結晶
「ヘックシュ!」
「大丈夫か?」
「風邪かな……この暴風雪だしね」
両手で白衣を抑えながら、北風はそういった。
白衣の下に無地のシャツ、下はスラックスと、とてもこの暴風雪の中歩き回れる恰好ではない。
首からかけた横浜魔法研究所のキーカードが風で揺れている。
「……ん?」
その時、ジジ……ジジジ……という音がなった。
腕時計に搭載されている――というか勝手に改造して搭載した――小型魔力探知機が反応しているのである。
そのことに北風が気が付いた直後、頭に何かが当たった。
「いたっ」
頭にぶつかったそれは、雪の上に転がっていく。
何かの結晶だった。
「なんだ、これ……」
結城が拾い上げ、内部をのぞき込む。
彼の顔が、紫色の結晶に反射している。
「本当に何だろうね、それ……」
そう言って、北風は手を伸ばす。
結城が結晶を手渡すと、北風はポケットから虫眼鏡を取り出してそれを見た。
「なんか科学者みたいだな」
「科学者なんだよ」
そうつぶやきながら、見る。
「さすがに結晶構造は見えないか……当たり前だが。顕微鏡でも持ってくればよかった」
「顕微鏡ってそんな携帯できるもんか……?」
「携帯できないから持ってきてないんだよ」
言いながら、軽く結晶をたたいた。
すると、結晶が一瞬光った気がする。
「ん?」
結晶を少しだけ揺らし、中を覗き込んだ。
その時、その結晶が浮かび上がり、そこから光が飛び出した。
光は空中で集まっていき、人の形になる。
『初めまして、マスター!』
「は……?」
女性の形になった光が、そう話しかけてくる。
北風ヒカリが、その光に向かって左手を伸ばした。
その時計についた魔力探知機が、光に近づくにつれてジジジジと音を鳴らしはじめる。
「魔力の集合体――か?」
ヒカリはそういいながら、ゆっくりとその人影に近寄った。
『私はΔ-Ψθ魔術補助システムの説明光子体です、マスター』
「でるた……ぷさい……しーた、魔術補助システム……? なんでギリシア文字……?」
「さぁ」
「というか、なんで私がマスター?」
『起動したものにシステムの説明をするようプログラムされていますので……』
「あ、そう……それで、Δ-Ψθ魔術補助システムって何なんだい?」
ヒカリが、その説明光子体にそう言うと、光子体は話し始める。
『その名の通り、Δ-Ψθ魔術補助システムは、マスターの魔術を補助するシステムです。魔術を使える人ならその威力が上がりますし、使えない人ならその人の才能が上昇します。ただ、上昇する才能は一つだけで、その人の最も得意な才能ですね』
「私の場合は……?」
『知能ですね』
「やっぱりそうか」
「やっぱりって、なんか自意識過剰みたいに思えるな、その言い方……」
「実際私は天才だしね……で、その強化ってのはどうやるの?」
『簡単です。私の手に触れればいいだけですよ』
そう言って、光子体は右手らしき部位を差し出した。
「一体どういうシステムなんだ……研究材料として好奇心が掻き立てられるね」
光子体の右手に自分の左手を重ねながら、つぶやく。
光子体を構成する光の粒は、ヒカリの左手を通して彼女の体に入り込んでいった。
「おお……お?」
「何か変わったか?」
「いや、うーん……どうだろう。変わったかもしれないし、変わってないかもしれない。わかんない」
そういいながら、ヒカリは光の粒が入っていった左手をしげしげと眺めていた。
「でも、すこし頭がすっきりした感じはするね」
「へー……まぁいいや。一旦、建物に逃げよう。ここは寒すぎる」
そういうと、結城は近くのコンビニエンスストアを指し示した。
***
全国的コンビニチェーン店。
暖房が効いているが、人はいない。店員もだ。
さすがに避難したということなのだろう。
「暖房が効いてるし、一旦ここを拠点とするか」
「まぁ、そうだね。人も――いないみたいだし」
ヒカリはカウンターに乗り出してバックヤードをのぞき込むと、そういった。
窓の外では、大量の雪が吹き荒れ、ガラス窓は白く凍っている。
「不気味ですね……」
そう、和佳奈が言って周りを見る。
「まぁ避難勧告が出てるしな」
結城は言うと、冷蔵庫から取り出した炭酸飲料を飲んだ。
「あっ、ちょっとそれ犯罪ですよ!?」
「お金は払うから大丈夫」
そういって、ポケットから取り出した500円玉をカウンターに放り投げる。
「とりあえず――その恰好は寒そうだから、カイロでもつけろよ」
結城が棚からカイロを取り上げると、そういいながらヒカリに向かって投げた。
「あ、ありがとう……」
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