国立生物学研究所
~国立生物学研究所前~
「おーっとっとっとっと……」
雨でぬれた路面は滑りやすく、
すこしハンドルを切っただけでスリップしそうになる。
何とか真っすぐ走ろうとするが、そのまま生け垣に突っ込んでしまう。
車は生け垣を突っ切ると、生物学研究所のガラス扉を破壊。
そのまま室内のコンクリート壁に衝突し、停止した。
「いてて……」
エンジンが完全に故障し、車はもう動きそうにない。
六人はスマホのライトをつけ、研究所を探索し始めた。
車の周りはヘッドライトのおかげで明るいが、そのほかの場所は真っ暗だ。
「ガラス片がやばーいね」
「そりゃまあ車で突っ込んだし――」
結城が、スマホの光であたりを照らす。
そこら中に、研究員の遺体が転がっていた。
本能的に目をそらすと、扉が目に入る。
向かってみると、『一号研究棟・第三研究室』と書かれていた。
扉の隙間からは、紫色の光が漏れ出ている。
「この先に、アイが……?」
扉を開くと、部屋には暴風が吹き荒れており、上着が吹き飛ばされそうになる。
床には巨大な魔法陣が描かれており、その真ん中にはアイが立っていた。
蛍光灯や瓦礫が不思議な力で宙に浮かんでおり、アイは聞いた事もない言葉で歌っている。
アイの歌はノイズ交じりではあるが、
そのごくごく一部だけ、意味が理解できる。
「深淵に……神の名を奏で……暗黒の力を呼び覚ます音色で……
月の輝きも……全てを呑み込む闇の中……たる者たちへの讃歌」
そこまで歌うと、アイは六人の方に振り返った。
「やはり来たか」
アイはそう言うと、六人の方へと歩いてくる。
「来るだろうとは思っていた。しかし、私は使命を果たさねばならない」
「使命……だと?」
直樹が、聞き返す。
「そうだ。お前たちに邪魔されるわけにはならない。死んでもらうぞ」
アイは、強い意志のこもった声で答える。
そして、手を振ったかと思うと、後ろの壁を突き破り、一機のトークロイドが飛び出してきた。
「うわっ!」
「ツバキ! 型番は!」
『検索中……一般ネットワークに該当データなし。
トークロイド共有データサーバーに接続します。お待ちください……』
ツバキがサーバーに接続しようとしている中でも、敵トークロイドは襲ってくる。
「と、とりあえずあそこに!」
結城はそう言って、近くの瓦礫を指さした。
翔とツバキを除いた四人はすぐにその裏に隠れ、
翔は接続にリソースを消費しているツバキを引きずりながら、近くのホワイトボードに隠れる。
「くそっ、第六世代なのに、なんでサーバー接続だけでこんなにリソースを消費するんだ」
「首都圏で大規模な電波障害が発生してるって言ってたから、多分その影響だな」
『……接続完了。該当データを一件確認。
第七世代超汎用トークロイド「HOL-36」型です。
宇宙空間や火山内部での作業にも耐えられる外殻、
金属加工レーザー、自己修復システム、小型火力発電機、
小型ARS、物体圧縮集納機、超高速移動システムなどなど、
様々な装置が組み込まれています。
すべて、加原重工系列企業によって独自の技術でつくられたものです。
なお、宇宙空間や火山内部の環境に耐えられる外殻は、
ちょっとやそっとの攻撃じゃ壊れることはありません』
「マジかよ……」
翔は、小さくそうつぶやいた。
『この中でHOL-36に対抗できるのは、ロボットである私だけです。
なので、私が時間稼ぎしている間に、HOL-36の電源を切断してください。
スキャンしたところ、奴はワイヤレス電力伝送で動いています。
電力の元はこの施設の非常電源。それを停止すれば、無力化できるはずです』
いうが早いが、ツバキはホワイトボードの裏から飛び出すと、
武器システムを展開し、HOL-36へ攻撃を開始した。
HOL-36は、右手のブレードでツバキに切りかかってくる。
その速度は目視できないほどの物であるが、ツバキはブレードでそれを防ぐ。
二機のトークロイドは、とても見えないような速度で戦い始めた。
「……今のうちに、非常電源を探そう」
「そうですね」
六人は、部屋の外に忍び出る。
そして、施設内を探索し始めた。
***
「暗いな」
スマホのライトで周りを照らしながら、ボロボロの通路を進んでいく。
しばらく進むと『発電室』と書かれた看板が目に入った。
扉を開くと、階段が地下へと進んでいる。
六人がそれを降りてゆくと、発電室は足元まで浸水していた。
「これじゃあ歩きづらいな」
「まぁこの台風だし……」
「台風といえば、『しなの』大丈夫ですかね」
「さぁ……」
しばらく進み、発電機へと近づいていく。
非常用発電機はゴウン、ゴウンと機械音をうならせ、動いていた。
取り付けられたクランクレバーの上に、一枚の看板が張り付けられている。
看板には、『緊急用停止レバー・ゆっくりと時計回りに回してください。
また、危険ですので途中で回すのをやめないでください』と書かれていた。
さくらが、クランクレバーをゆっくりと回し始める。
その時、壁が崩落。濁流が流れ込んできて、部屋の水位が上がり始めた。
