【32・誰かを助けることは】
「はやく、早く来い」
風の球体を維持しながら尾似島は焦っていた。
足下で体の焦げた羽宇が呻く。まだ間に合う。まだ助けられる。だがその為には執拗に攻めてくるこの炎を何とかしないといけない。何とかしても、あの烏天狗や狼天狗が黙って見逃すとは思えない。自分は平気だが、羽宇が持つかが心配だった。
風に纏わり付く炎が消えた。だが次の瞬間、決意を固めた燃え女が真っ直ぐ突っ込んでくる!
とっさに尾似島は風を強め、そこへ彼女が突っ込む! 体が風に流され巻き込まれ、燃え女は炎の帯となって尾似島達の周囲を巻く。
「正気か?!」
だが、周囲を流れる燃え女の顔が一瞬視界に入ると同時に彼の顔は引き締まる。
風越しに見えた瑞雪の顔は、手段を見失ってやけくそになった者の顔じゃない。一筋のチャンスの糸を絶対に捕まえると決意した目だ。
(こいつ。何を狙っている?!)
流れる炎が少しずつ近づいているように見えた。
「しまった!」
彼らを包む球体の風は外からの攻撃を外に吹き飛ばす。だだ風を作る空気は中から勝手に湧いてくるわけではない。外に流す流れがある以上、外から中に取り込む流れもある。それを見つけ、身を投じれば流れに乗って球体の内側に出る。ただ放たれた炎ならばともかく、燃え女、意思ある炎なら。
尾似島がとっさに視線を落とした。外からの空気を中に取り込む際の出口がそこにある。燃え女の炎が空気の流れに乗ってそこから噴き出すように飛びだした。その目は尾似島ではなく羽宇に向けられ
「父さんと母さんの、仇ーっ!」
例えここで風に吹き散らされてもかまわないとばかりに、ありったけの熱を放出する!
このままでは燃え女の熱が内部に閉じ込められる。尾似島がとっさに風を止めた。勢いを失った風は炎を閉じ込める力をなくし、瑞雪の熱に押されるように拡散した。
羽宇を抱きかかえようと腰を落とした尾似島の目の前に、いきなり女性の裸の胸がどアップで出現した! 明子だ。無姿で近づいた彼女は、いきなり彼の目の前で姿を現した。彼の視界が彼女の乳房で覆われる。
羽宇に伸ばしかけた腕で明子を払おうとした途端、彼女が再び無姿化し、腕はむなしく空を切る。
視界から彼女の裸体がなくなり開けた途端、高尾の姿が見えた。
高尾は短くした金剛杖を突き出そうとするかのように腰に構えている。左手は添えるように下に、右手は押し出そうとするかのように杖の後ろに構えながら、ひたすら自分の妖力を金剛杖に集めている。
(いかん!)
高尾のやろうとしていることに気がついた尾似島は再び羽宇に手を伸ばす。そこへ一気に間を詰めた鞍馬が刀を構え飛び込んできた。明子が裸体をさらしてまで彼の目の前に現れたのは視界を防ぎ鞍馬が近づく隙を作るためだった。
尾似島の反応が一瞬遅れた。それを鞍馬は逃さない。妖力を乗せ切れ味を増した刀が尾似島の左足を断つ! と同時に体を回転させ相手の顔面に蹴り、爪の1本が尾似島の眼を切り裂いた!
