戦い
工事現場。
暴風が耳を覆い、激しい音が流れ込んでくる。
ゲートをゆっくりと開き、雪に埋まった現場に入った。
ブルーシートがバタバタと揺れ、鉄パイプが軋み、クレーンにつられた鉄骨が揺れている。
そして、建設中のビルの前には、目的の大型トレーラーが停車していた。
「これだこれだ。えーっと……」
ヒカリはカバンからノートパソコンとコードを取り出す。
「あー、寒い」
そんなことをつぶやきながら、トレーラーのロックをつかさどる電子装置のカバーを外した。
そして、ノートパソコンとその電子装置をつなぐ。
「ハッキングしてロックを開けば――よし」
キーボードを少したたくと、鍵の開く音がした。
「あとはスターターを無理やり動かしたら……たぶん行ける」
そういいながらトラックに乗り込むと、ハンドル下のカバーをどこからか取り出したドライバーで取り外した。
「防犯アラームならないか? それ」
「そこはうまくやるよー……よし」
カバーの下にあったコードをパソコンとつなぎ、しばらくキーボードをたたくと、エンジンがかかった。
「おっし、セルモーターが動いた。これ以降はエンジンをかけるも止めるもこのパソコンからできるよ」
「よし、それじゃあ運転するか。このトラック、後ろにも座席があるのはいいな」
結城が運転席、ヒカリが助手席、和佳奈が後部座席に座った。
「荷台もあるから、迷宮組回収しても行けるしねー……」
ヒカリは膝の上にノートパソコンを置き、何やらいじっている。
「それで、エンストフィレンってのは何なんだ?」
結城がそう話すと、ヒカリは話し始める。
「少し、長くなるよ?」
***
暗い通路を、五人は進んでいく。
「魔力がどんどん大きくなってますね。ボス部屋が近づいてきているみたいです」
アイがそうつぶやく。
「マジ?」
さくらが、言いながら銃を構えた。
しばらく進むと、目の前に扉が現れる。
ごく一般的な金属製の扉で、鍵がかかっている様子もない。
「太田君、開けて」
「なんで僕が!?」
『私が開けます』
ツバキが直樹の前に出て、ドアノブを握る。
『じゃあ開けますよ?』
「おう」
「みんな、銃構えろ」
さくらは、ライフルを構えながら言った。
ほかの4人も武器を構えると、ツバキは扉を開ける。
その向こうには、やはり広い空間が広がっていた。
「……何もいない、か?」
「暗いですから、もう一回魔法で照らしましょう。ストロレトン!」
広い部屋が光に包まれる。
ギシ、ギシ……。
ガタ、ガチャン。
そのような、金属のきしむ、動く音が響いてくる。
油の、ツーンとした臭いが鼻腔を突き刺した。
そこにいるのは、ガラクタの集まりだった。
一目見ただけで、電子レンジや洗濯機、歯車や電動のこぎりなど、ありとあらゆる機械の集合体であることがわかる。
高さ5~6m程度の機械集合体が、不格好な脚部から油や小さな部品を落としながら、広い部屋を這いずり回っていたのだ。
「これは……ワーカーの装甲をかぶっているのか」
広い部屋には、大量の機械が並んでいる。
それらはすべてが作業用のWWV――俗称としてワーカーと呼ばれる、労働現場で使われる多脚機械――であった。
機械集合体は、それらのワーカーを押しつぶし、自身に巻き込みながら動いていた。
巻き込まれたワーカーはきしみながらその姿を変え、歯車やシャフトに変わっていく。
そして、その一部は金属製のベルトに変わっていた。
アルミ合金であるはずのワーカー装甲は異常な伸縮性を見せ、歯車を回転させるための部品になっている。
ただ、一部の部品は姿を変えずに巻き込まれており、あちこちからワーカーのものとみられる腕や脚が飛び出していて、それは時折痙攣するかのように動いていた。
