降下せよ、ゼロ!
「さ~て、武器はもらったぞ~」
「無理やり押し付けられた感じですけどね……」
「まぁもらえるもんはもらっときゃえーでしょう」
「とはいっても、これは空挺用機体だろう? そのまま使っても問題はないみたいだが、空挺で使ったほうが絶対にいいと思うんだが――ゼロをけん引できる機体なんて得られないだろう?」
WVR-0のマニュアルを読みながら、ヒカリがそうつぶやいた。
「ゼロ?」
「そう。WVR-0だからゼロさ。わざわざWVR-0って呼ぶのは面倒くさいだろう?」
「まぁそれはそうだが……」
「で、牽引機についてはどうするのさ」
「俺にいい案があるぞ」
そう言いながら、結城は大型トレーラーのハンドルを切った。
「一体どこに向かうつもりさ」
「そりゃあ――」
少し息を吸う。
「立川駐屯地」
「立川駐屯地!?」
「うん。立川駐屯地のヘリで引っ張ってもらう」
「ヘリでゼロを引っ張れますかね?」
「バーカ、日ル戦争で新型ワーカー……まぁ、もう旧式だが、レヴォトを引っ張った機体があるだろ?」
「知りませんよ! 自衛隊関係者じゃないんですから。そもそも医院長もなんで知ってるんですか!?」
「そーいう情報筋があるからねー。自衛隊へのコネコネもあるよ」
「一体何なんなんだ君……」
ヒカリがそうつぶやいた。
***
十数分後。
二つの二重反転ローターを使用したダクテッドファンによって飛ぶ大型ヘリ、UH-62J「サンダーホーク」。
この機体はWWVの牽引ができるように作られている上、その機体構造からこの猛吹雪の中でも飛ぶことができる。
その機内にて。
「だーいぶトントン拍子で進みましたね……」
「いったろ? コネがあるって」
WVR-0を吊り下げたサンダーホークは、猛吹雪の中、激しく揺れながら飛んでいた。
『なーんで私がゼロに乗ってるのかなぁ? 自衛隊に協力してもらうなら自衛隊員に乗ってもらったらいいんじゃないのぉ?』
WVR-0のコックピットに乗ったヒカリが、無線越しにそう言う。
「いやー、立川駐屯地に多脚免許持ってる人いなかったからね。まぁ、陽動だけだから何とかなるでしょ。試作機だから武装はないみたいだけど、装甲はしっかりしてるみたいだし」
結城がそこまで言うと、一緒に乗っていた加原重工の技術者が言った。
「当たり前でしょう? WVR-0の装甲にはネオチタニウム合金を使っているのですから!」
「ネオチタニウム合金って何ですか……?」
和佳奈がそう聞くと、技術者はこう答えた。
「ネオチタニウム合金というのは、まぁ私もよく知らないんですが、チタニウムとマナリウムの合金です。高い強度、耐熱性、靭性、疲労強度を持ち、しかも軽い! 最強の金属ですよ。まぁ、その分高値になってしまったんですけど……」
「……マナリウムって何?」
「え? いやー、それは私もよく知らないというかー……」
『私から説明しよう』
無線越しに、ヒカリがそう言った。
『えーっと、マナリウムってのはだなー……んしょっと。このコックピット狭いぞ』
「いいから説明して?」
『あーはいはい。マナリウムってのは、地中を流れるマナリアが地上に噴出して、何らかの原因で結晶化したものだね。結晶化した理由はわかってないけど……』
「おいまたわからない単語が出てきたぞ。マナリアってなんだ?」
『え? ああ、魔法原子の正式名称だよ。原子番号は暫定Δ、元素記号「Ma」。いやぁ、最近、この原子に関することについては大変だよ。少し前まで研究所の中で定説だった魔法の科学理論が間違いだってことが新しい理論でわかっちゃってさぁ。しかもそれは観測機器の故障によるものとかいう。だから、このマナリアをもう一回調べなおさなくちゃいけなくてー……』
「聞いてないし……というか、原子番号Δってなんだよ」
『まだ完全な性質はわかってないからねー。原子番号付けようにもつけれなくて、でもないと不便だから、とりあえず「Δ」ってことにしたの』
「なるほどなぁ……」
『しかしこのコックピット狭くない?』
「うるさいですね! 試作軍用機なんだから我慢してください!」
技術者が無線機に向かってそういうと、ヒカリはさらに続ける。
『でも座席は高級なのを使ってるね。ふっかふか。逆にダメじゃないこれ? リラックスしちゃうよ』
「そもそも長期間の任務を前提としているので……それに、さっき駐屯地で少し動かしてみたでしょう? それなら、その座席がそれでないと駄目なこともわかると思います」
『まぁ……確かに。重心が高いからか、揺れはあったね。ほとんどはこの座席とかショックアブゾーバーで殺されてたみたいだけど』
WVR-0。
この白く塗装され、肩には「試作」というステッカーの貼られた精悍なボディは、プラモデルとしてはいいかもしれないが、人が乗る機械としてはいささか不釣り合いである。
何せ、重心が高ければ高いほど、そしてコックピットが高い位置へ行けば行くほど、その揺れは激しくなるのだ。
足が長く、胸の部分にコックピットのあるWVR-0は、機体上の位置としては高めの場所にコックピットがあることとなる。
当然、コックピットのある場所に重心が来ることとなるため、揺れは非常に激しい。
加原の高性能ショックアブゾーバーが揺れを制御する中でもそう感じたのだ、もしこの制御機構がなければ、ミキサーや洗濯機、下手したら遠心分離機の中に放り込まれたような揺れに襲われるのは容易に想像できる。
さて、見た目についてだが、これは趣味的としか言いようがない。
無駄な角、謎に角張った構造、意義の薄い盾。
