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テンヌルッシャー橋


テンヌルッシャー橋。

ルヴトレム本社都市を横断するように流れる巨大河川、チュヤル川にかかる巨大な橋だ。

ルヴトレム首都はチュヤル川の周りに沿うように作られており、

チュヤル川の南にはスラム街、北には工業区や行政区、軍事区が位置している。


眩しい太陽光が照り付ける中、自衛隊の戦力が橋の南に集結していた。

テンヌルッシャー橋はルヴトレムにとって防衛の要であり、

他の多くの橋はすでに爆破解体されている。

しかし、この橋の解体は遅れており、現在もルヴトレム軍が爆薬を設置している状況だ。

そのため、爆破される前に橋を確保しなくてはならない。

天気は快晴。風もほとんどなく、気象による作戦への影響はないだろう。


テンヌルッシャー橋は橋塔や多数の防衛設備が置かれており、強固な防衛線が築かれている。

また、自衛隊は航空部隊も進出させているが、ミサイル攻撃などは橋を崩壊する可能性があり、使えない。

そのため、航空支援は機銃だけという制約があるのだ。


敵の防衛陣地は橋の入り口と出口に集中しており、北側からはトラックによる物資搬入が行われている。

どうやら、敵はテンヌルッシャー橋を決戦の場にする予定のようだ。


***


「早く爆薬を運び込め! 敵が来るぞ!」


12月としては異例の暑さの中、奴隷……いや、下級社員が爆薬を橋へと運んでいる。

爆薬の量はかなりのもので、彼らだけで運ぶのはさすがに難しいだろう。

しかし、一般兵、いや一般社員は武器点検や周囲の警戒を行っており、下級社員たちのことを手伝おうともしない。

というか、無関心ならいいほうで、中には歩いている下級社員を足に引っ掛け、わざと転ばせる者さえいる。


「畜生、あいつ……いつか殺してやる」


下級社員の男は、そうつぶやきながら橋を爆薬とともに進む。

しかし、その足はふらつき始めており、息も上がっているようだ。

とても12月とは思えないこの暑さ。男には心当たりがあった。


彼は、かつてこの地に位置していた国、「ギャルシリア王国」の兵士だった。

ギャルシリア王国は、現在のルヴトレム領を統治していた国であり、ルヴトレムも元はこの国の一企業に過ぎなかった。


彼は、かつてのギャルシリア王国のことを思い出す。


***

過去。

ギャルシリア王国、首都サルエラ。

彼――セルエル・スカーレンはギャルシリア王家の近衛兵をしていた。

彼は王家に忠誠を誓い、ギャルシリア王国のために命を捧げていた。

実力も高く、多くの部下を持っていたのである。


「たいちょー。なんかすごい暑くないです?」


セルエルに話しかけてきたのは、同じ近衛兵のサラ・レイカリットだ。

彼女はギャルシリア貴族の娘で、剣術にたけている。

近衛兵の制服は紺色なので、日光を集めやすい。

しかし、それにしても暑かった。


「確かにな。……そういえば、ギャルシリア聖教会の神話だと、ギャルシリアに何か、大きな出来事が起こる時期は、季節にかかわらず、暑くなる――と言われていたな」

「へー、たいちょー物知りですねぇ」


サラはセルエルに尊敬のまなざしを向けている。

それを横目に、セルエルは空を見た。

とても冬とは思えない青い空に、入道雲が浮かんでいる。

何か、嫌な予感がする。

セルエルは、この先に恐ろしい何かが待ち受けている気がしてならなかった。


「まぁ、それはいいとして、たいちょー、模擬戦しましょうよ! 模擬戦!」


そう言いながら、彼女は近衛兵用の剣をぶんぶん振っている。

彼女の持つ剣は、ギャルシリアが古代遺跡から発見された武器をもとに解析し、作られた試作品である。

その剣の刀身は湾曲した片刃で、刃長が60~75㎝程と長い。

また、通常の剣と違い、長い柄が付いている。

そのため、本来は両手で持つものだと考えられているが、彼女は片手で振り回していた。

なお、この剣は通常の剣と違い、軽い力で物を切れるのも特徴である。


「あぁ、いいだろう。あとでな」

「やったー!」


と、そんなことを話していると、同僚の近衛兵が話しかけてきた。


「セルエル隊長、サラさん、王家から国民に発表があるので、守りに行きましょう」

「なに? そんな話聞いていないが――まぁいい、わかった。サラ、行くぞ」

「りょーかい」


***

中央広場は、ギャルシリア王国の王城前に位置する大きな広場だ。

城のバルコニーが広場のすぐそばにあるため、王家からの発表はここで行われる。

広場には、すでに多くの民が集まっていた。

サラとセルエルは門の前に立ち、国民が城内に入らないよう警備する。


「……」


二人は槍を持ち、無言で立っている。

槍は長い柄と小さな鏃で作成できるという圧倒的生産性を誇り、近接武器の中ではリーチが最も長い。

そのため、昔から主力武器として利用されているものの、近衛兵は時々パフォーマンスも行うため、槍以外にも剣を装備している。

もちろん、彼らも剣を腰に携えていたが、これを使うことはほとんどないだろう。


「た、たいちょー……」


サラがセルエルに話しかけてきた。

どうやら、とても緊張しているようだ。


「どうした? そんな声を出して」

「王家の発表って、何なんでしょうね……」

「わからん。……まぁ、とりあえず静かにしとけ」

「はぁーい」


緊張しているからか、サラの声はかなり小さい。

さらにその声も、広場のざわめきにかき消された。

やがて、王室親衛隊が城から出てきて、大きな声でこう言う。


「静粛に!」


王室親衛隊は、近衛兵の中の一部隊だ。

エリートである近衛兵の中でも選りすぐりのエリートたちで構成されおり、王族全体を守る一般の近衛兵とは違い、時の王だけを守ることが使命だ。


「国王陛下よりお言葉を賜る! 心して聞くように!」


その言葉とともに、広場の国民は静まり返り、城へと注目した。

王室親衛隊がキビキビした動きで道を開けると、奥の扉から、ギャルシリア王国第二十二代王のスレタリア三世が現れた。


「皆の者よ! よく聞け! 余の娘、ユリアが結婚することになった!」


民の間にざわめきが広がる。

無理もないだろう。なぜなら、ユリア王女は王家の中でも最も美しいと評判で、他国の王子から求婚されたという噂も流れていたのだ。

しかし、その噂を王は一蹴したはずだったが……。


「相手はルヴトレムの役員、アベル・サリンジャー殿だ! ユリアはアベル殿を大変気に入った!」


王の発表に、民は戸惑っている。

この時代のルヴトレムは、ギャルシリア内の一企業に過ぎない。

確かに巨大企業ではあるが、王族との婚姻など簡単には結べないはず。

それが、あっさり認められたのだ。

セルエルは少々違和感を感じながら、他の人々と一緒に拍手を送る。

見ると、サラのほうも釈然としない顔で拍手をしていた。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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