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まぜもの妖談 ~狼天狗と雪女~  作者: 仲山凜太郎
24/33

【24・母の嘆き】


 学校ではちょっとした騒ぎが持ち上がっていた。昨日の放課後から、岩麻たち5人が行方知れずになっているからだ。

 無理もない。全国大会を控えたこの時期に、優勝を狙える部員たちがそろって行方不明になってしまったのだ。学園が恐れているのは5人がある事件に巻き込まれているのではないか。それも被害者ではなく、加害者の形でというものだった。

 被害者ならばまだいい。しかし加害者として警察に捕まったり、報道されたりしたら。かつて同じようなことが起こっても学園が問題にしなかったことが明るみに出たら。これを機に、口止めしてきた被害者たちが口を開き始めたら。

 だから、この行方不明に真っ青になったのは生徒より学園の上層部だった。

「何でも良いんだ。岩麻君たちの行方について知っていることが、思い当たることがあったら教えてくれ」

 放課後、学園の来客用応接室。そこに高尾と瑞雪は呼び出しを受けていた。もちろん、岩麻たちの行方不明についてだ。

「俺達よりも、他の部員に聞いてくださいよ」

「とっくに聞き取りを行った。それで駄目だからお前たちを呼んだんだ」

 越後先生は震えながら、並んで座る高尾と瑞雪に詰め寄ってくる。普段から生徒たちに威張り腐ってふんぞり返っている姿が、今は逆に縮こまっている。いつもはむかつく先生としていけ好かなく思っていた高尾だが、さすがにこの姿は哀れに感じた。

「そうは言われても、俺達も取材を始めたばかりで、詳しいことは知っていません。これからって時でしたからね」

 白々しくないよう気をつけながら高尾は答える。まさか岩麻たちは全員サキュバスに精気を吸われて食人鬼に喰われましたとは言えない。

「しかし、お前たちは新聞部の取材で彼らに接触していたはずだ」

「お願いします。何でも良いんです」

 と越後先生の横で中年の女性が泣きながら頭を下げた。岩麻の母親であった。

 他にも4人の部員の親たちがおり、彼らも不安を隠さない。

「どこそこに行くつもりだったとか、誰かに会うらしいとか、本当に何でも良いんです」

 涙ながらに訴える岩麻の母はげっそりとやつれていた。

「私も、息子の悪い噂はいろいろ聞いています。そして、それがみんな本当だということも。あの子がお友達とどんな目にあわされても、それは自業自得かも知れません。いいざまだと笑う人がたくさんいるかも知れません」

 震えた声で語り続ける。息子がどんな人間だったのか、それを彼女はよく知っている。周りからどんな目で見られているのかも。

 それでも、彼女には大事な息子なのだ。

「あの子たちがどこにいるのか、わかっているなら教えてください」

 彼女が頭を下げるのも、もう何度目かわからない。困った高尾は袖を引っ張られる感じがした。見ると、瑞雪が真っ青になって彼の袖を掴んでいる。

「すみません、本当に知らないんです。失礼します」

 瑞雪の手を取ると、高尾は越後先生の制止を無視して応接室を飛び出した。そのまま一気に廊下を走り抜け、階段を駆け下り校内をぐるっと回るように通用門から外に出る。

 一息ついた途端、通用門から2人を追ってきたかのように鞍馬と明子が出てきた。高尾たちよりも早く鞍馬事情聴取を受けている。

「よけいなことは言っていませんね」

「言えるわけないでしょう。言っても信じてもらえるとは思えませんけどね」

 ちなみに、羽宇については白無垢学園に該当者はいなかった。制服は、単に敷地内を怪しまれずうろつくために着ていただけなのだ。

「河原に食い残された5人の制服は昨夜の内に処理しました。家族には悪いですけれど、このまま行方不明として処理されるでしょう」

 高尾にとって苛立ちばかりが募る展開だ。

「このまま放っておくんですか」

「よくあることです」

「え?」

「私たちの正体を知った人間の反応は様々です。ナイショにして友人になった人もいます。まぜものと知った上で愛し、夫婦になった人間もいます。

 しかし、中には口止め料を要求するものもいるんです。お金だったり、自分のために邪魔な奴を殺すよう要求したり、自分の奴隷になれなんてのもいました。そういう人間に対して、私たちはどう対処したと思いますか」