思わず立ち上がろうとする尾似島だが、左足が切断されているためバランスを崩し手をついた。
「高尾君!」
鞍馬が叫ぶと同時に後ろへ跳ぶ。
「そこだぁーっ!」
咆哮と共に高尾がありったけの妖力を乗せた金剛杖を弾丸のように射ちだした! 反動で彼もひっくり返る。
尾似島が自分めがけて突っ込んでくる強大な妖力の塊を捕らえた。が、全身を焼かれ、片腕片足を切り押され、片目を潰された彼はそれを躱す余裕がない。数年ぶりの恐怖を感じた。これを喰らったら終わりだ。
その時、何かが尾似島と金剛杖の間に割って入った。
ぼろぼろのサキュバスの背中が見えた。
「クレーバー?!」
皆の眼前で羽宇は高尾の金剛杖をその身で受け止める。
しかし、金剛杖の勢いは止まらない。羽宇の体を貫き、その後ろの尾似島をも貫く勢いだ。
絶叫と共に羽宇が金剛杖を掴んだ。さらに彼女の妖力が勢いを止めようとする。
急激に勢いが弱まり、羽宇の背中から飛び出た金剛杖が止まった。その先端は正にあと数㎝で尾似島に届くところだった。
「クレーバー……」
呆然とする尾似島を羽宇は腹を金剛杖に貫かれたまま振り返り
「……よかった」
と血を吐いた。サキュバスも血は赤かった。
「いっぺん守る側に回ってみたかったんだ……いつも、あんたに守られてばかりだから……」
妖力を失った金剛杖が溶けるように消え、そのまま羽宇は倒れた。口と腹から流した血で凍ったアスファルトを赤く染めて。
「馬鹿野郎、逆だろう」
尾似島が慌てて羽宇を抱き起こすが、何しろ瑞雪に全身焼かれた上、高尾の妖力を込めた金剛杖で腹をぶち抜かれたのだ。もう彼女が助からないのは明らかだった。
「あんたが死んだら……あたしら人喰いは……困るんだよ……。けど……あんたすごいね。人を守るって、こんなに痛いもんなんだ……こんなことをあんたはずっと……ありがとう……」
羽宇は尾似島に向け笑顔を作る。
その顔が今度は不満げに歪み、空を見る。
そこには燃え女となって浮かんでいる瑞雪がいた。
「ちょっとあんた……燃え女だったら、さっさと思い出してなさいよ。だったら……あんたの親を……殺さずに済んだのに……燃え女と雪女は正反対……燃え女は人喰いじゃない……うまくバランスを取れば……お互い打ち消し合って……人喰いにならずに済む……かもしれない。まぜものとしては……三流以下の力に……なるだろうけど……」
「しゃべるな。もうすぐ迎えが来る」
しかし羽宇の口は止まらない。
「あたしは人喰いと……人喰いのまぜものなのに……あんたは……ずるいよ」
激しく咳き込み、一気に大量の血を吐いた羽宇は、
……そのまま動かなくなった。
……
……
……
誰も動かなかった。どう動けば良いかわからなかった。
尾似島の喉が鳴った。唸るような、吐き出すような、絞り出すような。
空気を振るわせ、尾似島が吠えた。全身から無数の稲妻が吹き出し、周囲の自動車たちを貫いては爆発、炎上させていく。
鞍馬が避雷羽根を飛ばした。稲妻が次々と避雷羽根に吸われていくと思いきや、羽根が爆発するように砕け散った。避雷羽根の限界を超える稲妻だった。
稲妻は高尾たちに襲いかかる。瑞雪の炎の体は稲妻をすりぬけ、葛生の体は稲妻に打たれても表面を流れる油が稲妻を地面に流していく。
だが高尾はまともに稲妻を受け、鞍馬も何もない空間―おそらくそこに明子がいる―を守るようにして稲妻をその身に浴びた。
「こ、この野郎」
ひっくり返り、起き上がる力すらままならない高尾が驚愕の声を上げる。
「これまでずっと、手加減してやがったのか」
今までの戦いが嘘のような尾似島の攻撃。最初からこの調子で攻撃していれば、駐車場の戦いは1分とかからず彼の圧勝で終わっていただろう。
鞍馬が右に左に稲妻を躱しながら尾似島に挑むが、彼の目の前で突然その動きが止まる。赤く光る彼の目の前で鞍馬は硬直して動けない。妖力による金縛りだ。
咆哮と共に無数の稲妻が鞍馬に襲いかかる。彼の刀が木っ端微塵になり、それを握っていた彼の両腕、肘から先が爆散するかのように吹き飛んだ。
「義経!」
「部長!」
両腕が砕けた鞍馬は白目を剥いて大地に転がる。両腕を吹き飛ばされた衝撃で意識を失っている。
高尾が跳んで鞍馬を守るように尾似島の前に立ち塞がる。
振動声吐息!