頭のセンサー系統はカメラと組み合わされた一つの”目”のようになっているが、無駄に赤く光る。
36式は戦車をそのままロボットにしたような機体だが、それに対してこちらはフィギュアを大きくして、動かせるようにしたようなデザインだ。
また、先も言った通り、この機体は特に武装を搭載していない。
軍事用に作られたものとはいえ、所詮は民間企業の試作機なのだ。
そのマニピュレーターは、おそらく先代の36式用の武装を使うためだろうか、五本指の人間らしい形となっている。
これなら、敵兵や車両をつかんで持ち上げたり、殴りつけたりすることはできるだろう。
ただ、何も武装がないワーカーは、丸腰の人間のようなものだ。
さすがに小銃や拳銃で倒されるほど弱いものではないが、軍事用ワーカーや対戦車ミサイル相手では逃げ回るほかない。
「でも、性能は高いですから、少なくとも作業用ワーカーには負けませんよ!」
加原重工の技術者は、興奮したようにそう言った。
外の猛吹雪は徐々に激しくなっているようで、WVR-0を吊り下げるケーブルはキィキィときしむような音を鳴らしている。
サンダーホークの扉には雪がたたきつけられ、そして落ちていった。
窓からは高速で回転する二重反転ローターが見え、ダクテッドファンのナセルが少しだけ白く染まっている。
この猛吹雪の中、安定して飛べるこの機体の性能が高いことは、素人目にも一目瞭然であった。
『だとしてもこの狭さはどうにかならないかね』
「だから、仕方ないんですって! パラシュートなしで高高度から着地できる機体を作るのに私たちがどれだけ苦労したか!」
『じゃあパラシュート有りで着地する機体にすればよかったんじゃ……』
「それじゃあ、四菱に勝てないでしょう! もちろん、性能は36式よりもはるかに上ですが、何か際立った性能がないと、コンペでは勝てないんですよ!」
『そういうもんかなぁ……』
と、会話が一段落した時、ヘリを操縦していた陸上自衛官が言った。
「そろそろ横須賀基地――『しなの』の上空です。投下の準備を」
『ほ、本当にパラシュートなしでも大丈夫なんだよね? 私落下死なんて嫌だよ?』
ヒカリの声は震え、無意識に操縦桿をぎゅっと握りしめていた。
『私、落下死なんて絶対嫌だよ?』
技術者は、どこか余裕のある口調で答えた。
「大丈夫です! 投下後の姿勢制御はすべて機械任せです。操作しないでいただいて結構ですよ――まぁ、したとしても特に問題はありませんがね」
そこまで言うと、一息ついて、
「それに、これまでに100回以上の投下実験をクリアしていますからね。心配は不要ですよ」
そういった。
窓の向こう、雪の壁の先には横須賀基地が近づいてきている。
鋭いアラームが響き、赤いランプが点灯した。
「ホーク01、コースよし! 投下まで、10~、9~」
『……』
無線から、ヒカリの吐息が聞こえてくる。
表情はヘリ側からだとわからないが、恐怖と不安に満ちているのは間違いない。
「8~、7~」
カウントダウンが続く。
ヘリは横須賀基地の上空に入った。
護衛艦「しなの」の止まる逸見岸壁まであと少しである。
「もう、木村さんたちには伝えましたっけ?」
「うん。ワーカーで陽動するって」
「だいぶ言葉足らずですねぇ……伝わってるんでしょうか」
和佳奈がそう呟く。
そんな中でも、隊員はカウントダウンを続けていた。
ヒカリはそれを無線越しに聞きながら、口の中にあふれてきた唾液を飲む。
私はただの科学者なのに、などと思いながら操縦桿を握りしめた。
「6~、5~、4~……」
ヒカリは、手元に置かれていたマニュアルを読み返し始める。
ページをめくるたびに「ペラッ」、「ペラッ」という音が響く。
しかし、文字を追っても頭に何も入ってこない。
『3~、2~』
大丈夫……大丈夫だ……。
ヒカリは、心のなかで自分に言い聞かせるようにそう呟くと、マニュアルを座席の端においた。
そして、震える手で操縦桿を握りしめる。
『1~……投下!』
直後。
「ガコン!」という何かが外れる音とともに、ヒカリは軽さに包まれた。
体が座席から少しだけ浮かび、シートベルトに押さえつけられる。
エレベーターが降下しているときのような浮遊感――いや、それよりも遥かに強い感覚が、彼女を襲っていた。
しばらくの浮遊感。
そして――。
両足のカバーが開き、底から減速のための圧縮空気が吹き出した。
体が座面に押し付けられ、「ドン!」という音とともにWVR-0が着地する。
メインカメラの画面はその衝撃で揺れながらも、しっかりと「しなの」の甲板を映していた。
「い、生きてる……」
ブワッと汗が吹き出すが、安心している暇はない。
これからが本当の仕事である。
機体は問題なく動くようだ、そう彼女は確認すると、周りを見た。
甲板のあちこちで動き回る敵兵の姿が目に入る。
1人がこちらを指差し、次の瞬間には複数の銃口が一斉に向けられた。
「うわっ!?」
響き渡る銃声に、思わず操縦桿を引き、腕で顔を防ぐ。だが、銃弾は装甲に弾かれ、周囲に跳ね返った。
「この装甲なら……!」
装甲の頼もしさを感じた彼女は、震えながらも勇気を振り絞り、操縦桿を強く握り直す。
「よ、よぅし!」
『頑張れ、陽動してくれ!』
結城のそのような声が、無線から聞こえた。
「私はもうとっくに頑張ってんのよ!」
そう叫びながら、WVR-0のフットペダルを踏み込む。
敵兵や荷物を蹴り飛ばし、甲板上で暴れ始めた。
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