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橋霧天体観測所

――橋霧天体観測所へと向かう車内。


「う~ん……このメモ、いったい何なんだろう」


さくらは、結城から渡されたメモを眺めながら、そうつぶやいた。


「加原技研ってのは、『加原重工横浜技術研究所』のことなのは間違いないと思いますが……」


横からそれを見た直樹が、そう言った。


「天体観測所に行ったら、加原技研に行ってみますか。何かあるかも」


メモを見ながら、翔がそう言った。


「そうだね」


さくらはうなずいた。


「……うわっ!」


突然、結城がハンドルを切る。

道路が、突然陥没したのだ。


「なんで道路が……」

「この雨で地盤が緩んでるのかも。状況を確認するためにも、ラジオつけるか」


結城がそう言って、カーラジオを付ける。


『こちらは、横浜市災害ラジオです。台風21号の影響で、橋霧町で地盤沈下が多発しています。

また、夕谷川の水位が警戒水位を突破し、沿岸部では自主避難が開始されています。

専門家によると、台風21号は勢力を大きくし続けており、

夕谷川が決壊する可能性があるとのことです』

「ヤバそうだな。いろいろ終ったら、区外に避難しなきゃ」


結城は言いながら、ハンドルを切る。

目指すは、橋霧天体観測所。


「あっ!?」


橋霧天体観測所へ向かう途中、夕谷川をまたぐ橋を通った。

橋は冠水しており、車ならぎりぎり通れるものの、帰りはどうなっていることやら。


「帰りは別の道を使わなきゃな」


***


『まもなく、目的地です。案内を終了します』


カーナビから、目的地への到着を告げる放送が流れた。

結城は、天体観測所の駐車場に車を止める。

六人は扉を開き、中に入った。


***

~橋霧天体観測所~

室内には一つの機械が置いてあり、他には何もない。

とんでもなくシンプルな内装だ。

機械のレンズを覗くと、新木星の地表が見える。

雲があるはずなのに、なんとも不思議だ。

おそらく、惑星観測衛星「うみどり」とリンクしているのだろう。

横にあるレバーで、衛星の軌道を操作できるようだ。


「こういうの、一般人がやっていいの……?」

「使用後は、勝手に軌道が戻るみたいですね。

勝手に操作できるのは、一般人ならではの発見を目的としているから……って、説明板に書いてあります」


さくらの疑問に、直樹が答える。


「へぇ……」


さくらは、レンズをのぞきながらレバーをいじる。

倍率を上げると、謎の施設が見えた。


「あれが、例の人工物か……しかしこれ、何かに似てるな……」

「ちょっと見せてください」


直樹が、同じようにレンズを覗く。


「なんだか、ロケット発射場に見えますね。何に使うかはわかりませんが……」

「ロケット発射場?」

「はい。昔、飛行機から見たJAXAの発射場によく似ています」

「種子島発射場の横を通る飛行機……? 沖縄行きかな?」

「そうですね。沖縄旅行の時に見ました」

「なるほど……しかし、ロケット発射場か。何に使われるんだろうな」

「そりゃ、ロケットを発射するんでしょ」

「そんなことわかってるよ」


その時、地面が揺れた。

電気が切れ、地面が傾く。

どうやら、この台風で地滑りが発生したようだ。

施設が移動したせいか衛星との通信が途切れ、レンズを覗いても砂嵐しか見えない。


「もうここでは情報を手に入れなさそうだな。加原技研に行くか」


結城はそう言うが早いが、車へと向かった。

他の五人も、それについていく。

外に出ると、雨は激しくなっており、駐車場はボロボロだった。

車は無事なので、急いで乗り込む。

エンジンをかけると、つけっぱなしだったカーラジオから声が響いた。


『夕谷川が氾濫しました。現在、橋霧町全域には避難勧告が発令されています。

また、川の氾濫による浸水被害や土砂崩れにより、

建物の倒壊や大規模な停電などが各地で起きており――』

「うわぁ……これ、相当ヤバいことになってるな」


結城はそう言いながら、加原技研に車を向けた。

天体観測所のある丘から降りたあたりで、物凄い音が響いてくる。

見ると、天体観測所が土砂崩れに巻き込まれ、完全に埋もれてしまっていた。


「マジかよ……」


車は走る。


***


『台風は未だ勢力を増しており、

横浜市を中心に首都圏では大きな被害が発生しています。

橋霧町は浸水被害が深刻な状況であり、

沿岸部は、強風による高波が襲ってきています。

沿岸部にいる方々は、すぐに逃げてください。

ラジオなんか聞いてないで、逃げてください。

また、川や海には絶対に近づかないでください。

約10cmの濁流であっても、それは恐ろしい凶器になりえます。

同じく、田んぼなどの様子は絶対に見に行かないでください。

損害よりも、自分の命を大事にしてください。繰り返します――』


ラジオから、切羽詰まった声が聞こえる。


「うわぁ……これ、相当ヤバいことになってるな」


道路は冠水しており、車体は水を押しのけながら進んでいく。

なるべく川や海に近づかないよう運転してはいるが、

加原技研は川の近くにあるので、どうしても近づかざるを得ない。


「ん?」


空を、数機のチヌークが飛んでいった。

とうとう、自衛隊による救助活動が開始されたのだ。

向かう方向から見て、町内で救助した人を町外へと運んでいるのだろう。


「自衛隊か……」


結城は、窓の外を眺めながらそう言った。

運転しながら空を見るなんて危ないことこの上ないが、彼は怖いもの知らずである。


「あっ、見えた!」


和佳奈がそう言った。

加原技研の施設が見えたのである。

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