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まぜもの妖談 ~狼天狗と雪女~  作者: 仲山凜太郎
17/33

【17・月下の咆哮~覚醒・狼天狗~】


 鞍馬はライトグレーのシャツにくすけた紺のベスト。スニーカーにズボンと、今まで家でくつろいでいたような格好である。今まで学園内で制服姿ばかりだったので、高尾は一瞬戸惑った。

「部長、逃げろ。こいつら人間じゃない」

 しかし鞍馬本人はまったく驚いた様子がない。雪女ではあるものの制服姿の瑞雪はまだしも、鬼のような尾似島とサキュバスの羽宇、そしてなにより宙に浮かぶ巨大生首の山梔子を前にしているのに。

「こいつら本物だぞ。コスプレなんかじゃねえ」

「知っています。まったく、もっと何とか出来なかったのかと自分が嫌になります」

 右手を振るうと、その手に錫杖が現れ、さらに刀に変化する。片刃の、要するに日本刀だ。

 跳躍した鞍馬の刀が、高尾を縛り付けていた山梔子の髪を切断した。

 地面に落ち、尻餅をついた高尾はすぐさま立ち上がり、絡みついている髪を引きはがす。

 鞍馬が羽宇たちを睨みながら地面に手を付ける。途端、周囲の石がつぶてとなって山梔子と尾似島に襲いかかった。

「いでででで」

 まともに顔面に食らった山梔子が悲鳴を上げた。しかし、尾似島は無数のつぶてを受けたにもかかわらず、全くひるむことなく鞍馬を見据えた。

「なるほど。あなたが先夜そちらのサキュバスの言った私より強いお仲間ですか」

 尾似島は鞍馬の言葉には返事をせず、両手を左右に広げた。その拳をボクシングのグローブのように雷球が包み込む。

「このつぶて技、貴様、天狗か?」

 尾似島が腕を振るうと、雷球が鞭のように伸びて鞍馬に襲いかかった。

 しかし鞍馬は焦ることなく、右手を大きく振って襲い来る稲妻を右に左に払い飛ばす。その腕に握られた刀はいつの間にか八つ手のような羽団扇へと姿を変えていた。

「む」

 眉をひそめた尾似島が続けざまに稲妻を鞍馬に落とす。

 鞍馬は羽団扇を振るって自分を中心とした竜巻を作り出す。尾似島が落とした稲妻は竜巻に流され、彼の周囲を回るだけで彼には全く届かない。妖力を帯びた竜巻は妖力の稲妻に対して有効だ。

 稲妻を絡め取る竜巻の中心で、鞍馬の姿が変わっていく。着ている服が修験者のものに変化していき、顔から短い羽が生え、口が尖り嘴へと変化する。背中からは大きな緑がかった白い翼が姿を現す。