口の中がボロボロなので威力は弱いが、至近距離からの直撃だ。が、尾似島はものともせず体の表面を削られながら片足だけで跳びかかり、渾身の拳を高尾の顔面に叩きつける。
残った牙のいくつかをこぼして高尾が倒れる。と、その左腕を尾似島は脇で挟むように固めると、思いっきりねじ上げる。同時に稲妻を浴びせながら
高尾の苦悶の叫びが轟き、固められた左腕が肩口からむしるように捻り切られた。
鮮血が飛び、駐車場に高尾の悲鳴が轟く。
「先輩!」
瑞雪が炎の塊となって突進する。が、尾似島の一睨みで発生した突風に吹き飛ばされる。
「やめんか尾似島!」
葛生の一喝した。
「お前のしたいのは敵討ちか」
だが尾似島の動きは止まらない。ねじ切った腕を投げ捨てる倒れ、血を吐いて気を失い痙攣している高尾の頭をジャンプしては踏みつける。2度、3度!
羽宇の仇とばかりに尾似島が右腕を振り上げると、その拳に稲妻が集まり巨大雷球を作り出す。こいつを高尾の頭に叩きつけようというのだ。そうなれば高尾の頭は完全に吹き飛ぶ。いくら狼天狗といえども即死だ。
「やめてーっ!」
風に散らされかけた炎の体を戻しながら瑞雪が叫ぶ。
そんなものは聞こえないとばかりに尾似島は雷球の宿る右腕を高々と掲げ
「ストップ。ミスター尾似島」
いつの間にか、尾似島の頭の角にそれは立っていた。
黒のタキシードに黒マント。青白い顔に真っ赤な瞳。ピンと立った耳。細い体で腕を組み、角の上に直立している。
「それ以上のことは面倒になりますぞ」
開いた口から鋭い牙がのぞく。
「……男爵……」
男爵と呼ばれた男は角から舞うように下り、尾似島と対峙する。
「これ以上戦うとなれば、私は貴殿を止めなければならぬ。私と戦うか、ミスター尾似島。その体で」
見据えられて尾似島の腕から雷球が消えた。そのまま静かに腕を降ろす。
「そうそう。それが賢明というもの」
薄笑いを浮かべながら男爵は葛生に振り向き
「貴殿のことは伺っております。ミスター葛生、見ての通り私どもにもう戦う意思はない。ミスター尾似島の手当をお願いできますかな」
手を伸ばすと、転がっていた尾似島の左腕と左足が吸い寄せられるように彼の腕に収まる。
「やっても良いが、やはりこっちが先じゃな」
葛生はねじ切られた高尾の腕を拾い、先に拾ったまま治し損ねていた羽根と共に元通りにくっつけようとする。
「乱暴なちぎりかたしおって。合わせるのが面倒じゃ」
どうにか傷口を合わせて蟇の油を塗りつける。幸いにも高尾はねじ切られたショックで白目を剥いて気絶しており、抵抗しない。
腕と片翼がかろうじてくっつくと、高尾の目に瞳が戻り呻き始める。それに気がつき葛生は
「こいつ生命力は一流じゃな」
心配げに高尾をのぞき込む瑞雪を尻目に鞍馬を見る。が、彼の失われた両腕はバラバラの肉片となっている。とりあえず傷口に油を塗り
「この腕は自力で再生せんと。元に戻るまで1週間近くかかるな。明子ちゃん、服着たらこいつについてやってくれ」
「はい」
声だけ聞こえ遠ざかっていく。明子が隠してある服を取りに行ったのだ。
一息ついた葛生は「さて、それじゃこっちに行くか」尾似島に歩み寄り、男爵から左足を受け取ると、
「ほれ、切り口を出せ。これだけ綺麗に切られるとくっつくのも早い」
座り込み、前に出した左足の切り口と受け取った足とを合わせ、両手で傷口を挟み込む。掌から油がにじみ出て切り口に広がると、切られた左足はピタリとくっついた。同じようにして左腕もくっつける。
