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第85話 提案

(「グイファスに会わせろ」か……。予想していた条件ではある)


 グイファスとゼンを会わせることは簡単だ。だが、グイファスの本当の目的を知りたがっている上層部は彼が動くのを待っている。前回はまじない師の元へ向かったので、まじないを使ってもらい難を逃れたが、グイファスがゼンと接触することで二人が捕まったとしたら、今度こそリックスでもどうにもできなくなってしまう。


(グイファスには会わせられない。だったら――)


 リックスは首を横に振ると「残念だが、それはできない」と答えた。ゼンはじっとリックスを見ると、ふいっと視線を逸らす。


「じゃあ、この話はなかったことになるな」


 そう言って立ち上がろうとしたゼンに、「話はまだ終わっていない」とリックスは得意そうな表情を浮かべて言った。


「『封印の石』の代わりについて、話すと言っただろう。聞く気はないか?」


――———


「ふう……」


 ゼンが部屋から退室して帰ると、リックスは椅子の背もたれに体重を預けた。

 交渉は何とか成立。明日の夜、この場所で「封印の石」の代わりになる物のことをゼンが実際に確かめることになったのだが、詳しい説明は彼が嘆願書を持ってくることとの交換条件にした。つまり、ゼンとメレンケリが直接会うことになる。


 彼女はグイファスの監視役をさせられているが、夜の監視は別の者がしている。さすがに一日中、それも何日間も囚人の監視をさせていたら気が滅入ってしまうと上も思っているのだろう。


「少し疲れた」

「お疲れ様」


 労ってくれる親友に視線を向けると、クディルは「どうしたの?」と新しく淹れ直してもらった紅茶を飲みながら問うた。


「怒っているかなと思って」

「どうして」

「メレンケリを交換条件に使ったこと」


 リックスはゼンとの交渉に、メレンケリを使った。

 グイファスと彼を会わせることはリスクしかない。ではそれ以外なら何がゼンと取引できるのかと言ったら、作戦の根幹である彼女しかいなかったのである。

 

「それは僕が決めることじゃない。それに、ちゃんと彼女に許可は取ってあるんでしょう?」


 クディルがさも当然のように聞くので、リックスはふっと笑い「まあね」と言った。それについてはアッサムやセシルたちと話し合ったあとに確認済みである。

 交渉のカードとなる可能性があることをお願いしたとき、意外にもはっきりと「そうなった場合は、やります」と言ったので大丈夫だとは思ってはいたが、使わなくて済むなら使いたくなかったという気持ちもあった。

 それをクディルは察してか、「だったらいいと思う」と言った。


「きっと彼女もこの先に進みたいと思っているだろうから」


 サーガス王国との協力体制が出来れば、自ずとメレンケリもそれに参加することになる。危険は伴うだろうが、大蛇と対峙し結果的に呪いを解くことができれば、少なくとも右手に宿った能力のことを中心にした生活をしなくて済むようになる。それに関しては、シェスカもクディルも心から望んでいることだった。


「そうか……」

「そうだよ」


 クディルはカップをソーサーに戻すと、ふっと笑う。


「リックスは優しいね」

「優しくしたい人にだけ優しくしているのさ。俺は誰にでも気を利かせるような人間じゃない」

「気遣いばかりしているのに?」

 するとリックスは頬杖を付いて、クディルの顔を覗くように見上げる。

「そう思っているのはお前だけだよ」

「そんなことないと思うけど」

「いいんだ。分かって欲しい人に分かっていてもらえれば」


 そう言って新しく淹れ直した紅茶を一口飲む。


「メレンケリは……俺の弟によく似ている」

 遠い目をしながら呟く友に、クディルは小さく頷いた。

「君にとって彼女は守りたい存在だからね」

「ああ」


 リックス・レイダル。

 その名にある「レイダル家」は、代々軍事警察署に所属する軍人を輩出している家系である。リックスの家は直系ということもあり、彼の両親はもちろん、親戚たちも軍人が輩出されることを期待していた。

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