脱出
一方、結城、和佳奈、アイは脱出路を確保しようとしていた。
「フローズンレイン!」
アイが水魔法で炎の勢いを弱めると、炎の向こうに非常口が見える。
「よし、行くぞ!」
結城は近くにあった消火器を手に取り、弱くなった炎を消しながら、非常口に向かって走る。
後ろから、さくらたち三人が、ツバキを背負って走ってきていた。
その奥の天井が崩落し、鉄骨やコンクリートが散らばる。
建物が大きくきしみ、崩れ始める中、結城が最初に非常口にたどり着いた。
大きくねじ曲がった非常口をこじ開け、少し開いた隙間から外に出る。
***
雪降る外階段。
扉から外に出て、六人はその階段を降り始めた。
「見事なまでの曇天だねぇ」
「曇天どころか大雪ですが」
ふと、時計を見る。
時刻は午後2時11分。
昼間であるにもかかわらず、雪雲のせいで町は暗い。
その上、雪のせいで寒く、白い。
「早く、工場から出て車に行こう」
「ええ」
大穴があき、燃え盛る地下の見える駐車場に降り立つ。
工場を背にし、門へ向かって歩き出した。
その刹那。
後ろの扉が吹き飛ばされ、スーツの女性が飛び出してくる。
女性は、右手を前に突き出す。
すると、その前に魔法陣が現れ、不可視の衝撃波が最後尾を歩いていたアイに襲い掛かった。
その衝撃波が雪を押しのけたのを見たさくらが、叫ぶ。
「アイちゃん、危ない――!」
「えっ?」
直後。衝撃波はアイにぶつかり、彼女の体は宙に舞った。
そのまま、駐車場のトラックにたたきつけられる。
「アイちゃん!」
「大丈夫か!」
さくらと結城が彼女に駆け寄る。
魔法を使っている時点で、あの女性は明らかに日本人ではない。
首からかけている社員証のようなものにはなにか書かれているが、ところどころかすれていて読めなかった。
読めるところだけ読むと「加 重 ンタ ン研 」と書かれていた。
名前の部分は、完全に見えなくなっている。
女性は背中から蝙蝠のような翼を生やすと、空中に飛び立った。
暴風雪がさらに激しくなる中、女性は自分の前に魔法陣を出し、もう一度不可視の衝撃波を放ってくる。
しかし、この雪のおかげで、不可視といえど、雪の動きでそれを確認することができた。
「よけろっ!」
トラックの近くにいた三人は、とっさにトラックから離れる。
衝撃波はトラックを吹き飛ばし、トラックは回りながら駐車場のフェンスを破壊。
そのまま、近くの民家に突っ込んだ。
その民家が倒壊する中、女性は魔法をさらに放ってくる。
魔法はあちこちの街灯やフェンスを破壊するが、何とかよけることができていた。
「くそっ、このままじゃじり貧――うおっ!?」
さくらは、足元に飛んできた風の刃をとっさに避ける。
その刃は近くの街灯を切り裂き、それが倒れてきた。
街灯は駐車場の車を押しつぶし、鉄のひしゃげる音が響く。
さくらが、ふと周りを見ると、結城の姿が見えなかった。
「あれ、結城は!?」
「知りませんよ!」
いつの間にか近くに来ていた直樹がそう言った直後、女性が二人に向かって魔法を撃ってくる。
アイが二人の前に飛び出してきて、防御魔法でそれを弾き飛ばした。
「集まってたら危ないです! 散開しましょう!」
「あ、ああ」
その時。三人の後ろから、けたたましい警告音が響く。
見ると、光がこちらに近づいてきていた。
「あぶないっ!」
さくらはそういうと、アイを抱えて、横に飛ぶ。
同じように、直樹も横に飛んだ時、先ほどまで三人の後ろにあったフェンスが吹き飛ばされた。
そこから、雪を巻き上げながら、黒く巨大な塊が突っ込んでくる。
フェンスを吹き飛ばしながら突っ込んできたそれは、そのまま女性を跳ね飛ばす。
そして、それは駐車場のど真ん中で止まった。
速度が早くてわかりにくかったが、よく見ると、あれは結城の車だ。
「早くのれぇ!」
車内から、結城がそう叫ぶ。
車に跳ね飛ばされた女性は、少しふらふらしていたが、すぐに回復するだろう。
さくら、直樹、アイがそちらに走り、助手席に三人で飛び込む。
当然ながら、助手席は三人が乗れるように作られていないため、非常に窮屈。
しかし、無意識のうちに同じ所へ飛び込んでしまった。
翔がツバキをおんぶして後部座席の右側に、和佳奈が左側に飛び込むと、車は急発進する。
「助手席の扉閉めろ助手席の扉!」
「無理ですよ! 同じ場所に三人乗ってるんですよ!?」
「レバーが引けない! アイちゃんどいて!」
「無理ですよっ!」
車は、少々蛇行運転しながらも工場の敷地外に飛び出す。
「さすがスタッドレスタイヤ、この雪の中でもちゃんと走れる!」
「どうでもいいからどいてください!」
「無理だってばよ!」
「だってばよって何ですか?」
「助手席で喧嘩するな! ハンドルがとられるが!」
「重い……」
「太田君、女性に重いは失礼だよ!」
「人二人が上に載ってる時点で重いのは間違いないだろ!」
「いいからお前ら後部座席に行け! 運転しにくい!」
「無理だって!」
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