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横須賀基地へ


「どんどん雪が激しくなってるな……」


自動車を運転しながら、結城がそうつぶやく。

しばらく走ると、横須賀基地の前まで到着した。


「……ん?」

「どうした?」


アイが何かに気づいたようで、こう話し始める。


「あの建物、異常な魔力が渦巻いてます」

「横須賀基地が?」


確かに、不思議なことに基地の周りに警備はいない。

これは明らかに異常である。


「とりあえず、これで確認してみよう。日本人は魔力が見えないから――」


そう言って、北風がカバンから何か機械を取り出した。

測量機器のトランシットに似ているが、何やらそれ以上にごたごたしている。


「いつの間にかカバンを持っていることについては突っ込まないよ……で、その機械は?」

「魔力探知機Mk.2。これまでのものとは違って、目で魔力を見ることができる機械だよ。まぁ、カメラ越しではあるんだけど……」


そういいながら、その機械をいじって、右目で覗く。


「……あー、確かにあそこだけ異常だね。魔力が5hytくらいたまってる」

「5hyt?」

「ああ。平均的な空間の魔力が0.01hytだから、だいぶ多いね。何か魔法がかかってるのかも。しかし、建物にかける系の魔法は知らないな……少なくとも私は」

「建物にかける魔法……あ、もしかしたらあれかもしれません」

「あれ?」

「ええ。『迷宮化』です」

「迷宮化……その名の通り、建物を迷路のようにする魔術かな?」

「はい。ですが――ただただ迷路にするだけではありません。この魔法をかけられた建物は、罠や怪物が現れるようになるんです」

「何それすごい」


***

路上に車を止め、扉を開く。

時間は夕暮れに入り、街の雪は先ほどよりも強くなっていた。


「さて、これは……普通に出入り口から入れるのかな?」

「ええ、入ることはできると思います。しかし――」


そういいながら、アイは横須賀基地の出入り口であるフェンスゲートに近づいた

フェンスゲートの向こうはホワイトアウトしており、ほとんどなにも見えない。


「ダンジョンの中は、外から見た姿とはかけ離れています。船にたどり着けるかどうか……」

「ま、とにかく入ってみたらいいんじゃないっすか?」


翔がそういうと、さくらもゲートに近づいていった。


「車で入ることはできる?」

「さぁ……もともとこの世界に車なんてものないですしね……」


アイがそういうと、結城がこういう。


「入るにしても、ゲートが開かないとどうしようもない。ゲートの装置は中にあるみたいだし――徒歩しかないな」

「徒歩か……面倒だね。まぁ、入るしかないけど……」


そういうと、さくらはゲートに手をかける。


***


「あれっ!?」


ゲートを乗り越えると、そこは暗い部屋だった。

ゲートの向こうは、野外のはずである。


「えっ!? あれっ!?」


後ろからそのような声が聞こえる。

後ろを向くと、そこには金属扉があり、そこからほかの人が入ってきていた。

ゲートを乗り越えたはずなのだが、こちら側からは扉を開いて入ってきている。


「いやぁ……魔法ってのはやっぱり不思議だねぇ……研究しがいがあるよ」


そういいながら、北風はあたりを見回していた。

直樹が、あたりを見回すと、少しして話し始める。


「ここは……宿舎の通路ですね。最も――」


奥を見ると、本来一直線に続いているはずの通路が、四つ辻で分かれているのが見えた。


「間取りは変わってますが」

「……まぁ、とりあえず進もうか」

『そうですね』


さくらの言葉に、ツバキがそう返す。

彼女らは、奥へと歩き始めた。


***

通路は非常に暗く、スマホの明かりがなければ前もあまり見えない。

天井には蛍光灯らしきものが並んでいるものの、なんとか触ってみると、それは樹脂でできた偽物だった。

また、通路の横には多数の扉もあるが、ほとんどは壁の模様にすぎないハリボテだ。

通れる扉だったとしても、開いた先にはまた通路があるだけである。

本当に、迷宮、という言葉が似合う構造の建物となっていた。


「しかし、不気味だなぁ……でも、さっき言ってた罠とか魔物とかは見えないね

「まだ第一階層ですからね。本格的に罠や魔物が出てくるのは第二階層からですから……」

「第二階層?」


アイの言葉に、直樹がそう聞くと、彼女は「あっ」という顔をし、放し始める。


「すいません、話してませんでしたね。迷宮化した建物は――元の建物の規模や、消費魔力量にもよりますが――階層に分かれます。それが、第一階層、第二階層などですね。階層の数が増えれば増えるほど、難易度が高くなっていくんです」

「へぇ……なんだか、本当にファンタジーのダンジョンって感じだね」


さくらがそういうと、アイは少しびっくりした様子でこう返す。


「え、あっはい。ちょっとわかりませんが……説明続けていいですか?」

「あっ、いいよ。ごめんごめん、さえぎっちゃって……」

「あ、はい。えーっと……迷宮の階層は、それごとにもととなった施設のテーマが反映されています。例えば、この第一階層は『宿舎』がテーマになっているみたいですね。第二階層のテーマはまだわかりませんが……『船』とか『訓練場』とかがテーマになってるかもしれませんね」

「なるほど。ここは横須賀基地だから――ほかにも『海』とか、あとは『格納庫』とかがテーマになってるかも、ってこと?」

「ああ、はい。そういうことです」


***


「あ、階段だ」

「おお。これですよ、第二階層に続くのは」


そう言って、アイは階段に近づいていく。

北風は、その階段を写真に撮りながら、何やらつぶやいていた。


「ふむ……コンクリート製の階段か。横須賀基地がもともとコンクリート製だったからだな……? しかし、魔法がどうやって元の物質を感知しているのか。術者の視覚、触覚に干渉しているのかも……これは研究するしかないな。このコンクリートも、通常のものとは違うかもしれない。破壊耐性がある可能性も高いな……あー、ドリルでも持ってくるんだった。魔力数も比較的高いし――」

「と、とりあえず、おりようぜ?」


結城がそういう。

北風はいまだに何やらつぶやいているが、降りること自体には反対していないようだ。

階段を下りてゆく。

コンクリートを革靴がたたく、コツン、コツン、という音が施設に響いた。

階段から降り切ると、足音が「かあん」という金属音に変わった。

地面が、緩やかに揺れているのを感じる。

周りを見ると、水密扉と丸い窓が見えた。

間違いない。ここは、護衛艦の艦内がテーマになっている階層だ。


「艦内がテーマの階層か……」

「テーマのもととなった場所にいる人も、その階層にいるはずです。なので、この階層には護衛艦に乗ってる人がいるはず……」


さくらの声に、アイがそう答えた。

「ざざあん」という波の音が、周りに響く。

ここは陸上のはずだが、地面が揺れているうえ、

波の音が聞こえるのには、非常に強い違和感を感じた。

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