邪神
邪神。
その言葉を耳にした瞬間、四人は直感的に悟った。
こいつは、人智を超えた存在だと。
「お前たちには感謝しなくてはな……。
これほどまでに、私と合致する『依り代』を連れてきてくれたのだから」
龍田……いや『エルラト』は、三人に向かって歩いてくる。
その足取りはどこか不安定で、まるで人の体を扱いなれていないようにみえた。
「こいつの精神的な対抗力が弱くて助かったよ。
長らく封印されて、弱体化した私でも乗っ取ることができたしな」
そう言いながら、ゆっくりと、しかし着実に近づいてくる。
彼女が近づくにつれて、光がどんどん弱くなっていく。
まるで、彼女の周りに『闇』がまとわりついているようだ。
「エルラト! 龍田君を返せ!」
香川は叫んだ。
「返せだと?バカなことを言うな……。『依り代』は既に私のものだ」
そういいながら、彼女はさらに近づいてくる。
彼女の体からは黒いオーラが溢れ出ており、闇が彼女を覆っていくような錯覚を覚えるほど、暗く禍々しいものだった。
その様はまさに、闇そのものと言った感じだ。
「……では、始めようか」
そういうと、龍田の背中から真っ黒な触手が生えてきた。
彼女の体からは、邪悪なエネルギーがあふれ出ている。
エルラトが、力の一部を解放したのだ。
「さぁ。私を、楽しませてくれよ?」
精神を揺り動かすその声が、頭の中にこだまする。
エルラトは、触手を使って四人に襲い掛かってきた。
「……くらえっ!」
三日月が、右ポケットの紙くずを投げ込む。
エルラトはそれを一瞬見て、鼻で笑った。
「この程度で、私に攻撃したつもりか? 笑わせるな!」
そう言って、飛んできた紙くずを触手ではじき返そうとする。
三日月は、こう叫びながら岩陰に隠れた。
「伏せてーっ!」
エルラトの触手が紙くずに触れた瞬間。
閃光と共に、大爆発が起こった。
「うぐぁあ!」
触手の一本が吹き飛ばされ、苦悶の声を上げる。
「三日月君! あれはいったい!?」
「ニトログリセリンをしみこませた紙だけど」
「ニトログリセリン!? そんなのどこにあったんだ!?」
「さっきの薬品保存庫に」
ニトログリセリン。
爆薬の一種として使用される、有機化合物だ。
その爆発力は黒色火薬の約7倍。
TNTと比べたら威力は落ちるが、 それでも十分な破壊力を持っている。
そして、この薬品は非常に不安定なことで有名だ。
ちょっとした衝撃でも爆発してしまい、最初は爆薬に向かないとされていた。
ダイナマイトは、おがくずなどにニトログリセリンをしみこませることで、
その問題を解決したのである。
閑話休題。
「うわっ!」
突如。
先程の爆発の影響か、洞窟が崩壊を始めた。
「マズい! 早く逃げるぞ!」
香川がそう叫び、急いで入口に向かって走る。
エルラトも追ってきているが、スピードはそこまで速くない。
そして、四人が入り口から飛び出すと、洞窟が完全に崩壊。
その瓦礫の中から、エルラトが飛び出してきた。
「逃がすものか……!」
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