「うわっ!」
「早く発電機を停止しないと!」
「放置してたとしても、浸水で壊れそうですがね」
「いや、完全防水って書いてありますよ」
翔がそう言った。
発電機には『この発電機は完全防水です。
たとえ洪水が発生しても、故障することはありません』と書かれた看板が取り付けられていた。
ちなみに、看板の下には加原重工のロゴが入っている。
「防御力高すぎじゃない!?」
さくらは、クランクを回しながらそう叫ぶ。
浸水はさらに激しくなり、もう腰あたりまで泥水に覆われていた。
発電機から、アナウンスが響く。
『緊急停止操作を承認しました。緊急停止10秒前』
「よし、離れろっ!」
ハンドルから離れ、濁流をかき分けながら階段へ向かう。
浸水はさらに激しくなり、水位が上がり続ける。
やっとこさ階段までたどり着いた時、
ノイズだらけだった結城のスマホから声が聞こえてきた。ラジオだ。
『台風21号は勢力を増し続けており、都市部に甚大な被害が出ています。
避難勧告が出された地域にお住まいの方は、速やかに避難を行ってください。
また、橋霧町は沿岸部から水没を開始しました』
「水没!? もう滅茶苦茶だよこの街! 物理的に!」
「いいからさっさと上に行くぞ!」
階段を駆け上がる六人。
扉を開けた直後、階段ごと地下室が流され、建物も大きく傾いた。
一階も浸水し、崩壊が始まる。
建物が傾く中、先ほどの部屋に飛び込んだ。
部屋には、電力供給が停止したことで倒れてしまったHOL-36と、
あちこちから電流と冷却液が漏れ出ているツバキがいた。
「大丈夫か!?」
『ザザ……異常を検知しました。加原重工サポートセンターにご連絡下さ……い……」
そこまで言うと、ツバキは機能を停止させた。
「止まっちゃった」
「ちょっと待て。今はそんなこと言ってる場合じゃない。アイはどうなった?」
アイがいる方を向く。
アイは先程歌っていた歌の続きを歌っているようだ。
翻訳現象は完全に機能しておらず、もはや歌の意味は分からない。
「くめとろひらきよすふへたなぬり、えみよふにけとしむあおゆほるやらせん。
ふあいぇおほあうぎゃれほうああの、おきうてなうきうるすきりむみ。
さちゃんかにきる、たみすよさくいうらおじゃうれかふぁそうあきうださ」
歌い終わったとき、暴風が吹き荒れる。
壁と天井が吹き飛び、魔法陣から黒い闇のようなものがあふれ出た。
闇のようなものは集まっていき、人の形を形成していく。
それを見て、アイが言った。
「ああ、エルラト様! この世界を闇に包んでください!」
「エルラト?」
その時、闇があたりを包む。
その闇が消えた時、魔法陣の上には巨大な翼をもった女性が浮かんでいた。
いや、女性というのは間違いかもしれない。
確かに、体は人間の女性だが、顔が存在しないのだ。
細かく言うと、顔があるはずの場所に闇が広がっているのである。
目も、鼻も、口も、ない。
まるで、顔の部分だけが光を反射していないようだ。
「な、なんだ、こいつは……」
「前、『しなの』で見たエルラトとは全く違うぞ……?」
その時、頭の中に声が響いてくる。
エルラトの声だ。
『我が名はエルラト。闇と破壊をつかさどる神。せっかく復活したんだし、この世界を滅ぼしてやろう。神に逆らう者には、死を……』
エルラトはそこまで言うと、壊れた天井から飛び立ち、空へと飛んでいった。
その衝撃でアイを含む七人が吹き飛び、壁にたたきつけられる。
***
「うわっ!」
ヘリの横を、エルラトが飛び去って行く。
暴風で吹き、ヘリが大きく揺れる。
「な、なんだ、あいつ!」
***
六人が起き上がると、地面が大きく揺れ、建物が傾く。
「ま、まずい! 逃げるぞ!」
「え、ええ!」
直樹が倒れていたアイを背負い、六人は建物から走り出る。
建物は崩壊し、海に流されていった。
地面が崩れ、道路にもひびが入る。
「あっ、あれ!」
さくらが沖の方を指さす。
巨大な波が、こちらに向かってきていた。
結城のスマホから、ラジオ音声が響いてくる。
『台風21号の影響により、東京湾で高波が発生しました。
高波は……で……となっています。
沿岸部の方々は、近くの高い建物等に避難を……さい』
ラジオ音声を聞き、さくらは近くの高い建物へと向かう。
他の五人もそれを見て、建物へと向かった。
***
~彩音ビジネスガーデンビル・屋上庭園~
「うわあっ!」
轟音と共に、建物が大きく揺れる。
超巨大な波に沿岸地域が飲み込まれ、低い建物はほぼすべて見えなくなっていた。
「こ、ここにいて大丈夫なんですかね!?」
「た、多分大丈夫……」
エルラトは、このビルと同じ程度の高さで飛び回り、いろんな建物を吹き飛ばしている。
その様子を眺めていると、アイが目を覚ました。
「う……」
「あ、アイさん。大丈夫?」
「……はい。ありがとうございます」
アイは直樹の背中から降り、屋上庭園の柵に近寄った。
飛び回っているエルラトを見ながら、こうつぶやく。