ボロボロになった右腕にも蝦蟇の油を塗りながら
「ところでお前さん。太陽の下に出て良いのか? 吸血鬼じゃろう」
朝日を浴びている男爵に語りかける。
「いかにも。私は吸血鬼のまぜもの。ドラキュラ男爵」
「伯爵ではないのか?」
「オリジナルに敬意を表して、低い爵位を名乗っております。まあ、爵位も名前も自称ですけれどね。それと、まぜもの故に私の力はオリジナルより劣りますが、弱点の影響も弱まっておりまして。見ての通り日の光を浴びても大丈夫。ニンニクも平気ですし、十字架など屁でもありません、これでコミックのように血をトマトジュースで代用できれば言うことないのですが、さすがにそこまでは」
そこへ季節外れの冷気が流れてきた。溶けた氷が再び凍り付く。
「雪姫のご到着だ」
静かに冷気を纏い、髪の白い女性が静かに歩いてくる。男爵とは対照的に全身白の洋風コーディネート。髪は白いが顔立ちも肌も20代後半に見える。
「遅れて申し訳ありません。間に合いませんでしたか」
涼やかな風鈴のような声に男爵は「それは違う」と言うように立てた人差し指を左右に揺らし
「我らは時間通りに来た。ミスター尾似島達が持たなかったというべきでしょう」
倒れている鞍馬や高尾たちを見回し
「もっとも、ここは相手の頑張りを褒めるべきですかな」
雪姫は羽宇の遺体を見下ろし、哀しげな目をした。
「何があったのかは知りませんが……やり過ぎないかと心配でした」
ゆっくりと首を左右に振る。知らなくても何か感じることはあるらしい。
静かに両手を羽宇にかざし
「帰りましょう。長く眠るのにここは固すぎます」
途端羽宇の体が宙に浮くと分厚い、棺を思わせる氷が彼女を包み込んでいた。
「な、何だ」
意識を取り戻した高尾が目をしょぼしょぼさせながら力なく立ち上がり
「こいつら、新手か」
残ったわずかな牙をならし
「待て高尾、休戦中じゃ」
葛生の言葉も間に合わず振動声吐息を吐こうとした途端、高尾の体が凍り付く。
雪姫に凍らされたままの姿勢で彼は倒れた。
「先輩!」
瑞雪が彼に抱きつき一気に燃え上がる。が、
「溶けない?!」
「ミス燃え女、あなたの炎では雪姫の氷は溶かせない」男爵が「何しろ雪姫は雪女と氷の女王のまぜものですからな」
「男爵様、女性のプライバシーは軽々しく口にして良いものではありませんよ」
凍った高尾を愕然と見下ろす瑞雪に
「死にませんのでご安心を。私たちが離れるまで凍ってもらっただけです。すぐに溶けます」
雪姫は静かに周囲を見回した。
静かにうなだれている尾似島。凍り付いた高尾に抱きついている瑞雪。監視するように静かに、ゆっくり1歩ずつ後ろ向きに離れていく男爵。
意識を取り戻したのか、呻きながら上半身を起こす鞍馬とそれを支える葛生。
駐車場の外から服を着ながら、姿が見える状態で明子が走ってくる。
「それでは私どもはこれで失礼します。尾似島様、事情は帰ってからゆっくり聞かせてもらいますよ」
一礼すると雪姫は男爵を従えるように駐車場から歩いて行く。2人の後ろを静かに羽宇の氷の棺が宙を浮いて付いていく。
1人立ち続ける尾似島は静かに扇ぎ
「……また、救えなかった……」
つぶやく彼に葛生が歩み寄り
「尾似島、戻ってこい。お前は疲れすぎじゃ」
「断る!」
即答した。
「俺は死ぬまで人喰いを守る!」
言い切ると、彼は凍ったままの高尾に歩み寄り