 稲妻を止めた尾似島が改めて鞍馬と対峙する。竜巻が消え、露わになった鞍馬の姿は人間ではなかった。

「烏天狗のまぜものか」

 高尾にも羽宇にも見覚えがあった。昨日と今日、月を背に立ち、高尾に語りかけたあの烏天狗であった。

「訂正してください」

 羽団扇を突き出すと、それは鞍馬に握られたまま刀へと変化した。

「私はまぜものではありません。生粋の烏天狗です」

「へぇ、今時珍しい」

 感心したように羽宇がつぶやいたとき、彼女の膝の裏が思いっきり蹴飛ばされた。不意打ちの膝カックンに思わず瑞雪を放して膝をつく。

 急いで瑞雪が羽宇から離れた。

「逃がさねえよ」

 山梔子の髪が瑞雪に伸び、その手足に絡みつく。さらに髪は彼女の周辺にも広がるように伸び、何も見えないところに絡みついた。

「もう1人見つけた」

 女の悲鳴が上がり、何もないはずの空間に、山梔子の伸びた髪が次々と絡みつく。それはやがて人の形になっていく。

「この感触は女か?!」

 髪で強く締め上げると、苦痛に満ちた悲鳴が上がり、女性の姿が現れた。

「透野先輩?!」

 それは紛れもない明子だった。しかも何も身につけていない。素っ裸だ。

 鞍馬が舌打ちをすると、翼を広げた。そこから無数の羽根が手裏剣のように飛び出し、山梔子の顔に突き刺さる。

 悲鳴を上げ苦しむ山梔子。その髪が緩み、捕らえられていた瑞雪と明子が地面に落ちた。

 明子が巻き付いた髪の毛を払いのけ駆け出す。すると、彼女の姿が空間に溶けるように消えていく。

「無姿のまぜもの?! あたしにも見つけられないなんて」

 羽宇が驚く。自分が感知できないことがよほど意外だったらしい。

「瑞雪、大丈夫か」

 高尾が駆け寄り瑞雪を抱き起こす。雪女と化した肌は冷たかった。

「まったく、世話のかかる後輩です」

 2人を守るように鞍馬が立ち、刀を構えた。明子も近くにいるのだろうが、無姿である彼女の姿は見えない。

「嘘だろ……」

 見回す高尾。ここにいるのは烏天狗、雪女、無姿とか言う姿の見えない存在、サキュバスに人を喰う大首、風神と雷神のまぜもの。

「俺以外、人間はいないのかよ」

 震える言葉に羽宇が鼻で笑った。

「呆れた、まだわからないみたい。まあ、思い出していないんじゃ仕方ないけど」

「え?」

「あんたの精気を吸おうとしてわかったわ。あんたもあたしたちと同類よ」

 高尾の頭が真っ白になった。

「俺も……?」

「そうよ。でなければこの状況で平気でいられるわけないでしょ。自分もまぜものだから、あたし達に対する恐怖も少ないのよ」

「クレーバー、思いだしていないものにそれを告げるのはマナー違反だ」

 その言葉に羽宇は軽くイタズラっぽく舌を出す。

「ごめんなさいね。でも、思いだしていないものに思い出すよう促す特大マナー違反者もいるけど」

 からかうように鞍馬を見つめる。彼は無言のまま刀を下段に構え直した。

「高尾君、桜島さんを連れて逃げなさい。私が援護します」

 2人をかばうように移動しながら羽宇たち3人の動きを伺う鞍馬。3対1にも関わらず、その姿からは余裕すら見て取れる。

「んなこと言っても」

「この連中は君を殺す気ですよ。思い出す前に」

「冗談じゃねえ、年齢=彼女いない歴のまま死んでたまるか」

「だったら逃げるか、思い出せ!」

「思い出せって言われても」

「君自身、何となくでもわかっているはずです。自分が何のまぜものか」

 言われて思わず高尾は上を見た。

 そこには満月が輝いている。

「よくもやりやがったな!」

 山梔子が鞍馬を捕まえようと髪を伸ばしてくる。後ずさりながら鞍馬が刀を振るうと、風神に負けない風が巻き起こる。伸びてきた髪の毛を散らし、押し戻す。

 尾似島が気合いを入れて手を振り下ろすと、それに合わせるように稲妻が落ちてくる。

 鞍馬は振り向きざま、風を起こして高尾と瑞雪を吹き飛ばす。稲妻は高尾が今し方いた場所に落ちた。

 風にあおられ、地面を転がる瑞雪を

「捕まえた」

 飛んできた羽宇が抱きかかえ、そのまま飛ぼうとするが

「重いわね。年頃になんだからダイエットぐらいしなさいよ」

 高く上がらず、動きも鈍い。瑞雪はわかっていた。自分の体に姿を消した明子がしがみついている。羽宇が思うように飛べないのは2人分の重さがあるからだ。

「瑞雪を返せぇ」

 高尾が仇を追いかける勢いで駆け出し、跳んでしがみついた。

「あれ?」

 しがみついた高尾が目をぱちくりさせた。彼がしがみついたのは羽宇でも瑞雪でもない、瑞雪に捕まった透明状態の明子だった。そのため、傍目からは何もない空間に高尾が引っかかっているように見える。