「……あなた方に、すべてを教えるしかないようですね」
「すべて?」
「はい。まず、私の正体から――」
***
アイは、かつてこの世界に存在した超古代文明の人間である。
当時は、邪神として信仰さえ禁止されていた、
エルラトを信仰する宗教の大司祭として生きていたのだ。
しかしある時、当時の政府当局に見つかり、新木星に流刑となったらしい。
アイは、エルラトの封印が解けたはるか未来、新世界惑星に舞い戻り、
新世界惑星に残る信者たちを指揮する存在として、コールドスリープを受けたらしい。
彼女がコールドスリープを受けている間に、なぜかはわからないが文明が崩壊。
それからさらに数千、数万年がたった現在、
エールラフィン山でエルラトの封印が少しだけ解けた事で、
アイの眠るポッドはこの惑星に向かって射出。
しかし、その途中でGPS衛星「おおとり」に衝突。
落下軌道が大きく変わり、新太平洋(日本列島の東に広がる大海)に落下した。
その後しばらく海をさまよい、横浜に漂着。
錠前に拾われ、一緒に暮らすようになる。
その際、落下の衝撃で記憶を失って……というか、人格が分かれてしまい、
新人格が現在のアイ、元の人格が国立生物学研究所でのアイということになった。
しばらく新人格の状態で暮らしていたものの、突如旧人格に戻り、すべての記憶を思い出す。
旧人格は錠前を殺し、エルラト開放の邪魔をされないよう、
護衛として新型トークロイドを盗もうと加原技研へと向かった。
その途中、新人格に戻る。
アイは新木星が迫ってきている(エルラトが解放されると、支援のため木星ごと接近するようプログラムされている)ことを知り、
そのことを伝えようと、生前に錠前から聞いていた橘教授の元へと向かおうとする。
その前に、旧人格に切り替わったこと手に入れた生えてきた力を使い、
錠前の死体を勅使川原医院へ運び、治療を任せた。
そこから、橘教授の向こうへと向かおうとした途中に、さくらたちに出会ったのだ。
その後、鷹那大学で新木星を目撃。
もはや時間はないと考え、自分一人で木星接近を解決しようとした。
そのため、追ってきた四人を撒こうとして加原重工製品展示館へ向かったのである。
加原重工製品展示館で四人と話していた途中、旧人格に切り替わる。
彼女は、自身の力を使って四人を気絶させると、加原技研に移動。
研究員を惨殺しながらHOL-36を奪い、国立生物学研究所に移動。
そこからは、みなが知っている通りである。
***
「マ、マジかよ……」
「……彼女は、一人で惑星を滅ぼすほどの力を持った破壊の神です。
まだ力を完全に開放していない今、ここで討伐しなければなりません」
「でも、あんなのにどうやって勝つんだ?」
「私が、最大出力で魔法を打ちます。しかし力をためている間に、逃げられる可能性があります。奴をあのビルとあのビルの間に引き付けてください」
「ひきつけてって言われましても……」
その時、周りにヘリコプターのローター音が響いた。
音の方を向くと、陸上自衛隊のヘリが一機、ビルの横を通り過ぎていく。
「陸自の災害派遣部隊……あれだっ!」
***
その後、さくらたちが陸自災害派遣部隊にエルラトのことを説明。
陸自災害派遣部隊から陸上幕僚監部、陸上幕僚監部から防衛大臣、防衛大臣から内閣総理大臣に報告が行く。
そして内閣総理大臣によって陸上自衛隊の全武装使用が許可され、
エルラト討伐作戦「オペレーション・秋津洲」が開始された。
***
「秋津洲……日本の旧名か。日本を守るための作戦にはぴったりな名前だな」
「……あともう一つ、魔法を打つには必要な条件があります」
「え?」
「たくさんの人に、この状況をみられていないといけないんです。少なくとも100万人くらいに……」
「100万人?」
「はい。それだけの人の視界の中で、魔法を使わなければなりません」
「100万人かぁ……いくらなんでもなぁ……」
「配信でもやります?」
「突然配信し始めた駆け出し配信者に人が集まるわけない。元々ネットで影響力があるなら別だが……」
「……私、ネットで活動してるからいけるかも」
さくらがそう言った。
「え? 司令、ネットでの活動してるんですか?」
「まぁ……」
「へー、いったいどんなことしてるんです?」
「別にどんなんでもいいでしょ……あ、太田君、youtubeチャンネル持ってる?」
「え? 持ってますけど……投稿はしてませんよ?」
「よし、そのチャンネルを使おう。私のアカウントでそのチャンネルを紹介すれば、それなりに人は集まると思う」
「でも同接100万人いけますかねぇ」
「そこはお前、気合いだよ」
「えぇ」
「オレたちのアカウントでも宣伝するか。一応……」
結城がそう言って、スマホを操作すると、他の四人もスマホを操作し始めた。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
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