「クレーバーを殺したことでお前を憎むことはしない。が、決して忘れん」
尾似島はそれで吹っ切れたかのように、瑞雪に向き直ると
「今回は違っていたが、これでお前の人喰い化が否定されたわけではない。怯える必要はないが、覚悟はしておけ。目をそらすな」
くっついたばかりの足を気遣うようにゆっくりと雪姫達の後を追っていった。
彼らが立ち去り、その姿が見えなくなり、妖力も感じられなって、皆がやっと力を抜くことが出来た。
それを待っていたかのように高尾を覆っていた氷に亀裂が入り、砕けるように剥がれ落ちる。
「あーくそ。死ぬかと思った」
ゆっくり高尾が体を起こそうとして、右腕と翼の痛みに顔をしかめる。
「くっついたばかりじゃ。無理に動かすとまたもげるぞ」
「爺さん、ありがとうよ」
「状況は解るか?」
「何とか。氷越しにいくらか話が聞こえたからな」
「あの……」
瑞雪が申し訳なさそうに、何とか体を起こした高尾の前に座った。燃え女時の気の強さはどこへやら、
「先輩……ごめん……ごめん」
体を縮こませると、炎も合わせて小さくなってく。お詫びの言葉と共にどんどん小さくなり、ついにはマッチの先ぐらいの大きさになってしまった。
「おいおい、その辺で止めろ。俺の鼻息で消えちまうぞ」
言われて瑞雪も、何とか子供ぐらいまで大きくなる。
「先輩。その……戻って、いいよね」
恐る恐る高尾を見上げた瑞雪に、高尾は座り直すと
「お帰り」
途端、感極まった瑞雪が一気に燃え上がり高尾に抱きついた。
「あぢゃぢゃぢゃぢゃ!」
抱きつかれて火だるまとなった高尾がのたうち回る。
「元に戻れ。燃え女のままだと俺が燃える!」
さすがに炎の体の弊害に気がついたのか、瑞雪は元に戻る。雪女でもない。人の姿だ。
「これでいいですか?」
ほっとするが、目の前の高尾が慌てて目をそらし
「瑞雪、服、服が」
「服?」
自分の体を見た途端、瑞雪は真っ赤になった。
何も着ていない。素っ裸だ。
悲鳴を上げてその場にうずくまると、葛生が笑い出し
「燃え女の肉体は炎じゃからな。服が全部燃えてしもうたんじゃ。燃え女になるときは気をつけるんじゃな」
「エロ爺、見るんじゃねえ。瑞雪の裸は俺んだ」
叫びながら周囲の視線から隠すように高尾が瑞雪を抱きしめ、翼で包み込む。
裸のまま高尾に抱きしめられ、瑞雪が悲鳴を上げて雪女化、冷気を吹き出す。
あっという間に高尾が凍り付いた。
「先輩、ごめんなさい!」
燃え女化して氷を溶かす。途端、彼のの身体が炎に包まれた。
「ああ、ごめん!」
今度は雪女化して炎を消す。途端、高尾が凍りつく。
また燃え女化して炎に、雪女化して氷漬け。
火だるまと氷漬けを交互に繰り返す高尾と瑞雪の姿に、
「君たち、落ち着きなさい」
呆れて言う鞍馬の横で明子が
「無理です。大切な人があんなことになって、落ち着けなんて」
静かに鞍馬の砕けて肘から先がない両腕を手にし
「無理です」
そっとうなだれ、肘の傷に頬を当てた。その下にいくつもの涙がこぼれ落ちる。
「透野さん」
腕が無事なら抱きしめるだろう鞍馬の姿に葛生は仕方がないと息をつき、懐から携帯電話を取りだした。
「もしもし。雫ちゃん、わしじゃ。すまんが迎えをよこしてくれんか。それと館内着を持ってきてくれ。瑞雪ちゃんが生まれたままの姿で困っておる。早く頼むぞ。結界を張り続けるのも大変なんじゃ。ええと場所は……」
戦いでぐしゃぐしゃ、止めてあった車は全て全壊の駐車場を見回した。




