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数十分前……

――数十分前、勅使川原(テシガハラ)医院。

第三診察室。


「風が強そうだね」


勅使川原医院の院長、勅使川原結城は、窓から外を見ながら、そう言った。


「巨大台風が上陸したそうですからね。急患が来るかもしれません、受け入れ準備しておきましょう」


勅使川原医院に勤める医師、七瀬和佳奈がそう答える。


「そうだな……ん?」


その時、ビルとビルを飛び交い、何かが飛んできたように見える。

結城が目を凝らしてみると、それは人であった。


「……人?」


直後、窓……というか、壁を突き破り、少女が飛び込んできた。

横殴りの雨となったガラス片、コンクリートが室内を吹き荒れる。

その少女の背中には黒い翼が生えており、一人の男を抱きかかえていた。


「な、なんだなんだ!?」

「あのっ! この人を……治してください!」

「治す!? 治すっていわれても……」


男は、どこからどう見ても亡くなっている。


「お金はいくらでも払います! だから、この人を治してください!」

「いや……でも……」


少女からは何か強い意思のようなものを感じた。


「あっ」


結城は、あることに気が付いた。

少女の手に、切り傷がある。おそらく、ガラス片で切ったのだろう。

デスクの引き出しからバンソウコウを取り出すと、少女に渡した。


「はい、バンソウコウ」

「あ、ありがとうございます」


少女は、それを手に張り付ける。

すこしして、突然苦しみ始めた。


「ど、どうした!? と、とりあえず、七瀬! 鎮静剤!」

「効果あるのか知らないけど、はい!」


和佳奈が、机の上に置かれた鎮静剤の瓶と注射器を結城に向かって投げる。

それをキャッチし、少女に向かって打ち込んだ。


「う、うぅ……」


鎮静剤の効果で、少女は男の遺体を取り落とす。

そして、そのまま倒れこんだ。


「とりあえずはこれで大丈夫……かな?」

「知りませんよ。こっち見ないでください」


その時、少女が起き上がる。

まだ鎮静剤の効果が続いているのにも関わらず、だ。


「え?」

「……」


少女は、床の上の遺体を蹴り飛ばすと、外に飛び出した。


「ちょ、ちょっと!?」


結城は外を見る。

ここは5階。普通の人なら死んでしまう高さだが、少女は無事だ。


「い、いったいどうやって……」


少女は、雨の中に消えていく。


「人間じゃないだろ、あいつ……」

「医院長。この遺体、どうします?」

「遺体安置所に動かしといて。どう見ても殺人だし、警察にも通報しとかないとな……」

「わかりました」

「あと、この壁を直さないと。雨が降ってきた」


壁に開いた大穴からは、ダイレクトに雨風が吹き込んできている。

雨風の勢いはどんどん増しており、放置していたら危険だ。


「業者を呼びますね」

「頼んだ」

「業者が来るまでは、適当に段ボールでふさいでおくか……」

「ついでに持ってきます」


***


「とりあえずこれでいいか」


数十分後。

結城は壁に空いた穴を段ボールでふさぎ、そうつぶやいた。

雨風は先程よりも強くなり、窓がガタガタと音を立てている。


「ひどい台風ですねぇ……」


和佳奈は、窓の外を見ながら言った。

壁をふさいだ段ボールはあっという間に濡れ、水滴が滴っている。


「そう言えば業者は?」

「この台風で来るのが遅れるそうです」

「仕方ない……待つか」


その直後、雨音が止まった。

外を見ると、雲の隙間に巨大な球体が浮かんでいるのが見える。


「な、なんだあれ……」


しばらく見ていると、それは雲に隠れた。

街には、再度暴風雨が吹き荒れる。


「なんだったんだ……」


結城がそうつぶやいた直後、雷が街中に落ちた。

確か、あそこには鷹那大学という学校があったはずだ。


「雷……停電でも起きなきゃいいですが」

「停電が起きたら怪我人が増えて、オレのもうけが増えるじゃん。やったね」

「クズだこいつ」

「クズで何が悪い。医者の30パーセントくらいは金目当てだよ。多分」

「偏見が凄いな」


その時、どこからか救急車の音が聞こえてきた。


「おっ、急患かな?」

「多分この病院に来ますよ。この台風で、区内の病院はほとんど閉まってますし」

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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