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灰色の花(☆改稿版☆) ~右手に異能を持った少女の物語~  作者: 彩霞
13、リックスの過去とメレンケリ
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第88話 リックスの弟、エリック

 弟・エリックの部屋は二階にある。

 リックスは階段を上がりながら手に冷や汗をかいていた。鼓動もうるさいくらいに大きく、そして早くなっている。

 彼は弟の部屋の前に立つと、ゆっくりと深呼吸をした。何か恐ろしいものがそこにあるのではないかと不安が過る。

 リックスは何度か呼吸をして気持ちを落ち着かせると、ドアをノックをした。

 だが、返事はない。


「エリック」


 名を呼びながら再びノックをする。しかしやはり返事は聞こえない。


(もしかして、ここにはいないのか……?)


 リックスは自分に問うたが、「そんなことはないはずだ」と否定する。

 仮にいないとしてどこに行くのか。体の弱いエリックは、リックスのように寮に入って学校に通うこともできなかったはずである。


(はずだが……、エリックを押し付けられる場所ならある……)


 すると頭の中で考えられる限りの最悪の事態が押し寄せて来る。病院、施設……。あり得ないと断言できない。それほどまでに家の状況が悪すぎた。


「エリック、ごめん。入るよ」


 それらを打ち消すようにドアノブを回す。想像するのは仕方がないが、それはエリックがここにいないことを確認してからだ。

 幸い鍵がかかっていなかったのでほっとしたのも束の間、部屋に入ると何やら異臭がする。おまけに南側の窓は厚いカーテンで覆われており真っ暗で、冬だというのに暖房機が動いていない。


「エリック? エリック、どこだ? いるんだろ?」


 リックスは優しく呼びかけつつ、部屋の明かりをつける。するとそこには信じられない光景が広がっていた。


(なんだ、これ……)


 エリックの服があちらこちらに散らばっている。部屋もいつ掃除されたのか分からないくらい埃がたまっていて、フローリングが白くなっていた。


「……」


 ベッドの方へ近づくと、毛布の上にはお菓子などが入っていた袋が散乱してており、食べかすが放置されていたせいか虫がわいていた。


(ひどい)


 リックスはぐっと拳を握った。

 自分が学校に行っている間に、エリックがどのように扱われて来たのか想像するだけで腸が煮えくり返りそうだった。


「エリック、どこだ?」


 再びそう言って声を掛けると、ドアの反対側のベッドの陰から僅かに声がした。


「エリック」


 よかった、弟はちゃんとここにいたのだ。

 そう思って声のする方へ回ると、そこには小さくうずくまった弟の姿があった。


「エリック⁉」


 リックスは何が起こっているのか分からなかったが、弟の元に駆け寄りその肩をそっと掴んだ。


「⁉」


 その瞬間、リックスは自分の手に伝わってくるエリックの体の線の細さと《《冷え》》に驚いた。食事が喉を通らないのか、それとも食事が出ていないのかよく分からなかったが、エリックの状態が酷いことは確かだった。


「医者を呼ばないと……!」


 リックスがそう言って立ち上がろうとするのを、エリックは弱々しい力で止めた。


「待って……駄目だよ、兄上……」

「何で⁉ こんなになっているのに、医者に診てもらわないと!」


 そう言うが、エリックは首を小さく横に振る。


「父上も母上も、僕がこうなることを望んでいるんだ……」


 リックスはその瞬間、背筋に氷が伝ったかのような悪寒を感じた。

 父も母もエリックがこうなることを望んでいるって?

 そんな馬鹿なことはない、と一蹴したかったが、弟が言った言葉でハッとした。


「アルヴィス兄上が消えたから……僕は邪魔者でしかないんだよ……」

「……!」


 リックスは堪らなくなって、エリックの体を優しく包み込むように抱きしめ、その耳元で「そんなことはないからな」と強く言った。

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