アルミニウム合金のベルトは、原動車から従動車に動力を伝えているが、その歯車はどこにもつながっておらず、その裏側には電子レンジや洗濯機などの家電が詰め込まれているだけだ。
意味のない応力を伝える回転機械たちを動かしながら、その機械集合体はこちらに気が付いたように動き出した。
歯車と鉄骨の間から飛び出したスピーカーから、音が聞こえてくる。
人とも機械音声ともいえない音。
しいて言うなら、金属のきしむ音や歯車の駆動音を無理やり子音と母音にわけ、声にしたかのような音だった。
「しゃべった……?」
「いや、これは……」
しかし、それらに意思は感じられない。
複数のスピーカーからはっされる”声”は重なり合い、その内容も、それぞれは理解できるが、全体で集めると意味がわからないものである。
「もととなった機械の音を、模倣してるだけだ!」
そう、さくらが言うと、機械集合体は激しい音を響かせ、様々な部品をばらまきながら、巨大なアームで襲い掛かってきた。
「散開!」
ガラクタの混ざり合ったアームが壁にぶつかり、洗濯機や鉄板、電子レンジ、歯車などが転がり落ちる。
しかし、それが壁にぶつかる直前に五人は散開し、部屋に散っていた。
『司令、どうしますか!?』
「どうするったって、ガラクタの集まりなんだからちょっと衝撃を与えりゃすぐ瓦解するだろ!」
ベルトからぶら下げた無線機にそう叫びながら、広い部屋を走り、ワーカーの後ろに滑り込んだ。
『いやしかし、この部屋に大規模な攻撃を与えるものなんてあるっすか? 私たちが持ってるのライフルだけですよ!』
翔が無線越しにそう叫ぶ。
「どうするたって、今はとにかく隠れるんだよ! 対処法は動きながら考え⸺うわっ!?」
通信機に返していると、ドリルがワーカーとワーカーの間から突っ込んできて、壁に突き刺さった。
「私を狙ってやがるっ!」
さくらはすぐにワーカーの陰から飛び出した。
機械怪物はワーカーを飲み込み、自分を大きくしながらさくらを追いかけている。
おそらく、もっとも手近な動く存在を狙っているのだろう。
『それで、一体どうするんですか!? 機械は飲み込まれますし――』
『機械が飲み込まれるんなら、銃弾も飲み込まれちゃうんじゃ?』
『あ、確かに……』
『じゃあ私の魔法で吹き飛ばしますか?』
『できる?』
『さぁ……だいぶん大きいですからね』
「私を放置して作戦会議するな――うおっ!?」
飛んできた杭を間一髪でよけ、後ろを振り向く。
どうやら、あの機械怪物はアームやドリルだけでなく、杭打機などという遠距離武器も持っているようだ。
しかし、工具だけなのは不思議である。
武器は飲み込んでいないだろうか?
それとも、兵器は機械部品に変換されているのか。
疑問は尽きないが、現在はとにかく逃げるほかない。
「でぁ、それは、いいからっ! とりあえずやってみてっ!」
『あ、はい。わかりました!』
『じゃあ俺はワーカーが動くか試してみます』
『それ取り込まれるだけじゃね?』
「なんでもいいからやれ⸺っ!?」
飛んできた釘をよけ、ホッチキスの針を飛び越えると、転がってワーカーの裏に飛び込んだ。
その直後、アームがワーカーのコックピットを貫き、ガラスと機械片が飛び散る。
そして、そのまま穴の開いたワーカーを腕に取り込み始めた。
「うひゃー、やっべ!」
ガシャン、ガラガラと落ちるワーカーの脚を飛び越え、さらに走る。
並んでいるワーカーはすべて同型機のようだが、見たことのない機種である。
これも、迷宮内で生み出された存在しないワーカーなのだろうか?
