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悪魔達の夜宴

三題噺『地球、突破、犠牲』

作者: 灰色セム

お昼を少し過ぎたころ、私とトビアスさんは街に着いた。

「お腹すいただろう? ご飯買っていこう。おごるよ」

「いえ、そんな」

ことはないですと言いかけて、お腹の虫が盛大に抗議してきた。


「あはは、多数決で決まりだね。なにが食べたい?」

「ええと、それじゃあ」

――空腹に負けてチーズバーガーとポテト、それに炭酸ジュースを所望する。トビアスさんは(うれ)しそうに「ナゲットもつけよう。注文してくるよ」と私を待たせてハンバーガーショップに入っていった。


チーズバーガーは今から四百年前に再発明された食べ物だと歴史の授業で習ったことを思い出す。千年前に地球規模の天災があって文明が断絶しかけたのを、優しい悪魔達が助けてくれて、今の文明がある。悪魔が人を助けるなんて不思議な話だ。でも先生も悪魔だし――。


「リヒトちゃん、おまたせ」

「ひゃっ」


いつの間にかトビアスさんが戻ってきていた。大きな紙袋のうち、ひとつを手渡された。すごく美味しそうな匂いがする。

「ありがとうございますトビアスさん」

「どういたしまして。落ち着いて食べたいし、先生の家に行こうか」

「そうですね。あの十字路の奥が先生の家です」


歩いているとトビアスさんの行く先に人だかりができることに気づいた。遠くから黄色い歓声が上がっている。

「なにかあったんでしょうか?」

「あー、俺、目立つから。先生の自宅バレるのも面倒だし、転移しちゃおうか」


肩に手を置かれ、浮遊感がした。一瞬で目の前が街中から先生の家――ダイニング――へと切り替わった。転移魔法で誰かの家に入るには、家主の許可が必要になると学校で習った。ということは私が案内する必要は。

頭を()でられる。

「さあさあ、ご飯にしよう」

「……はい!」


言い回しが先生に似ている。先生のことをよく知っているみたいだし、付き合いが長いのかもしれない。食事をしながら、たくさんのことを話した。勉強していて面白いこと、将来の夢、好きな音楽のこと――。

食事が終わったあと、トビアスさんがテーブルから身を乗り出してきた。


「歴史の授業が好きって言ってたけど、今はどこを習ってるの?」

「厄災と優しい悪魔のあたりです。焼け野原から、ここまで復興するなんて悪魔ってすごいですよね」

「大した事はしてないよ。協力した悪魔も三体ぽっちだし。すごいのは滅亡のフチにありながらもはねのけて突破した、人間のたくましさだと思うな」


当事者のように語るトビアスさんの背にはいつの間にかコウモリのような羽根が生えていた。羽根の全長は二メートルくらいかもしれない。すごく大きい。

「トビアスさんも悪魔だったんですか」

「うん。先代がビフロンスとバルバトスの知り合いでさ。教授の後見人だった事もあったらしいよ」

「人類に友好的な悪魔で先生の後見人……もしかしてアガレスさん?」

「正解。よく勉強しているね」


機嫌よさそうにトビアスさんが羽根を羽ばたかせる。

「人類最大の危機を救った悪魔だって、昨日習いました」

「人だけじゃないよ。動植物もたくさん犠牲(ぎせい)になった」

青い瞳が少し陰って、また人懐っこい澄んだ色に戻る。

「ごめんね、なんだか雰囲気悪くしちゃった」

「いえ、あのっ、大丈夫です! もっとお話し聞きたいなぁ〜〜っ」

「……いいとも! じゃあ大きな出来事から説明していくね」


トビアスさんは魔法で紙とペンを取り出すと、いくつもの風景画を描いていく。写真のように精巧なイラストをひとつひとつ指し示すと、楽しそうに図解し始めた。

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