第9話 押し付けられた任務
メレンケリは急に口出ししてきた彼に対し、不審な目を向けた。
「これはご当主。お久しぶりです」
リッチャーは立ち上がり、リビングに入って来た父に挨拶をする。
「ああ。君は元気そうで何よりだな」
「はい、アージェ様も」
お互い形ばかりの挨拶をすると、父はキッチンの近くのテーブルに座り、用意されていた新聞を捲る。その記事を読みながら、娘の名を呼んだ。
「メレンケリ」
「……はい」
「その仕事を引き受けなさい」
父の指示に、メレンケリは反論する。
「……ですが、私の力は危険なのです。父上も分かっておられるでしょう。これが軍事警察署以外で使われることになったら、市民に危害が及ぶかもしれないのですよ。それでも構わないとお考えになっているのですか」
すると父が新聞からメレンケリに鋭い視線を向けたので、彼女は思わず身を引いた。
「そのための『許可証』だろう。右手に宿した力は、むやみに使えば人を傷つけることになるが、我々はそうならないように細心の注意を払ってきた。だからこそ、お前を信じて軍事警察署が『許可証』を発行したのだ。きっと、市民にもそういう危害が及ばないように配慮できると踏んでのことであろう」
メレンケリは膝の上でぎゅっと拳を握る。何と勝手な言い分だろうか。父は言葉を続ける。
「その上、大佐がわざわざ直談判しに来るなど前代未聞。こんなことは、今までに一度もない。長年『石膏者』をやって来た私でさえも、経験したことがない。つまり、やつを逃がす方がこの国にとって余程恐ろしいことになるということではないか」
「しかし――」
メレンケリは反論しようと思ったが、父は娘にその余地を与えなかった。
「四の五の言わずその仕事を引き受けなさい。そして我が家の誇りにかけて、グイファスと言う男から真実を奪うのだ。危険だと判断すれば、お前の力で石にしてしまえばいい」
「でも……!」
口答えをしようとするのを遮るように、父は強く娘の名を呼んだ。
「メレンケリ。お前に断る余地などない」
そう言われると反論しようがない。
「石膏者」の力は、諸刃の剣。
今は軍事警察署のために使っているからこそ重宝されているが、そうでなくなった途端、危険なものでしかないのだ。そのため、軍事警察署が望むのであればそれに答え続けなければならない。そうしなければ、メレンケリの居場所などなくなってしまうのだから。
そして、自分に向けられた父の目がそれを訴えてくるのである。もう逃げる余地はなかった。
「分かり……ました」
メレンケリは項垂れて承諾した。彼女に拒否権はなかった。
リッチャーはメレンケリの答えを聞いて、満足そうに微笑んだ。
「恩に着る、メレンケリ。ご当主も許可を下さり有難うございます。では、書状と許可書を置いていく。この二つがあることで、軍事警察署の外でも力を発揮することができるようになるので、外を出歩くときは必ず所持するように」