 高尾も瑞雪も絶句した。

「そういうことです」

 鞍馬の見せる微かな笑みがとてつもなく恐ろしく感じた。

 しかし、それでも高尾たちの心は納得しなかった。

「耐えなさい。まさか制服や食べこぼしの肉片を見つけて警察で鑑定すべきと言うんですか? 制服は焼け焦げ、山梔子とか言う食人鬼の唾液と彼ら自身の肉片がついている」

「わかってるよ」

「私だって黙っているわけではありません。この学園では、これ以上彼女たちに生徒を喰わせるつもりはありません。すでに忠告はしました」

「忠告って、あいつらに会ったのか」

 つめよる高尾に、鞍馬は夜、尾似島がやってきたことと、そこでの会話の内容を説明した。

 さすがにさゆりの事では高尾も瑞雪も顔色が変わった。

「あたしも、さゆりさんみたくなっちゃうんですか。理性が飛んで、目の前の人を凍らせて」

「尾似島さんはそう考えているようです。そして、兆候が出てから動いては遅いとも」

「勝手に決めつけてんじゃねえぞ。人喰いども!」

 苛立ちのあまり、高尾はつい叫び、すぐにそれが失言だと気がついた。

 慌てて瑞雪を見ると、彼女の顔は真っ青になって引きつっていた。

「あ、いや。違うんだ。これは」

「お先に失礼します」

 それだけ言って頭を下げると、瑞雪は教室を飛び出した。

 慌てて高尾が追った。追いついたところで何をしたら良いのかわからなかったが、とにかく追った。

 彼女が校門を飛び出すのを追う。一気に追いつこうと足を速め、彼も校門を駆け抜けようとした途端、見覚えのある男が立ちはだかった。

「尾似島!?」

「覚悟は決めたのか」

「どけよ!」

 脇を駆け抜けた途端、突風が吹いた。高尾の体が宙に浮き、学校の外壁に叩きつけられる。

「覚悟もないまま声をかけてどうする。お前が声を掛けるのは、あの雪女を助けたいからじゃない。自分は見捨ててないという言い訳のためだ。そんな理由で差しのばされた手は、却って相手を苦しめるぞ」

 立ち上がり、身構える高尾に対し

「今は戦う気はない。話がしたいだけだ」

「そんな暇はねえよ」

「仲間内で話し合った結果、明日、遅くても明後日には俺とクレーバーはこの町を出ることが決まった」

「え?」

 高尾の拳に込めた力が緩んだ。

「他のまぜものたちと争ってまでここに留まる理由はないということだ。だから、今のうちにお前と話がしたかった」

「何を話すって言うんだ?」

 拳を下ろした。高尾も、話の内容によっては少しは付き合っても良いかと思い始めていた。

「お前は、あの雪女を守りたいか」

「当たり前だろう。あいつは俺の……その……後輩だぞ」

「それだけか」

 高尾は答えなかった。

「まぁいい。とにかく、あの娘を助けたいと思うなら俺を手伝え」

「手伝えって、何をだよ」

 尾似島が目を流した。校内で生徒達の何人かがこちらを見て何か話している。

 校内から越後先生が岩麻の母達を伴って出てきた。

「邪魔が入らないところで話そう」

 尾似島の周りに風が吹いた。高尾の襟首を掴んだ彼はそのまま大空に舞い上がる。風神の飛翔能力である。

 一方、瑞雪は学校を出てしばらく走っただろうか、ようやく足を止めて息を整えた。

 振り返っても誰もいない。

「あ……」

 自分から逃げたはずなのに、高尾が追ってきてくれないのが寂しかった。なんだか見捨てられたように思えた。

 瑞雪は迷った。このまま帰ってしまおうか、それとも誰か……おそらく高尾が追いかけてくるまで待っていようか。

 なかなか決められずにいるところ

「はーい彼女、お茶しない」

 軽い声に振り返ると、制服姿の羽宇が立っていた。


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