「どこ触ってるの。馬鹿、あん!」

 たまらず明子が声を上げた。高尾に伝わる感触は柔らかくふにふにした塊。彼の顔がちょうど彼女のお尻に当たっているらしい。

「3人は無理~っ」

 さすがに重量オーバーな羽宇が墜落した。

 痛みを堪えながら高尾が体を起こすと

「あんた、むかつく」

 むくれ顔の羽宇が立っていた。彼女は高尾の顔を両手でしっかと掴むと唇を寄せてくる。

 とっさに高尾は羽宇の顔を掴み返し、そのまま押し返す。

「無理しなくて良いわよ。文字通り天国に行く気分になるわ」

「地獄行きで良いから100年ぐらい後にしてくれ」

 必死で押し返す高尾。羽宇にキスされたらお終いだと本能でわかる。前と違ってサキュバスの本性むき出しで精気を吸ってくる。そうなったら間違いなく岩麻たちと同じ運命だ。

 幸いな事にサキュバスは力自慢のまぜものではない。満月の下での高尾なら抵抗できる。

 しかし、目の前まで寄っている羽宇の体から甘美な気が高尾を羽毛布団のように包み込む。顔を掴む掌を通して高尾の中に染みこんでいく。

 この女にキスしたい、胸を揉みしごきたい、押し倒し両足を広げて自分の男を突き立てたい。男の欲望が高尾を突き動かそうとしていく。

「遠慮はいらない。人目なんか気にしないで……」

 呟き、軽く目を閉じる。

 高尾の羽宇を押し返す力が緩もうとしたその時

「先輩!」

 瑞雪が両手を突き出し、冷気を高尾たちに吹き付ける。だが、先ほど同様、彼女の表面に霜のような氷の膜を張らせるだけでダメージを負わせることは出来ない。

 羽宇が目を閉じたまま瑞雪の冷気をあざ笑う。その時、彼女の足下にあった木の棒がふわりと浮き上がり、なんと彼女の尻の穴に突っ込まれた!

 これにはたまらず、羽宇の高尾を掴む腕の力が緩んだ。淫魔の誘惑も弱まった。

 今だとばかりに高尾が彼女を突き飛ばす!

 ひっくり返った羽宇が怒りの形相でお尻をさすりながら立ち上がる。

「何てことするのよ。この透明女!」

 こんな屈辱的な妨害は初めてだった。爪を伸ばし周囲を払うが相手が見えないのでただ空を切るばかりだ。

「クレーバー、離れろ!」

 尾似島が青白い稲妻を纏った右手を振りかざす。

 落雷させまいと、鞍馬が刀を手に挑みかかるが、その足に山梔子の髪が絡みついた。そのまま地面に引き倒される。

 瑞雪の悲鳴が河原に響く。

 雲ひとつない夜空に稲妻が走り、高尾の体を貫いた。


 脳天から足の先まで走る死の稲妻。

 高尾の耳に瑞雪の悲痛な叫びが届き、開いた目には満月が映る。

「思い出せ」

 鞍馬の言葉が蘇る。

 意識が消えそうになる寸前、自分を見つめる瑞雪の姿が見えた。自分が死のうとしている姿に氷の涙を流し手を伸ばす。それに

「思い出せ」

 鞍馬の言葉が重なったとき、高尾は思い出した

 自分の中に潜む力に。それを押しつぶそうとする力に。

 死んでたまるか!

 その一念が、高尾の奥底の力を大きく膨らませ、弾けさせた。

 今まで潜んでいた力は高尾の隅々まで瞬時に広がり、溢れた力が口から吹き出した。

 それは声ではない。奥底から生じた魂の震え。

 それは周囲には「遠吠え」に聞こえた。


 満月の光の中、高尾は吠え、体を貫いた稲妻を外に弾き飛ばした。

 彼の吠える声に空気は振るえ、羽宇を、瑞雪を、尾似島を、鞍馬を、山梔子を、姿の見えない明子を揺さぶった。

 それは群れを威嚇し、支配する遠吠えのようだった。

(馬鹿な)

 尾似島は思わず退いた。自分が高尾に放った稲妻は手加減したものではない。一発で消し炭にしてしまおうと放った渾身の一撃だ。実際、それは間違いなく彼の体内を駆け巡りその肉体を焼き払うはずだった。それが遠吠えと共に体の外へ弾き飛ばされた。

