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奪還


「なんか騒がしくなったな……」


船が揺れ、激しい音が響いてきている。

それに気がついたさくらが、そう呟いた。

それに対して、直樹が答える。


「陽動が始まったんでしょう」

「あ、なるほど。いやー派手にやるねぇ。こっちも行きますか!」

「はい! じゃあまず行くのは――」

「もちろん、歌宮機関長たちとの合流を目指す!」


そう言うと、さくらは銃を構え直し、歩き始めた。

狭い艦内通路を進んでいく。


「そのウタミヤって人達がいる部屋はどこにあるんですか?」


アイがそう言うと、直樹が答えた。


「ここは第五甲板だから――上の層、つまるところ第四甲板にある。あそこは格納庫がある層でもあるし、食堂もあそこにあるはずだから、上に上がったら隊員たちを開放できるはず」

「ああ、なるほど。なら、階段を探さなきゃですね!」


三人は艦内を進む。


「ところで、甲板に集めた敵兵はどうするんですか?」

「策はある。でも、甲板やCICを取り戻してからね、その話は」


ツカツカと艦内を歩きながら、さくらはそう言ってウインクをした。


***

数分後、科員食堂。


「いやー、思ったよりも簡単に到着できたねぇ」

「そんな事言う前に拘束を解いてくれませんか?」

「ああごめん」


言いながら、さくらは副長の手を縛るロープをナイフで切った。


「よしこれでOK」

「いやぁ、痛かった」

「これで百人力ですね! 物理的に!」


アイが嬉しそうにそう言う。

実際、「しなの」は530名が搭乗可能な船だ。

停泊中であったため、全員が乗っていた訳では無いが、それでも100名以上が乗船している。

それなのに数十名程度の敵に船を乗っ取られたのは汚点だが、そもそも歩兵戦闘に不慣れな海上自衛官ばかりなのでそれも仕方がないだろう。


「さ、とりあえず分隊ごとに並んでくれ! 奪われた武器はどこにある?」


さくらがそう言いながら副長を見ると、彼は答えた。


「さぁ……おそらく、CICとかじゃないでしょうか」

「CICか……面倒くさいな。防衛もきつそうだ」

「でも――」


そこで、直樹が会話に入ってくる。


「ここまで来る道に敵の影はありませんでした。みんな、甲板に行っていると思いますよ。私達の装備でも、十分制圧は可能かと。それに、銃がなくとも近接攻撃をすればいいですしね」

「近接攻撃?」

「はい。厨房からナイフやら包丁やら取ってくりゃあいいでしょう。最悪鉄パイプでも……」

「か、艦長!? 俺達に鉄パイプで戦えと!?」


開放された隊員の一人がそう叫ぶと、直樹はそれを諌めながら行った。


「違う違う。一応、鉄パイプとかを武器として持たせるだけで、銃器を持ってる僕らが先行するってこと」

「あ、なるほど……」

「で、司令。これでいいと思います?」

「え? いや、私はいいと思うけど……」

「じゃあ決定ですね。とりあえず――」


食堂のテーブルに座り、三人と「しなの」の上級士官たちが作戦を話し始めた。

曹士たちは、テーブルや椅子を扉の前に積み上げ、ひとまず敵が入れないようにしている。


「なら、一分隊はこっちに――」

「いや、一分隊はCICに回したほうがいいと思う。だから、艦橋は二分隊にまかせて――」

「機関室は私達三分隊(機関科)に任せてください」

「OK、でも敵が多かったら救援を――」

「ただ、銃だけで突撃しても――」

「なら策を練ればいいのさ。つまり――」


***

少し時間が経って。

護衛艦「しなの」、CIC前通路。


「中にはどれくらいいる?」

「サーモグラフィーだと……1、2、3……5人ですね」

「思ったよりも数が少ないな……」

「こちらよりは多いですがね。武器持ちが……」

「それはそう。まぁいい、計画通りにやるぞ」


そう言うと、さくらはカバンから何やら取り出して、扉の前においた。


「よおし……3、2、1……発破!」


ボタンを押すと、爆炎とともに扉が吹き飛ばされた。


「撃て撃て!あまり機材は傷つけるな、一発で無力化しろ!」


さくらはそう言いながら、吹き飛ばされた扉から銃を撃った。

奇襲だったこともあり、比較的容易に無力化ができた。


「うおー、宝の山だ」

「武器を宝というのは微妙な気もしますが……」


CICには銃や弾薬が積まれている。

3人のあとに駆け込んできた砲雷科の隊員たちはすぐさま機材を確認する。


「よし、次は艦橋だ。みんな武器を持て。砲術長と水雷長は機材の確認をお願い」

「了!」

「それで――」


そう言うと、さくらはスマホを取り出す。


***


『あーあー、聞こえる?』

「聞こえはするけどね、こっちは陽動中なんだけど!?」


WVR-0の無線機から聞こえる結城の声にそう答えながら、ヒカリは敵兵を蹴り、持ち上げて海へ投げ込んだ。

吹雪は先程よりも強くなっており、機体温度は下がっている。

ジョイントが凍り始めているのか、動きが少し鈍い。

しかし、WVR-0はそれでも高い性能を誇っていた。


「ところで、何の用!?」

『木村さんが、艦橋の敵をなんとかしてほしいって』

「はぁ!? この機体も私も非戦闘員なのにーっ!」


言いながら、WVR-0で敵兵を蹴散らすと、艦橋へ向かって、雪を巻き上げて走る。


「艦が壊れても知らないぞーっ!?」


そう叫ぶと、艦橋を殴った。

窓が割れ、ひしゃげる。

内部の敵兵は何やら悲鳴を上げながらたじろぐと、その中にさくら達海上自衛官が突っ込んだ。

そして、迅速に敵兵を処理していく。


「艦は動かせるか!?」

「機材に問題はありません! ただ、船体に大穴があいてるので――」

「構わん! 完全に着底しているわけではないよな?」

「え、ええ。岸壁に寄りかかっている形です。つまり、右舷が地面に乗ってて、左舷が浮力で浮いていることで、この艦は平行を保っているという状態のようです」

「OK。なら――左舷バラスト注水! 船を傾けて敵を叩き落とせ!」

「左舷バラスト注水ーっ!」

「甲板に弾幕を張れ! 手榴弾を使っても良い! 敵兵を海に叩き落とせ! ――うわぁっ!?」


さくらは、司令席にしがみついた。

艦が、予想よりも遥かに早く、そして大きく傾いたのである。


雪の積もった鋼鉄の甲板は、いくら滑り止めが塗られていると言っても傾斜がついているのだ、まるで氷のすべり台である。

敵兵は艦橋からの銃撃をよけようとして、銃を握ったまま、ある者は背中から、ある者は転がるように海へと滑り落ちていく。

「やめろ! しがみつけ! ぐあっ――!」

「ダメだ……止まれねぇええっ!!」

一部は落下防止ネットを掴んだり、それに阻まれたりして難を逃れているが、多くは氷点下の荒れ狂う海に落ちていった。


『す、滑るっ!』


WVR-0も滑り落ちそうになるが、「しなの」の艦上構造物にしがみついて耐えている。

やがて、甲板上から敵は消え、船の傾きも停止した。


「……戦闘、終了!」

「 ……急げ、被害を確認しろ! 応急班は穴を塞げ、適当でもいいから! とにかく航行ができる状態にするんだ!」


直樹がそう命令を下した。


「しかし、ロボットが甲板で暴れるって、もはやSFじゃん……」

「SFというかロボットアニメというか――」

「ロボットアニメもSFの一つでしょ」


「面白かった!」


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