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灰色の花(☆改稿版☆) ~右手に異能を持った少女の物語~  作者: 彩霞
13、リックスの過去とメレンケリ
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第87話 帰って来たとき

 リックスはその当時、寮生の学校に行っていたため家の中の状況を知らなかった。もちろん彼自身に影響がなかったわけではない。

 兄が姿を消してから、リックスも学校のなかでいじめられることもあった。しかしそれを止めてくれる人もいたし、何より絶対に彼の味方をしてくれるクディルも同じ学校にいたお陰で性根が腐ることもなかった。


 しかし、兄が消息を絶ってから初めての長期休暇になったとき、家に戻ってみると様子が変だった。今までであれば必ず出迎えてくれるはずの母は姿を現さず、リビングでは身なりを整えた父が日中にもかかわらず酒を飲んでいたのである。


「父上、只今戻りました」


 出来るだけ平然とした態度でリックスは挨拶をした。すると血走った父の目が息子を捉える。リックスは思わず身構えた。きちんとした服装をしていながら、中身は酒に飲まれている。そういう人間というのは捉えどころがなく、いつ豹変するのか分からないせいか恐ろしいと感じてしまう。


「ああ、そうか……」


 何を言われるかと思ったら、たったそれだけだった。三ヵ月ぶりに戻ってきたというのにあまりに素っ気ない。リックスは、久々の帰宅に喜んでもらえると思っていただけに内心がっかりした。


「あの、母上とエリックは――……」


 気を取り直そうとしてそう聞いただけだったのだが、スフィリスは違った。突然目に怒りのようなものを宿らせると、テーブルの上に置いてあった空になったワインの瓶を掴んでリックスに投げつけたのである。

 彼は瞬時にそれを避けるか掴むか悩んだが、後で掃除するのが面倒だと考えてパッと手に取る。父は軍人のときの怪我の後遺症で利き手の握力が子どもほどしかないので、大した速度は出ないのだ。


 リックスが造作なく瓶を掴んだのを見て、スフィリスは強張った表情から、ばつの悪そうな表情に変わる。そしてそれを隠すように彼は手で顔を覆った。


(父上も辛そうだ……)


 瓶を投げられたことに対し何も思わないわけではない。兄が消えてから父が苛立ちを隠せないでいることは知っていたので、こういうことも甘んじて受ける必要があるとは思っていたのだ。

 きっとそっとしておいた方がよいと思い踵を返したとき、スフィリスがこう呟いたのを聞いた。


「エリック……何故あの子が残って、アルヴィスがいなくなったのだ……。私のアルヴィス……」


 リックスがいることを分かっていて言ったのだろうか。それとももう行ってしまったと勘違いしたのだろうか。いや、もうそれすらも分からないくらいに酒に酔っているのかもしれない……。

 だが父がどの状態であろうとも、彼のその言葉はリックスの心を抉った。


(今のは聞き違いだ……)


 心の中で何度もそう言い聞かせながら、彼は弟の部屋へ向かった。

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