地下へ
「よいしょっと」
扉と車の間を抜け、研究室の中に入った。
「さて……この研究室のパソコンから、音響設備にアクセスできるんだ。これを使って、研究室とは真逆のスピーカーから何かを鳴らせばいい」
「何かって……何を?」
「適当な音楽でいいだろう。……よし、鳴らすよ」
「ああ」
「鳴らしたら、すぐに階段まで向かうんだ」
北風博士はそう言うと、キーボードを叩いた。
直後、遠くからけたたましい音楽が響いてくる。
「よし、行くぞ!」
研究室から飛び出し、階段へ向かう。
見張りは音の方に向かったようで、階段の前には誰も居なかった。
非常階段に駆け込み、地下へと向かう。
***
―ー横浜魔法研究所、地下1階。
魔法化学部門、メインホール。
「あそこだ」
そう言って北風が指さしたのは、『化学薬品保管庫』と書かれた扉だった。
***
化学薬品保管庫の中には、所狭しと棚が並べられている。
その上には整然と薬瓶が並んでおり、殆どは見覚えのないものだった。
電気がついておらず、部屋の中は非常に暗い。
なにか明かりがなくては、ラベルを見るのも難しいだろう。
「電気を付けるのは、見つかる可能性が上がるからな……スマホのライトで探そう。これだけの薬品がある場所だから、レスファリンがどこにあるか、覚えてないんだ……」
北風はそう言うと、スマホを取り出し、ライトを点けた。
明るい光が、あらゆる薬瓶を照らす。
ラベルに書かれた文字は、無知識の者にとっては、不規則なカタカナの並びにしか見えないだろう。
しかし、その中に紛れ込む「エタノール」や「メチルアルコール」、「ベンゼン」といった薬品は、一般人でも聞き覚えのあるものであり、ここが薬品保管庫だということを再確認させてくれる。
「たぶん、あっちだ」
「場所を把握してないの、不安だなぁ」
薬品棚の間をすり抜けながら、部屋の奥へと向かっていく。
さくらは、周りの棚に置かれた薬品をなんとなく眺めながら、北風についていっていた。
他の6人も、同じように、周りの薬品棚をちらりとみながら、ついてきている。
特にアイは、薬品に興味津々なようだ。
「えーっと……あ、ここだね」
ドアから10メートルほど離れた薬品棚の前で、北風がそう言って立ち止まる。
棚の上には、『レスファリン』とかかれた茶色の遮光瓶が数個、置かれていた。
瓶にはレスファリンという文字以外にも、様々な文言が書かれている。
「注射用薬品」だとか「3g」だとか、いかにも「薬品」、といった外見だ。
まぁ、薬品なので当然だが……。
「さて、これを……」
北風は、瓶を手に取って、言う。
「静脈注射にしなきゃ。注射器は近くの実験室にあるから、そこまで――」
「いや、オレ注射器持ってますけど」
そう言って、結城は注射器を取り出した。
中身は空っぽで、薬品を入れた形跡はない。
「……医者だとしても、注射器なんて持ち歩くか?」
「この人キチガイですから」
「ひどい」
言いながら、結城はテキパキと薬を注射器に入れていく。
「ちなみに、アンプル瓶を割る時はガーゼやらなんやらでまいた後に割るのがいいよ。破片が薬に入りにくいから。……ま、この瓶はアンプル瓶じゃないけど」
「必要ない雑学ありがとうございます」
「言葉の切れ味がすごい。……じゃ、注射するね―……右腕に静脈注射でいいよね?」
「ああ。問題ないはず」
「おっし。右腕出して―」
そう言って、結城はアイの方を向く。
アイが右腕を前に出すと、袖をまくり、静脈を探し始めた。
「うーん……ここでいっか」
「え? ちょっと?」
「えいっ」
注射器の細い針を、アイの華奢な腕に突き刺す。
「よっしゃ採血……じゃなくて薬突っ込まなきゃ」
「薬突っ込むって呼び方やめてください」
「まぁええやろ。注射できれば」
そう言いながら、結城は注射器の中身を押し込んでいく。
最後まで押し込んだ後、注射器を抜いた。
「ガーゼ無いから絆創膏で」
「えぇ……」
「仕方ないだろ! ココ病院じゃないし……あと、変えの注射針もないから、このまま使いまーす」
「不衛生では?」
「同じ人間に注射するんだから問題なし!」
「この人ほんとに医者免許持ってる?」
「失礼な! 東京医科大学卒業してるぞ!」
「東京医科大学も堕ちたな……」
「ちなみに、注射針は交換するのが普通だぞ。感染症のリスクがあるからな。ただ、発展途上国だと交換せずに使うところもあるから、最近は一度使ったらもう使えなくなる注射針が出てきてるな」
結城がそう言うと、さくらが言う。
「ここは日本っていう先進国なんだから、交換くらいしなよ……」
「交換用の針がないんでね」
「近くの実験室なら、あると思うけど……」
北風がそう言うと、結城はこう答える。
「取りに行くのが面倒くさい!」
「おい」
言いながら、結城は針についた血液をティッシュで拭き取り、近くの薬品棚を見る。
棚には様々な薬品瓶が並んでいるのは先に述べたとおりだが、結城はその中から「エタノール」を発見すると、それを手に取った。
「これで針を消毒したら、まー大丈夫だろ」
「エタノールで? 大丈夫かな……」
「メチルアルコールじゃないから問題ない」
「メタノールは論外だろ」
「メタノールは使えるよ? 工業や科学実験には結構頻繁に使われるし」
北風がそう言うと、結城がこう付け足す。
「最悪、敵にむりやり飲ませたら武器にもなる」
「えぇ……」
北風が結城の発言にひいていると、和佳奈が彼女の肩を叩き、言った。
「アレが平常運転です。我慢してください」
「……アレが?」
「はい」
「おぅ……日本の未来は暗いね」
「あんなやつに未来任せちゃ駄目でしょ」
「……あ、そうだ。アイくん、体の調子は? レスファリンがしっかり効いているかどうか……10代の被験者に使ったのは初めてなんでね」
そう言いながら、北風はアイの方を向く。アイは、特に何も変わっていないように見えた。
「うーん……すこし、魔力が回復した感じがします」
「ふむ……やはり投与量が少ないか。経口投与でも問題ないが……注射器があるなら、静脈注射のほうがいいしな……でも感染症……うーん……」
北風は、一人で何やら考え込んでいる。
「じゃあ注射しまーす」
注射針をエタノールで適当に消毒した結城が、そう言いながら近づいてくる。
「待った。やっぱり経口接種に変える。やはり、同じ注射針を使うのは感染症のリスクが高い。ここにあるレスファリンは注射用だが、まぁ……行けるだろう。レスファリンを作ったのは私だから、信用してくれ」
そう言って、北風が結城を止めた。
「本当に大丈夫か?」
「問題ない。注射用と経口摂取用、中身はほとんど同じのものだしね。濃度が違うだけ」
「それ本当に大丈夫か……?」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
などと思ったら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。