 皆が見ている中、高尾の体が変化していく。

 筋肉を振るわせ、体が一回り大きくなって稲妻でボロボロになっていた服が弾け散った。

 全身から黒みがかった銀色の毛が生え、肌を覆っていく。腰の後ろから毛に覆われた尻尾が生えた。

 両手の指が太く関節が角張り、先端の爪が鋭さを増した。

 高尾の顔がより厳つくなるに従い、耳が尖っていく。口が前に延びていく。

 大きく口が開かれたかと思うと、その内に並んだ歯が鋭く尖っていく。それはもう歯ではない。鋼鉄をも噛み砕く牙だ。

 満月の光を浴びて高尾はもう一度遠く、大きく吠えた。その姿は紛れもない

「狼男?!」

「だけではありません!」

 瑞雪のそばに降り立つ鞍馬の言葉に応えるように、前屈みになった高尾の背中から翼が飛び出した。華麗さはないが荒々しく、力強い高尾の身よりも大きい翼。

 両手を広げ、胸を張った高尾の身につくように服装が現れた。頭巾こそないが、それは間違いなく鞍馬と同じ修験者の出で立ち。

 気合いと共に右手をかざすと、その手の内に金剛杖が生まれた。

 大きく、ゆっくりと息を吐きながら金剛杖をつき静かにたたずむ高尾。その姿は、頭や尾などむき出しの部分こそ狼だが、紛れもなく鞍馬同様烏天狗だ。

「……思い出した……」

 静かに瑞雪に歩み寄り、彼女を守るように羽宇たちに向けて金剛杖を構える。

「俺もまぜものだ……狼男と、烏天狗のな!」

 尾似島を中心に羽宇と山梔子が集まる。ちょうど高尾たちと睨み合う形になった。

「なるほど。狼男と烏天狗のまぜもの……いわば狼天狗か」

 尾似島の不敵な笑みに高尾も笑みで返す。

「狼天狗。いいなそれ、使って良いか?」

「好きにしろ」

「よっしゃぁ! 決まり。俺は狼天狗だ」

 高尾が金剛杖を振り回す度、ゴウゴウ空気を裂く音がする。思い出したばかりで力が有り余っている感じだ。

「やる気満々ね。でも、無駄な事よ。そこの烏天狗さんはわかっているでしょう」

 高尾と瑞雪の視線が鞍馬に向けられるが、彼は刀を構えたまま何も言わない。

「あんた達がどんなにあがいても、瑞雪は雪女。あたし達と同じ人喰いになるわ」

 人喰いという言葉に瑞雪が震える。

「なんだそりゃ?」

「文字通りよ。サキュバスや食人鬼、吸血鬼と言った人を喰わなければ生きていけないのをまとめてそう呼ぶの。雪女もそう、相手を凍らせ、その凍えた魂を吸って生きる存在」

「違う……違います……。あたしは……人なんて食べない」

 瑞雪の凍えそうな声に羽宇は哀れむように

「今は耐えられても時間の問題。あたし達もそうだったわ」

「勝手に決めつけるんじゃねえ。雪女が人を喰うなんて聞いたことねえぞ」

 高尾が怒鳴り返した。羽宇の言葉を吹き飛ばす勢いで

「昔話の雪女を知らないの。山小屋で眠っていた男を凍らせ、魂を吸った雪女。主人公の男と夫婦になった後も、密かに山で男を襲って魂を喰っていたわ。悲劇のヒロインにするために、そこのところは後に無くなったけど」

