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まぜもの妖談 ~狼天狗と雪女~  作者: 仲山凜太郎
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【2・高尾山太郎】


「どうしたんだ。見たところ記録が伸び悩んでいるみたいだな。悩み事があるんだったら相談にのるぞ。立場は違っても、同じ白無垢学園の生徒じゃないか」

 高尾山太郎は目の前の女子に録音をONにしたスマホを向けた。競技用水着を来た彼女は露骨に嫌な顔をして、結構ですとばかりにスマホを軽く払いのせる。

「そんなこと言わずに。新人で困った奴でもいるのか? 大会に向けてのプレッシャーか? それとも体の問題か。確かに見た感じじゃ去年に比べてバストが3センチぐらいでかくなったから泳ぎには邪魔になるかも知れないが」

「いい加減にしてください!」

 屋内プールに、女子水泳部部長・清希流行の声が響いた。周囲の部員たちが驚いて彼女たちを見る。

「あなたは何のためにここに来たんですか? 夏の大会に向けての取材のためでしょう。それが好きなタイプとか食べ物とか、やっと水泳の話になったと思ったら今度は……あたしの胸のサイズなんて関係ないじゃないですか」

「そんなことはない。学園女子水泳部のマドンナのスリーサイズと言えば、男子生徒の大半が知りたがっている情報。俺は新聞部員として、彼らの知る権利に応える義務がある!」

 きっぱり言い放つ高尾の姿に、流行は軽いめまいを覚えた。このままでは本当に体調を崩しそうだ。

「それをのぞいたとしてもだ。記事を書くにあたっては、相手のことを理解する必要がある。すなわち、俺は君のことをもっとよく知る必要がある!」

 高々と拳を掲げ宣言する。彫りの深い顔と185㎝の身長。そして制服越しでもわかるギリシャ彫刻を思わせる体格の良さのおかげが、その姿は実に決まっていた。それも道理で、彼は名前こそ純和風だがギリシャ人を父に持つハーフである。

 しかし、ポーズを取る彼に与えられたのは拍手ではなく、女子水泳部員たちのため息と冷めた視線だった。かろうじて彼のことをまだ知らない一年生が数名、思わず目を止めただけだ。

「遠慮はいらない。悩みが相談に乗ろう。例え良い解決策を出すことが出来なくても、口に出すだけでだいぶ楽になるもんだ」

「当面の悩みはしつこい新聞部員を追い返せないかって事です」

「それは困ったな。俺に話してみろ。そいつを追い返してやる」

「あなたのことです!」

「そんなはずはない。俺のことだというならば、お互いの理解が足りないからだろう。2人っきりでお互い理解を深め合おう」

 笑顔で歩み寄ろうとする高尾の襟首がぐいと引かれた。

「足りないのはお互いの理解ではなくて、あなたの脳みそです」

 高尾が振り返ると、彼の知っている中性的な顔立ちの人がいた。周囲の女子水泳部員たちが顔を赤らめる。

「あれ、透野先輩。部長の用事は良いんですか」

 口調が柔らかくなる。高尾も一応は部内の上下関係ぐらいはわかっている。

「私の用事はあなたを連れ戻すこと。新聞部のためにもね」

 言うやいなや、彼女の膝が高尾の膝の裏をついた。彼の膝が崩れ落ちた隙に合わせて、その腕をねじり上げる。

 たまらず高尾が悲鳴を上げた。新聞部ではちょっと知られた彼女の膝カックンからのねじり上げである。

 周囲の女子たちから声が上がった。自分より一回り大きな男をねじ伏せた動きに対する賞賛の声だ。

「俺の時とは反応が違いすぎるぞ。わかってんのか。透野先輩は女だぞ!」

 苦痛のうめきと共に高尾が声を上げた。

 彼が透野先輩と呼ぶ彼女の本名は透野明子。170㎝を超える身長。慎ましい胸の膨らみは顔立ちを伴って傍目には色白の男性にも見える。しかし、髪はかろうじて肩に掛かる長さだし、着ているのはれっきとした女子の制服であり、スカートだ。

「格好良いのに男も女も無いわよ」

 水泳部員たちの黄色い声に明子が息をついた。こういう反応が嫌で、彼女は髪を伸ばし始めたのだ。今はちょっと中途半端な長さだが、ある程度伸びれば三つ編みのお下げにしようと思っている。

 こんな周囲の反応は、当然、高尾は面白いはずもなく

「透野先輩、ここは俺1人で間に合っています」

 と突き放そうとする。だが、明子は彼をつかんだ手を放さない。

「それ以前の問題です。水泳部の取材は宮下君と鹿賀さんの担当のはずですけど」

「2人からどうしても変わってくれと」

「言われなかったから2人をトイレに閉じ込めて自分が来たというわけですね」

「口で言ってわからない場合は、実力行使もやむを得ない。昔から認められてきた常套手段でしょう。それとも、俺が他の女に向いているのが嫌だとか」

「その性格がこの1年、どれだけ新聞部に迷惑をかけてきたかわかって……いないですね。部長がお呼びです」

 明子はねじり上げた高尾の腕を放すと、今度は襟首と腰に手をやり

「むんっ!」

 そのまま彼を頭上に差し出すように持ち上げた。80㎏を超える高尾をこうも簡単に持ち上げるとは、とんでもない力である。

「ちょっと先輩、下ろして。格好悪い」

「だからしているんです」

 そのまま明子は頭上に高尾を差し上げたまま、屋内プールを出て行った。


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