表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色の花(☆改稿版☆) ~右手に異能を持った少女の物語~  作者: 彩霞
13、リックスの過去とメレンケリ
86/88

第86話 リックスの兄、アルヴィス

 リックスは三人兄弟で、彼は二番目。兄とは三つ、弟とは五つ歳が離れているがとても仲の良い兄弟だった。


 兄・アルヴィスは、聡明で学校の成績はいつも優秀。剣術にも長けていた。才覚があり、いつもクラスの中心にいて、人をまとめるのも上手で、優しく頼れる存在。人々が憧れないわけがない。


 そんな兄のようになりたいという気持ちがあり、リックスは勉学や剣術の稽古にいそしんだ。お陰で彼も学校の成績はよく上位に入り込んでいたし、剣術は誰も彼の右に出る者はいなかった。それくらいリックスにとって兄の影響は大きかった。


 アルヴィスは高等学校を卒業すると、周囲の期待に応えるように軍事警察署に所属した。家族も親戚もそれを喜び祝ったのだが、その一年後、突如として消息不明になったのである。


国境の番人(イーガルド・フォー)」に配属されていたのなら、サーガス王国との国境線なので拉致されることもあるというし、小さないざこざが頻発しているので、それによって命を落とすということもあったのかもしれない。

 しかし、アルヴィスは軍事警察署の本部がある街・ファイレーンの警備担当。乱闘があったというなら分からないでもないが、そういうこともなく忽然と姿を消したのである。


 警備の仕事は難なくこなしていたので悩みなどなさそうだったし、仮にそうであると推定しても、家族に仕事上の相談をしていたわけでもなければ、何か言い残していたわけでもない。


 あまりにも不自然で不可解な消失に、警察署では捜索隊を編成し、一カ月に渡ってアルヴィスの足跡を追った。

 調査をして分かったことは、彼が最後に「テラー」という喫茶店に入ったこと。そこで少しだけ誰かと話したのちに一人で出て行ったということだけである。その後消息不明になったということだけで、唯一手掛かりになりそうだった「アルヴィスと話をした人物」を探すことができず、それ以外の何も分からなかった。


 もしそこで彼の所持品や最悪遺体が見つかっていたらば、何かしらの事件に巻き込まれた可能性があるとして、追加調査が行われたであろうし、家族のケアもきちんとされただろう。

 だがそれはなかった。不明な点があったことに加え、人望があったアルヴィスを目の敵にしていた人物たちが、不当な証言を正当化したのである。


 不明な点については、まず警備体制が崩れていたこと。

 本来警備は二人一組で行うはずなのに、その日はアルヴィスが一人で活動していたのである。アルヴィスと共に行動をするはずだった軍人・エノールは「アルヴィスが分かれて調査をしようと言ったので、別行動した」と証言。

 アルヴィス寄りの軍人たちは、普段から怠惰なエノールがペアを組む人物たちを困らせていたことを知っていたので、この発言が虚偽であることは分かっていた。しかし上層部が肩を持ったのは反アルヴィス派だったことから、後から自分たちに降りかかる面倒事を考え、嘘の証言が正しいと頷くしかなかったのである。


 また、アルヴィスがサーガス王国に対して偏見を持っていないことについても誇張して話がされた。

 彼は軍人でありながらもあまり戦いを好まない人物であったし、サーガス王国との交流がなくなってからのジルコ王国の経済や技術の向上問題について考えていたのは確かである。

 それが「アルヴィスはサーガス王国の肩を持っている」と言う風に捉えられ、最終的にそれが真実であるかのように流布されてしまった。お陰で「危険な思想に染まってサーガス王国へ行ったのだ」とか、「この国に尽くすのが嫌になったのだ」とかそういうことが言われるようになったのである。


 あることないこと散々噂されたことにより、父・スフィリスは酒を朝から晩まで飲むようになり、母・カレアンは鬱屈としていき、家の中が少しずつ荒んでいった。

 こういう悪い環境の中で標的にされるのは、小さくて弱い存在だ。当然、リックスの弟がそのはけ口にされたのである。


 元々体の弱かった弟・エリックは、父にとって厄介な存在だった。

 兄たちと同じ学校に入学させても体が弱くて休みがち。欠席日数が多かったことに加え、勉学に付いていけず赤点ばかり取っていたために、進級が危うかったこともある。家庭教師を呼ぶことも考えたこともあったようだが、それをするには金がかかりすぎた。


 レイダル家は代々軍人を輩出してきた家系であり、高い地位についていたこともあって、一般の市民のなかで言えば金のある方だ。それに仕事柄上流階級との交流もある。しかし貴族のように土地があってそれを管理して金を得ているわけではないので、毎日のように家庭教師を呼ぶことは難しい。


 仮にそれを実現できたとして、エリックに将来性があるかどうかを考えたとき、体が弱くて勉強の出来ないエリックに金をかけるのは無駄であると判断したくらいである。

 それでも長男のアルヴィスが活躍してくれていることで、エリックに対する態度は熱心ではなかったもののこれといって問題はなかった。兄が弟の傘になっていたのである。それがアルヴィスが消息を絶ち、あらぬ噂が立つようになると状況は変化した。


「何故お前は剣もまともに振るえないのか」

「ちゃんと学校に行ってくれ!」

「お前がもう少しまともだったら……!」


 エリックを罵倒することが、苛立ちや腹立たしさのはけ口になってしまったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