「例え今までの雪女が人喰いだからって、瑞雪もそうなるとは限らねえだろう。世の中には、例外ってもんがつきものなんだよ」

「そうね、いつでもどこでも例外はあるわ。でも、例外を希望にするのはどうかと思うわよ。希望を待たせれば持たせるほど、完全に人喰い化したときの絶望は大きいわよ」

 首を横に振る羽宇の表情は哀しげに、しかも、自分に向けているように見える。

 その表情に高尾の気が削がれた瞬間を狙って、夜の闇に紛れて地を這ってきた山梔子の髪が高尾の足に絡みついた。

 しまったと思う間もない。高尾の体はあっという間に持ち上げられ、

「つぶれろ!」

 地面に叩きつけようとする。

 が、高尾は逃げようともほどこうともせず、翼を広げて突撃、そのまま山梔子の眉間に金剛杖の突きを食らわす。

 予想外の一撃を食らって山梔子が地面を転がった。

「ざまあみろ、思い出したばかりだって甘く見るな」

 絡んだ髪を振りほどく高尾めがけて尾似島が稲妻を放った。と同時に数本の大降りの羽根があちこちの地面に突き刺さり、稲妻を引き寄せ、地に散らしていく。

「貴様か?!」

 今度は鞍馬めがけて稲妻を放つ。が、鞍馬の前に同じような羽根が突き刺さり、先ほど同様稲妻はその羽根に吸い寄せられてしまう。

「無駄です。避雷羽根があなたの稲妻を全て引き受けてくれる」

 周囲に避雷羽根を打ち込みながら、鞍馬が尾似島に斬りかかる。稲妻で迎え打つ尾似島だが、放つ端から避雷羽根に吸い寄せられてしまう。

 稲妻では駄目だと悟った尾似島が風の攻撃に切り替える。だが、風ならば烏天狗も負けてはいない。鞍馬が羽団扇で扇ぐ度に突風が吹き荒れる。2人の風はぶつかって乱気流となり、周囲をかき乱す。

「部長、もっと静かに戦ってくれ」

「何か言いましたか、風で聞こえません」

「だーかーらー!」

 声を張り上げる高尾の体に山梔子の髪が巻き付き、締め上げる。

「またこれかよ。てめえ、他に攻撃方法ないのかよ」

 答えの代わりに髪が高尾を容赦なく締め上げる。今度は翼ごと締め上げているので、さっきのような突撃が出来ない。

「かみ殺してやる!」

 先ほど金剛杖に突かれた部分が青く晴れ上がった山梔子が大きく口を開け、高尾を締め上げたまま引き寄せる。中に並んだ歯は小降りだが全てが鋭い牙だ。

 高尾も負けじと大きく口を開けた。口の中の空間が蜃気楼のように揺らぎ始める。

「なに?」

 羽宇が耳を押さえた。皆が顔をしかめた。

 耳鳴りがする。それは次第に大きくなっていく。

「山梔子、そいつを放せ!」

 尾似島が叫んだ。耳鳴りの大本が高尾であることに気がついたのだ。だが遅かった。

 耳鳴りが瞬間的に高くなり、消えた。空気が震えた。

 高尾の口から放たれた震えた空気は振動となり、山梔子の顔面に炸裂した。

 悲鳴と共に山梔子が吹っ飛んだ。髪はちぎれ、顔面を血だらけにして。

「痛ぇ、痛ぇ!」

 血まみれになって地面を転がる大首。転がりながら次第に小さくなり、首の下から体が生えて人間の姿に戻る。

「ざまぁみろ」

 高尾が歯を噛み鳴らす。

「な……何をしたの?」

 訳のわからない羽宇に

「狼の遠吠えだ」

 尾似島が感じ取ったことを話す。

「それを極限まで高め、空気を振るわせ、指向性のある震動波として放ったんだ」

「理屈はよくわかんねえけど、そんなとこだ。ドラゴンの火炎吐息(ファイアブレス)ならぬ、振動声吐息(ヴォイスブレス)ってとこかな。どれぐらいの威力だかわからなかったんだが、結構使えそうだ」

 痛みでのたうち回る山梔子を見て、高尾はどんなもんだと胸を張る。

 鞍馬が刀で尾似島を牽制しながら

「高尾君、長居は無用です。脱出します」

「脱出って。これから反撃ってところでしょうが」

「調子に乗らないでください。思い出したばかりの君たちがこのまま勝てるほどこの相手は甘くありません」

 瑞雪の下へ飛ぶ。高尾も「しょうがねえ」と言いながらそれに続いた。

「逃がさん」

 尾似島が突風で周囲の避雷羽根を吹き飛ばした。

「高尾君。さっきの振動声吐息をもう一度、地面にぶつけて!」

 言われるままに高尾は振動声吐息(ヴォイスブレス)を尾似島達の前方地面めがけてぶちかます!

 氷混じりの地面や草が爆発するように舞い上がる! 周囲の視界を奪い、尾似島達の目隠しとなる。

 さらに鞍馬の起こした突風がそれを巻き上げ、渦と変えて彼らを包み込む。

 それらが静かに収まり視界が戻ったとき、鞍馬や高尾たちの姿はなかった。

 羽宇は静かに周囲を見回し、ある一方に目を止める。夜空に小さく、飛んでいく高尾たちの姿が見えた。

「追う?」

「止めておこう。連中も自分がどんな状態なのか知っておきたいだろう。説明はあの烏天狗たちに任せて。俺達は休もう」

 静かに振り返ると

「いででででで」

 山梔子が顔中血だらけにして悶絶していた。

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