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まぜもの妖談 ~狼天狗と雪女~  作者: 仲山凜太郎
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【1・鉄橋下の襲撃】


 初夏に向けて春が店じまいを始めようとする5月の夜、半月の下を流れる川に架かった鉄橋を列車が走る。鉄橋下の河川にはろくに手入れされていないのか、人々が雑草と呼ぶ数十種類の草が無秩序に生え風に揺れている。草の中には錆びた缶、ポリ袋、変色したマスク。川面には流されてきた多数のゴミが草に流れを止められ、固まっている。

 河川際。鉄橋の真下、コンクリートで固められた河川敷に段ボールで作られた家がある。住んでいる者は家と呼ぶが、近くの住人達はホームレスの住処と呼んでいる。

 そんな中、数人の男が土手を歩いてくる。見た感じ20才過ぎぐらいか。年の割には目がギラギラし、この世の全てが面白くないと全身で不満を表し、その気持ちの行き場を探している。男の1人が有り余る不満と元気を発散するように手にしたバットを振り回す。

「おい、やっぱりいたぞ」

 歩きながら鉄橋真下の段ボールハウスを見る。鉄橋の陰に隠れてはいるが、中から漏れる光で誰かいるのはわかる。

「おい、行くぞ」

 男達が手にした得物を構えた。バットやらパールやら少なくとも平和的な使い方をするためとは思えない。得物が無ければ誰もがそこら辺を普通に歩いている一般人にしか見えないのが却って不気味だった。

 遠くから歩いてきた男が1人、彼らの姿を見るとさりげなさを装って河川から逃げていった。

 男達は周囲に人がいないのを確かめながら段ボールハウスの前に立ち

「おい、ウジ虫」

 中に向かって呼びかけた。

「昨日言ったよな。とっとと出て行けって。お前らがいるだけで空気が臭くなるんだよ」

「日本の寄生虫共」

 ゴミを見る目で段ボールハウスを睨みつける。嫌悪の中にいくらかの楽しみが混じっているのは、これからすることに対する期待からだ。

 大っ嫌いな奴を痛めつける。これほど楽しいことはない。

 ダンボールハウスから返事がない。これが彼らの気持ちにケチをつけた。痛めつけるにしても、それに対する相手のリアクションがなければつまらない。

「おい!」

 苛立ちをぶつけると、中から

「聞こえてるよ」

 声がした。しかし、それからは怯えや恐怖は全く感じられない。むしろ男達のような楽しみすら感じられた。

「良かったよ。お前らが来てくれて。20日ぐらい食ってなかったんでな。腹が減ってたまらなかったんだ」

「何言ってんだ」

 男が1人足を進めた。途端、ダンボールハウスの隙間から紫がかったピンク色の生々しい艶のある平たい紐のようなものが飛びだし、男の足に絡みついた。

 悲鳴を上げる間もなく男はダンボールハウスの中に引きずり込まれ、中から血しぶきが上がり外に散って出た。

 他の男達が思わずたじろいだ。

「……1人じゃ足りんな」

 ダンボールハウスから何かが吐き出された。地面にぺしゃっと落ちるそれを見て男達の顔が凍り付く。先ほど引きずり込まれた男が着ていた服だ。それが血まみれで、細かな肉片にまみれている。着ていた男の姿はない。いや、服にこびりついている肉と血が……。

 再びダンボールハウスから先ほどの紐のようなものが飛びだし、別の男を捕まえた。絡みつかれた男は瞬時にその紐のようなものの正体を知った。舌だ。

 男が引きずり込まれるのと同時に新たな舌が飛びだした。2本、3本。逃げようとする男達を次々捕まえ、ダンボールハウスに引きずり込んでいく。

 ダンボールハウスからバールを持った男の腕が転げ出た。舌が伸びそれを絡み取ると再び中へ。そして血まみれのバールだけが吐き捨てるように投げ出された。

 静けさが戻り、鉄橋を通過する列車の音が響いた。

 列車の音が消えるのに合わせて、男が1人ダンボールハウスに歩いてくる。30過ぎに見えるやせ形の男で190近い身長、上下をブラウンのレザーでまとめている。服も髪も飾りっ気はない。転がる血まみれの服や道具も気にせず

「待てなかったのか」

「向こうから来たんだぜ。それより、やっと決まったか」

「ああ。喰えるか?」

「もちろん。今度はどこだ?」

「高校だ。白無垢学園」

「高校生か。肉が引き締まって美味そうだ」

 ダンボールハウスの中から舌なめずりの音が聞こえた。


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