豪雪の外へ
瓶の中身はどす黒い紫色だ。
とても飲むのはためらわれるものである。
「さぁ、勇気を出して」
「えぇ……」
アイはそれを握り込むと、中身を一気に飲み込んだ。
「うっ、うぇえ……」
「苦い?」
「はい……ピーマンのワタとカニ味噌を煮詰めて水で薄めたような味がします……」
「何その味……というかピーマンのワタ食べたことあるの?」
「はい……好奇心で……」
「アホがよぉ」
その時、北風が話し始める。
「経口摂取用じゃないから、味がひどいのは仕方がない。まぁ、経口摂取用でも、被験者によると、無味無臭で美味しくないらしい。ただ―ー少し味を良くしようとチョコ風味にしたら、今度はアメリカ軍のレーション呼ばわりされたよ」
「それまずいってことじゃ……」
「まぁ、今はコレしか無いしね。経口摂取用もあるんだけど―ーこの薬品庫にはなかったかな」
「えぇ……もっと飲まなきゃならないんですかぁ……?」
「辛いことはパッパと終わらせたほうが良いから、一気飲みしたら良いよ。ほら飲んで飲んで飲んで! 飲んで飲んで飲んで!」
「そんな飲み会みたいな……」
直樹がそうつぶやくが、さくらはそれを無視してコールを続けている。
北風はもう一本瓶を渡す。やはり、先程のものと同じく「注射用薬品」と書かれていた。
「ちょっと私は経口摂取用探してくるから、とりあえずそれを――」
「Breach! Go! Go! Go!!」
直後、薬品庫に銃弾の嵐が吹いた。
薬品を探しに行こうとした北風の目の前を、5.56mm弾が通り抜けていく。
「伏せろっ!」
さくらがそう叫ぶ。
銃弾はスチール製の薬品棚をいとも簡単に貫き、薬瓶はわれ、内容物があたりに散らばる。
「どうする……?」
「一旦、この薬品庫から離脱するべきだな」
「そりゃわかるけど、どうするよ」
そう言いながら、結城は入口の方を覗く。
アサルトライフルを持った兵士が、ゆっくりとこちらに近づいてきていた。
「うーん……逃げるにしても、この明るさじゃな……」
「電灯切るかい? スイッチは向こうにあるけど……」
北風は、そう言って後ろを指でさした。
薬品棚を背に座り込んでおり、彼女の後ろ側は出入り口の方向である。
「いや、それよりも……」
そう言いながら、さくらは持っていたベレッタM9を上に向ける。
「準備してね」
「え?」
直後、さくらは引き金を引く。
パン、という軽い銃声とともに、フッと明かりが消え、あたりを暗闇が支配した。
「ライトを撃ったのか」
「よし、行くぞ……出口は?」
「あっちに研究室とつながる扉がある。そこから出よう」
棚の裏を通り、部屋の奥へ向かう。
そこに見えた鉄製扉を潜り抜け、隣の研究室に移動した。
***
横浜魔法研究所、地下1階。
神格実体研究部門、第一研究室。
扉を抜けると、広めの研究室に出た。
「ともかく、魔力回復はできたわけだ。あっちに階段がある。アレを使って1階に上がろう」
北風はそう言うと、暗い研究室を、机の裏に隠れながら歩いていく。
やはり研究室だからか、部屋全体は理科室のような風貌だ。
電気はついていないため、非常に暗い。
「……そういえば、ここの地盤はゆるいんだ」
「急にどうした」
さくらがそう言うと、北風は続ける。
「この研究所は崖沿いに作られた建物だってことは知ってるよね?」
「そりゃまあ……」
「……ちょっとまて? それって……」
直後、地面が大きく揺れる。
「そもそも弱い地盤に、先のミサイル攻撃で強い衝撃が与えられてる。私の計算では――10分後に、この研究所は崖下に落下するかな」
「それを早くいえよっ!」
「大声出すなって!」
再度、地面が大きく揺れる。
「まぁ、この建物――日本の建物は殆どそうだが――は災害、特に地震については強いんだ。最も、ミサイル攻撃なんて予想してないから、この状態でここまで持っただけマシというか……」
「そんな事はいいから、一旦本の研究室に戻って、さっさと脱出しなきゃ……」
「……しかし、この建物が倒壊したら再建にどれだけかかるか。作るのに1億円はかかったしな……」
北風がそんな事をボソボソ言っているが、他の6人はそれを無視し、しゃがんだ状態で、しかし急ぎ足で階段へ向かう。
***
横浜魔法研究所1階。
――北風研究室。
「さて、さっさと車を直さなきゃね」
「アイちゃん、頼む」
「わかりました!」
アイが何やらボソボソ言うと、キラキラした光とともに、衝突して壊れた車が元の姿に戻っていく。
バンパーは再度取り付けられ、折れた車軸は修復される。
なくなっていたドアミラーは無から修復され、ボンネットはまっすぐに変わり、内部のエンジンはパーツの形が戻り、散らばったものがくっついていく。
開いていたエアバッグが戻り、割れたフロントガラスは破片が集まってもとに戻った。
「魔法の力ってすげー」
結城がそうつぶやくと、車は完全に修復される。
結城が試しにスターターボタンを押すと、エンジン音が響いた。
「おぉ。エンジンが掛かった」
「よし、さっさと逃げましょ、医院長!」
和佳奈がそういうと、直樹が言う。
「当然、北風博士も来ると思うんですけど――この車に8人乗れますかね?」
「頑張れば乗れる乗れる。5人乗りに7人乗ってた時点でね……」
そう行って、結城は運転席に乗り込む。
助手席に和佳奈、後部座席の右にさくらと北風、左に直樹と翔、真ん中にツバキ、その上にアイが座っている。
「すんごい狭い」
「まぁ仕方ないだろ、さっさと行くぞ」
そう行って、結城はシフトレバーを切り替え、アクセルを踏み込んだ。
車は単調な電子音を鳴らしながら、後ろへ下がっていく。
やがて車両は建物の外に出るが、激しい豪雪が吹き荒れており、それらは車に叩きつけられてくる。
先程よりも激しくなった行きに寄って、地面は雪に覆われており、車のタイヤ痕が深く残る。
ハンドルを切りながらバックし、切り返して道路へ向かう。
そして、車は道路に侵入し、安定した走りに移行した。
「よし、コレで離れられる」
「……いやちょっと待って? 私達がここに来たのって、ARSを手に入れるためだったよね……? 結局、何も手に入れずに逃げることになってるけど、大丈夫……?」
さくらがそう言うと、周りは「あ」といった顔をする。
車の中を静寂が支配するが、少しして、北風がこういう。
「ARS? それなら私が持ってるぞ、ほら」
彼女がポケットから取り出したのは、携帯型ARSのようだ。
しかし、前に見た携帯型と比べて少々形が違う気がする。
さくらがそう思っていると、北風が言った。
「お、気づいた? これは改良した携帯ARS……その名も、改良型携帯ARSv2だっ!」
「名前がそのまんますぎる」
直樹につっこまれながらも、北風は改良型ARSの説明を続けていた。
「前の型にあった、起動時にモスキート音がなるという不具合をなくし、効果範囲を半径10mまで上げたんだっ! まぁ、そのかわりに少し大型化したんだけど……十分携帯できるから問題なし!」
「それでいいのか?」
「まぁ良いでしょう。……さて、とりあえず電源をつけておこう」
そう言って、北風はARSの電源スイッチを押した。
カチッ、という軽い音とともに、小さく駆動音がなり始める。
「これで、この車の半径10mでは魔法が使えないはずだ」
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