を助けた方が良さそうだ。見上げると、空こそまだ明るいがうっすらと月が見えている。固めた拳に力が入るのを確認した高尾が腰を浮かせたとき、

「ざけんじゃねえよ、ハゲで眉ナシなら相手がビビると思ってんのか!」

 岩麻たちが一瞬唖然とする。声の主は彼らの輪の中にいる瑞雪だった。

「この1ヶ月で女生徒が7人登校拒否になってんのよ。しかも、内2人は最後の登校日にあんたらに囲まれてどっかに連れ去られている姿が目撃されているの。昨日は空手部員が女の子を追っているのを先輩が見ているし。これで聞き取りしないって方が変だろ!」

 これが先ほどまで5人にビビって涙目で震えていた女の子なのか。目つきといい口調といい、完全に別人である。

 その勢いに岩麻たちが思わず棒立ちになったが、すぐに薄笑いを浮かべ

「あの件なら、俺達とは関係ないってことになったはずじゃねえのか」

「あれは全国大会が近いから。優勝候補者のスキャンダルを避けたい学園側がもみ消したってだけでしょうが!」

 叫ぶと同時に、思いっきり蹴りつける。油断もしていたのだろう。それはたまたま目の前にいた岩麻の股間にヒットした。

 いかに体を鍛えた武道の達人でもこれには勝てない。たまらず岩麻は体を折り、その場にうずくまった。4人の部員に動揺が走った。

 今だとばかりに高尾が飛び出した。そのまま彼女を捕まえていた起田川に思いっきり体当たり。油断していたこともあって彼女を巻き込んで派手にぶっ倒れた。

 そのまま返す体でもう1人の承海も蹴り倒す。

 突然の攻撃に唖然としている結坂の向こう脛を瑞雪が思いっきり蹴飛ばした。

「このまま逃げるぞ!」

 彼女を大きな荷物よろしくかついで走り出す。

「先輩、こいつら有罪。今決めました!」

「有罪有罪、だから今は逃げろ!」

 校舎に向かって走り出す。この時間ならまだ部活帰りの生徒がけっこういるはずだ。

「あいつら」

 起田川が立ち上がったとき、いきなり膝がくずれた。続けて立ち上がった転洞もまた同じように、崩れるように膝をついた。

「お前ら、何やってる」

 岩麻が股間を押さえ苦痛に耐えながら言うが

「しかし岩麻、何だか、うわっ」

 立ち上がるそばから膝が崩れてまた倒れる。まるで、見えない何かが立ち上がる部員たちを片っ端から膝カックンしているようだった。

「お前ら何して?!」

 立ち上がろうとしてはまた跪く。端から見れば、まぬけなダンスをしているようだ。

 とてもではないが、高尾たちを追いかけるどころではなかった。


「先輩~っ、怖かったですぅ」

 たっぷり1分は走り、校舎に駆け込んだ高尾は、すでに岩麻たちの姿が見えないのを確認して、ようやく立ち止まった。瑞雪を下ろして一息つく。

「もっと早く助けに来てくださいよぉ」

 瑞雪は高尾の胸を掴むと、思いっきり揺さぶった。すっかり涙目になっている。先ほど啖呵を切ったときの威勢の良さは微塵もない。

「悪ぃ悪ぃ。けど、1人で行くって言ったのはお前だぞ。おごってやる、何が良い?」

 隅にある自販機コーナーに向かう彼の背中に、瑞雪は

「レモンティー……。冷たいのお願いします」

 苦笑いしながら販売機に小銭を入れる。

(見かけによらず結構図太いところがあるな)