直後、怪物の裏で爆炎が上がった。
アイが爆発魔法をぶつけたのである。
鉄骨やトラス構造、歯車やシャフトをばらまきながら、怪物は方向転換をして、アイの方を向く。
攻撃を食らった地点は焦げており、小さい部品をいくつか落としたのち、大きな部品が落下し、崩れ落ちた。
しかし、小さくなった機械集合体はいまだに動き続けている。
機械集合体は崩れ落ちた機械の上に覆いかぶさると、それらの部品は再度その体に取り込まれた。
ただ、取り込まれる際に再構築がなされるらしく、鉄パイプはシャフトに、トラス柱はピストンに、電子レンジやネジ、こまごまとした歯車などは集まり、巨大な車輪とベルトに変化する。
機械音を響かせながら、不格好な脚を使い、ゆっくりと立ち上がった。
その足は機械集合体の大きさと比べて華奢であるが、それでも大きい。
歯車を回転させ、どこにもつながっていないプロペラシャフトがその動きに伴って不規則に揺れている。
「脚……脚だっ!」
『え?』
「脚を狙って転ばせるぞっ!」
ワーカーの後ろにかくれながら、さくらは通信機に向かってそう叫んだ。
『ワーカー、動きそうです!』
翔の声が聞こえたかと思うと、一台のワーカーがヘッドライトを点灯させる。
すると、機械集合体はスピーカーから耳障りな音を鳴らしながら、それを避けるように動き出した。
「光から逃げてる……?」
『光に弱いんでしょうか』
『いや、それはおかしいです。この部屋は、魔法で照らしているはずですから……』
「魔法とワーカーのヘッドライトの違い? ……科学的な光に弱いのか?」
『そんなことありえますかね』
「そもそも迷宮ってのが非現実的だから、可能性はあるぞ!」
直後、機械集合体はワーカーをなぎ倒しながら、アイに襲い掛かった。
アイはその攻撃を間一髪避けると、ライトの付いているワーカー……内村の乗っている機体の後ろに転がり込む。
すると、機械集合体はそちらを向く――顔はないため実際に向いているかどうかはわからないが――ものの、近づこうとはせず、別の目標を探し始めた。
そして、さくらの方をみてとまる。
「げぇっ、見つかった! 作戦開始! 臨機応変で行け!」
『了解! 脚を攻撃ですよね!』
「ああ!」
隠れていたワーカーの裏から飛び出すと、それが吹っ飛ばされ、バラバラになり、機械集合体に取り込まれていった。
「ほかのワーカーも起動させて、光で追い詰め――うおーっ!?」
飛んできた杭をとびよけ、広い空間に転がりだした。
急いで立ち上がり、銃を構えて走る。
機械集合体は、大量の杭を彼女に向かって発射し、空中からそれが落下してきた。
「杭ばっか!?」
そういいながら、反射神経をフル利用してよけ、再度ワーカーの物陰に飛び込む。
「いやぁ、広間じゃなくて助かった。物がなかったらもう死んでたよ……」
その時、向かい側にあるワーカーの一台がライトを点灯させる。
これで二台目だ。
『もう一台つけました! 鍵は車内に転がってるんで、誰でもつけれますよ、たぶん!』
翔がそう叫ぶと、直樹の声が聞こえてくる。
『二台で十分! 乗り込んで相手を追い詰めろ!』
『了解!』
「私そっちのけじゃん――っ!?」
その時、ワーカーを突き破ってドリルが突っ込んできた。
身をひるがえし、間一髪避けるが、それは袖を切り裂き。
糸屑が散らばる中、再度走り出した。
「ええい、物は試し!」
そういいながら銃を撃ってみると、やはり、銃弾は機械集合体に取り込まれ、その一部となってしまう。
「やっぱ逃げるしかねーっ!」
言いながら踵を返し、走り出した。
すると、それとほぼ同時に二台のワーカーが動き出す。
『司令、起動しました! まぁ僕、多脚免許持ってないんすけどね!』
『俺は持ってますよ、整備員ですから!』
「そんなの今はどうでもいい!」
光に照らされると、機械集合体はそれを避けるように動き始める。
しかし、もう一台のワーカーに照らされ、じりじりと壁に追い詰められ、動けなくなった。
「よし、いまだ! アイちゃん、言っちゃえ!」
『わかりました!』
直後、爆炎が機械集合体を包み込み、部品が飛び散った。
「やったか!?」
『それやってないやつです!』
煙が晴れると、その向こうにはガラガラと崩れた機械集合体の部品たちが見える。
その真ん中には様々な機械の張り付いた旧式WWVが立っていたが、足が折れ、転ぶ。
歯車やシャフトがからからと転がり落ち、やがて自壊した。
「……やった、ね」
『……やりましたね』
『脚じゃなくて体全体狙ってたけどな』
『威力を大きくしすぎちゃいまして……』
「というか太田君、多脚免許持ってないのによく操縦できたね?」
『勘です』
「勘かぁ」
『とりあえず、一度合流しましょう』
「そうだな。通信オワリ」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
などと思ったら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークや感想もいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。