 彼女の第一印象が少しずつ修正されていくのを高尾は感じていた。それも彼にとって好ましい方向に。

「それにしても、お前はいつも……っていうより、しょっちゅうあんなになるのか?」

 岩麻に囲まれたとき、いきなり怒鳴り始めたことである。

「お前、確かあがり症だかで注目されるとしゃべれないとか部長から聞いたけど。変わり方が極端すぎて二重人格みたいだぞ」

 空になった缶をゴミ箱に放り投げる・缶はゴミ箱の縁に辺り、脇にこぼれた。気まずそうに高尾はゴミ箱に歩み寄り、こぼれた缶を入れ直す。

「……時々、ああなるんです。頭の中でカチッて音が聞こえて」

「キレるのか」

「キレるというか、何かのスイッチが入るみたいで……自分でオンオフできないスイッチなんて何の役にも立ちません」

 しょげる瑞雪。

「こうしていると別に普通に話せるのにな」

「あたしも不思議です。何だか先輩は他の人と違うというか……」

 半ばヤケにアイスティーを飲み干す瑞雪の姿に、高尾は知らないうちに顔がほころびていた。

 視線に気がついた瑞雪が見、それから逃げるように高尾が目をそらした。

「まあ、気絶するよりずっと良いさ。俺はてっきり、岩麻たちに囲まれたときに気を失うもんだとばかり思っていたぞ。俺と初めて会ったときみたいにな」

「あたしも……」

 瑞雪は空の缶をいじくりながら

「先輩と組むことになって、何人かに言われました。口説かれるから気をつけなさい。先輩は女の子と知り合いになるために新聞部に入ったんだって」

「そうだ。いい女を手に入れるって言うのは、男の人生でもトップクラスの大目的だからな」

「そういう動機、不純です」

「お前だって、新聞部に入ったのは自分の性格改善のためだろう。安心しろ。お前には手は出さねえよ」

 震えながら真っ青になった瑞雪が

「それは、あたしは女性の価値がないってことですか」

(面倒くせーっ)

 思いつつ、高尾は一瞬、瑞雪と恋人として付き合う自分の姿を思い浮かべていた。


「で、結局空手部からのコメントは聞けずじまいですか」

 気をつけで立つ高尾と瑞雪を前に、鞍馬義経はやっぱりとばかりに頷いた。

「第3号のレイアウトは第2版で進めます」

 鞍馬の言葉に残った部員たちが了解の声を上げる。この時点で、校内新聞の次号に高尾の記事は載らないことが確定となった。

「聞いても無駄ですよ。『はい、俺達が1人っきりの女生徒を見つけて襲いました』なんてコメントが返ってくるわけねえんだから」

「わかりきっていても裏付けは取るべきです。裏付けを取れば分かりきった事実ですが、取らなければ書き手の決めつけになってしまいます」

 高尾の下唇が突き出される。彼の記事が紙面を飾ったことは一度もない。もともと女の子とお近づきになるための手段とは言え、まったく紙面に関わり合いが持てないというのは面白くない。

 ちらと瑞雪を見た高尾の視線が、瑞雪のそれと出会った。

「あ、あの。部長……」

 真っ青になった瑞雪が弁解を試みようとするが

「何か」

 と鞍馬に見据えられた途端、瑞雪の時間が停止した。

 完全に時間が停止した瑞雪を前に、鞍馬はじっと彼女の時間が動くのを持っている。決して焦って怒鳴りつけたりしない。

(こういうとこ、部長はすげぇと思うわ)

 高尾は感心した。自分には絶対出来そうもない。

 5分経過。瑞雪の時間が動き出す。

「次は、頑張ります!」

 深々と頭を下げた。

(なんだそりゃーっ!)

 高尾は瑞雪の襟首を掴むと、「失礼します」と叫びながら部室を出て行った。

 2人が出て行ってすぐ、鞍馬の携帯が鳴った。明子からだった。

「ご苦労様、どうでした?」

 いつもより小声で鞍馬は受けた。

《岩麻たち、かなり荒れてます。越前先生もなだめるのに相当苦労していました。ちょっとかわいそうに思えたぐらいです。岩麻本人たちは部員たちに当たり散らして、今日は練習にならないって早々に打ち切って、今、帰り支度をしています》

「気配はどうです?」

《今のところは……でも、こういうのは初めてなので、私が感じとれないだけかも》

「気にしないでください。君は力は強いですけど戦い向きじゃありません。それに、向こうの狙いが空手部と決まったわけでもありません。私ももう少しで仕事が終わりますから。それまで引き続き監視をお願いします」

《わかりました……けど。もうしすこし暖かいと良かったんですけど。裸でいると寒いです》

 電話の向こうが、明子の小さなくしゃみが聞こえた。


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